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旧司法試験 刑法 平成16年度 第2問


問 題

甲は、Aとの間で、⾃⼰の所有する⾃⼰名義の⼟地を1000万円でAに売却する旨の契約を締結し、Aから代⾦全額を受け取った。ところが、甲は、Aに対する所有権移転登記⼿続前に、Bからその⼟地を1100万円で買い受けたい旨の申⼊れを受けたことから気が変わり、Bに売却してBに対する所有権移転登記⼿続をすることとし、Bとの間で、Aに対する売却の事実を告げずに申⼊れどおりの売買契約を締結し、Bから代⾦全額を受け取った。しかし、甲A間の売買の事実を知ったBは、甲に対し、所有権移転登記⼿続前に、甲との売買契約の解除を申し⼊れ、甲は、これに応じて、Bに対し、受け取った1100万円を返還した。その後、甲は、C銀⾏から、その⼟地に抵当権を設定して200万円の融資を受け、その旨の登記⼿続をし、さらに、これまでの上記事情を知る⼄との間で、その⼟地を800万円で⼄に売却する旨の契約を締結し、⼄に対する所有権移転登記⼿続をした。
甲及び⼄の罪責を論ぜよ

関連条文

刑法
54条(第1編 総則 第9章 併合罪):
 一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理
60条(第1編 総則 第10章 累犯):共同正犯
65条(第1編 総則 第11章 共犯):身分犯の共犯
246条(第2編 罪 第37章 詐欺及び恐喝の罪):詐欺
252条(第2編 罪 第38章 横領の罪):横領

一言で何の問題か

財産罪の既遂時期、不可罰的事後行為、真正身分犯

つまづき、見落としポイント

二重譲渡がバレて解除された、抵当権を設定して売却もした

答案の筋

Bに対する登記移転は行われておらず、所有者でなければできない処分を認めることができないため、横領罪は成⽴しない。また、Bが仮に登記移転を受ければ所有権を取得できる以上、損害は発⽣しないため、詐欺罪も成⽴しない。一方、Cのために抵当権を設定して融資を受けたことに横領罪および詐欺罪が成⽴する。さらに、この⾏為とその後の売却⾏為は、担保権の負担と所有権の喪失という権利侵害の性質に差がある以上、違法性が評価され尽くしているとはいえないため、別途横領罪が成⽴する。
乙については、⾮⾝分者も⾝分者を利⽤することにより⾝分犯の法益を侵害することが可能であるから、Aをことさらに害する意図が認められるなどの事情がある場合は、甲とともに横領罪の共同正犯となる。

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