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司法試験 予備試験 民訴法 平成23年度


問 題

次の事例について、後記の設問に答えよ。
【事例】
Xは、請求の趣旨として「被告は、原告に対し、150万円を支払え。」との判決を求める旨を記載するとともに「原告は、被告との間で、原告が被告に中古自動車1台を代金150万円で売り渡すという売買契約を平成21年1月15日に締結し、同日、当該自動車について、所有者の登録を被告名義に移転するとともに被告に引き渡した。よって、原告は、被告に対し、売買代金150万円の支払を求める。」との主張を記載した訴状を平成22年4月1日に地方裁判所に提出して訴えを提起した。その訴状には、被告として、甲市乙町5番地に住所のあるYの氏名が表示され、かつ、被告の法定代理人として、同所に住所のある成年後見人Zの氏名が表示されていた。
この訴えについて、裁判長は、平成22年4月5日、第1回口頭弁論期日を平成22年4月28日午前10時と指定し、裁判所書記官は、この訴状を送達するため、訴状副本を第1回口頭弁論期日の呼出状とともに、Z宛てに郵送した。
ところで、Yは、甲市乙町5番地の自宅に子であるZとともに居住していたが、平成21年3月に重病のため事理を弁識することができない状態となり、同年6月にYについて後見開始の審判がされて、それまでに成年に達していたZが成年後見人に選任された。そして、Yは、平成22年4月3日に死亡した。Zは、Yが死亡したことを同日に知ったが、その後3か月以
内に相続放棄や限定承認の手続をしなかった。Yの配偶者はYより前に死亡しており、ZのほかにYの子はいなかった。
Zは、平成22年4月7日に、甲市乙町5番地の自宅で上記の訴状副本と口頭弁論期日呼出状を受け取った。Zは、Yが死亡したことを裁判所やXに知らせることなく、Yの法定代理人として第1回口頭弁論期日に出頭し、「Xが主張する売買契約を否認し、請求の棄却を求める。」旨を答弁した上、訴訟代理人を選任することなく訴訟を追行した。第一審では、Xが主張する売買契約があったかどうかが争点となり、証拠調べとしてXの尋問とZの尋問とが実施され、Zは、「Yは重病で動けない。私は、平成21年1月当時も現在もYと同居しているが、Yが自動車を買ったと聞いたことはないし、そのような自動車を見たこともない。」旨を述べた。
裁判所及びXがYの死亡を知らないまま、第一審の口頭弁論は平成22年9月に終結され、裁判所は、判決書の原本に基づいて判決を言い渡した。判決書には、原告X、被告Y、被告法定代理人成年後見人Zとの記載があり、主文は「被告は、原告に対し、150万円を支払え。」というものであって、その理由としてXが主張する売買契約が認められる旨の判断が示されていた。
Zは、第一審の判決書の正本の送達を受けた日の2日後に、控訴人をZと表示した控訴状を第一審裁判所に提出して控訴を提起した。その控訴状には、「Yは、平成22年4月3日に死亡していた。その他の主張は、第一審でしたとおりである。」との記載がある。第一審裁判所の裁判所書記官は、控訴裁判所の裁判所書記官に訴訟記録を送付した。

〔設問〕
Yが平成22年4月3日に死亡していたと認められる場合、控訴審では、どのような事項について検討し、誰と誰を当事者としてどのような内容の裁判をすべきか。

関連条文

民訴法
2条(1編 総則 1章 通則):裁判所及び当事者の責務(信義則)
4条1項(1編 総則 2章 裁判所 2節 管轄):
 普通裁判籍による管轄(被告の普通裁判籍の管轄)
28条(1編 総則 3章 当事者 1節 当事者能力及び訴訟能力):原則
124条1項1号(1編 総則 5章 訴訟手続 6節 訴訟手続の中断及び中止):
 訴訟手続の中断及び受継(当事者の死亡)
211条(2編 第一審の訴訟手続 4章 証拠 3節 当事者尋問):
 法定代理人の尋問
257条1項(2編 第一審の訴訟手続 5章 判決):更正決定
302条1項(3編 上訴 1章 控訴):控訴棄却
305条(3編 上訴 1章 控訴):第一審判決が不当な場合の取消し

一言で何の問題か

訴訟承継と信義則違反を伴う控訴

つまづき・見落としポイント

当事者確定基準、訴訟係属の時期など論点から回答を導き出す

答案の筋

Zが控訴を提起しているが、当事者として確定していいのか:当事者Y
⇔そもそもYは訴訟係属前に死亡:不適法却下
 ⇔訴訟不経済・信義則違反:当然承継類推によりZの控訴OK
∴Z→Xを当事者として新たな事情がなければ控訴棄却判決をすべき

本件では、控訴審が検討すべき事項として、Zが控訴人として第1審判決の効力が及んでいるか、Yの死亡を主張するZが適法な被告か、第1審判決がZに適用されるか、控訴審での判断基準が挙げられる。本件訴状では、被告はYとされており、潜在的な訴訟係属があったといえる。また、Zが唯一の相続人であり、法定代理人として訴訟追行していたため、手続保障が及んでいたとされる。控訴審では、Zを控訴人、Xを被控訴人として扱うべきであり、本件控訴は適法である。控訴審は、新たな事情があるかどうかを検討し、認定した場合は第1審判決を取り消し、新たな事情がなければ控訴を棄却すべきである。

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