見出し画像

羽田空港事故に想う

昨年後半、普段から頭上を伊丹へ降下してゆく飛行機を見上げる場所で勤務するようになって、急速に飛行機に興味が湧くようになった。

そして、伊丹空港ライブカメラを見るようになり、管制官とパイロットのやり取りをエアバンドといわれる無線で聞くようになった。

毎日見るようになり、聞くようになって、交信の中身を理解できるようになった。

面白い。

管制官も早口なベテランさん、ぎこちない新人さん、クールな女性、ユーモラスなおじさん、色んなキャラが居る。
パイロットも、妙にネイティブじみた発音で格好付ける?人もいるし、丁寧に復唱する人もいる。とても人間味溢れるモノだ。

それまで新幹線で上京していたが、早めに予約すれば同等の価格で往復出来るのもあり、飛行機を使うようになった。

昨年11月、初めて夕方ラッシュの羽田から、エアバンドを聞きながら離陸した。スポットから出て離陸するまで25分掛かった。話には聞いていたが、羽田の過密さには圧倒された。送り出す管制官の方も、飛び立つパイロットの方も、苦労は如何許りか?実感した。

そんな中、のんびりしていた正月、たまたまチャンネルを換えた時、その映像を見て反射的に「あーー?!」と声が出てしまった。

JAL機が燃えている!

生中継、ブレイキングニュースと出ている。18:05くらいだったと記憶している。正月二日だ。翌々日の仕事始めを控えたこの日だから、空港の、そして機内の大混雑は簡単に想像出来る。

真っ先に思ったのは、この事故による影響の大きさの方だったのは、普段から飛行機の様子を観察してきたからだろう。あの火だるまでは、乗客乗員は助かるまい。そう思った。

そのうち、VTRで第二ターミナルのリモコンカメラからの接触炎上時の映像が出てきた。エグい火柱だ。火に包まれたA350が、滑るように左へフレームアウト。画面右上にはもう一つの火の塊が残っている。つまり、滑走路上で何かと接触したのだ。まさかそれがボンちゃんだとは。。。

この日本で同一滑走路上で飛行機同士が衝突するなんて、それも、日本を代表するマンモス空港『羽田』でだ。

パイロットも管制官も一流の筈だもの。
アレだけの過密ダイヤの中、仕事してるプロたちだもの。信じられなかった。

そうこうしてるうちに、JAL機の炎が大きくなり、機体を包み込んでしまった。

絶望的に生中継を見ていたら、乗客乗員は全員無事との速報が。良かった〜。素直に喜んだ。

しかし、海保機側は、機長は救出されたが5人は行方不明だと(当時)。

しかし何故だ?

不思議だった。

何度も再生される衝突映像を見るに、タヌキさん(A350)は着陸し真っ直ぐ進んでいる。つまり滑走路からは逸脱していない。誘導路から曲がり待機していたボンちゃん(ボンバルディア海保機)を引っ掛ける訳が無いのだ。

早く交信記録が聞きたいと思った。

程なく、YouTube上に(本来NGだが)何処かのマニアが音声をUPした。

やはり大混雑。頻繁に各離着陸機と管制官は早口で交信している。しかし。。。異常は無い。通常通りだ。異常が出るのは事故直後、別滑走路待機機からの火柱を目撃した報告と、当該JAL機の後方機へのゴーアラ(ゴーアラウンド=着陸やり直し)指示、その後の空港閉鎖の指示。

不思議だった。

何故海保機は34Rへ進入した?

▪️交信と飛行機の動きのキホン

まだ自分も飛行機に興味を持ち始めて僅かなので間違ってたらごめんなさい。

飛行機の運行というのは、交信のリレーの中で成り立っている。
離陸から着陸まで、簡単になぞってみると。。。

⚫︎乗客の搭乗が完了し、ドアが閉められたら、まず、P(パイロット)からグラウンド(地上)担当管制官に「リクエスト・プッシュバック」の呼び掛け。

飛行機は自らバック出来ないから、前輪に噛ませた四角いクルマで後ろに押し出す(プッシュバック)必要がある。先ずは車庫から自宅前の道にバックで出るイメージだ。

管制官からプッシュバックの許可が出て初めて飛行機は動き出せる。

⚫︎次に、Pから「リクエスト・タクシー」の呼び掛け。タクシングというのが地上走行のこと。つまり、バックが完了したので、前進させて下さいって事だ。

飛行機は、駐機場所から出ると、誘導路を進行して滑走路へ向かう。大きな空港になれば、複数の誘導路が有るから、グラウンド担当管制官は、他の離着陸機の通行を考慮して、誘導路進行ルートを指示し、許可を出す。

伊丹の場合、ターミナルビルに近い方からE、C、Wとそれぞれ誘導路に名前が付く。イースト、センター、ウエストの頭文字らしい(あくまで伊丹の場合の語源の一説)。羽田事故でよく出てくるC-5という言葉。C誘導路の5番出入口という意味だ。チャーリーファイブと呼ぶ。

航空業界では、アルファベットをそのまま読まない。TとCなど、聞き間違いを防ぐ為だ。Eはエコー、Cはチャーリー、Wはウイスキー。数字はそのままだが9だけはナイナーと呼ぶ。

今回の事故機JAL516便なら、ジャパンエアー・ファイブ・ワン・シックスと呼ぶ。ファイブハンドレッドシックスティーンとは呼ばない。

脱線したので戻します。

⚫︎タクシングで誘導路を進んだら、担当管制官が交代になる。周波数も変わる。グラウンドからタワーへ。
タワーは離着陸を直接司る。一人で着陸機の安全を見守りながら、離陸機のコントロールもする。

基本、離着陸は、着陸機が優先だ。
着陸機が近づいている場合は、離陸機を待たせる。ホールドという。
混雑してると、先頭から「ユーアーナンバーワン」「ユーアーナンバーツー」という感じで順番も添える。

プッシュバック時、タクシング時はPから呼び掛けたが、この時点では管制官が呼び掛け、それをPが復唱する事でミスを防ぐ。

ホールディング・ショート・ストップ@ウイスキツー。伊丹でよく聞く。

着陸機が着地して、あっという間に滑走路の先へ去ると、管制官から離陸機へ、滑走路への進入許可が出る。

ラインナップ&ウェイト。

滑走路の目印に停止して離陸許可を待てという事。この時点では、まだ滑走路先から着陸機が離脱してないのだ。
羽田のように滑走路が複数有る空港だと、交差する滑走路で離着陸が行われている場合も、この指示が出る。

伊丹でも、並行すること滑走路での離着陸が有る場合、この指示が出る。

滑走路は大前提として1機の飛行機しか進入出来ない。だから、クリアになった時点でやっと離陸許可が出る。

クリアード・トゥ・テイクオフ。

この時点でやっとこさ、離陸が可能になる。

その後は、管制がタワーからディパーチャーに引き継がれる。離陸した飛行機が空港周辺を飛ぶ間を受け持つ。
高度を上げ、巡航の高度に近づくとコントロールへ引き継がれる。

イメージとしては、自宅の車庫を出て町中の細道までがグラウンド。1本目の信号から2車線道路に出て高速に入るインターチェンジまでがタワー。インターから高速の本線までがディパーチャー。本戦上がコントロール。そんな感じ。

着陸時も同じ。コントロールからアプローチ、タワーと引き継がれ、着陸後にグラウンドが締める。

ちなみにコントロール担当でも、次々周波数は換えられる。だって地上のアンテナが届く範囲に限界があるから。まぁそこは今回の件とは別なので割愛。

▪️40秒の停止

昨日(1月4日)の段階でこんな記事が。

今回の事故、交信に異常が無かったという事は、勘違いした可能性が高まった。

ウェイティング・ショート・ストップ@チャーリーファイブ。

だけだと、間違いようが無いが、そこに管制官は、

ユーアー・ナンバーワン。を添えていた。

単に並んでる飛行機(※実際はC-5より先のC-1に数機待機していた)の中で一番に離陸しますよ〜という順位の案内だったが。

推測でしか無いが、一番という事は自分たちが真っ先に「動ける」と勘違いしたのでは無いか?

通常、交信担当はコーパイ(副機長)だ。多忙な夕方ラッシュ時、早口で交わされる交信を聞き取れなかった機長が「なんて言ってた?」と副機長に聞いたとする。「ウチがナンバーワンですって」「そうか」と、C-5から進入したとしたら?

そうすると、40秒の停止も理解出来る。

通常、離陸許可=クリアード・トゥ・テイクオフが出ない限り、離陸機は停止して待機するのは先述の通り。

つまり、実際交信していない機長は、てっきり「ラインナップ&ウェイト」だと思い込んでいたと。



普段、伊丹の交信ばかり聞いている自分も、今回、羽田の交信を聞いてみたが、なんとも目まぐるしい。管制官も早口だ。日々離着陸して慣れている旅客機のPならまだしも、日中の空いてる隙間しか離着陸してない(つまり慣れてない)海保機だと、そのスピード感についていけなかった部分もあったかもしれない。

また、海保機は、能登地震の支援の為に新潟基地と羽田を頻繁に往復してたという。疲労も有っただろう。また緊急時の使命感、先へ急ぐ気持ち、また「ナンバーワン」という表現から、周囲からの気遣いさえ感じていたかも知れない。

全ては推測でしか無いが、様々な複合要素が絡まった悲劇に思えてくる。


まずは殉職された海上保安庁の職員の皆さんのご冥福をお祈りします。

そして、再発防止の為に新年早々調査などで多忙を極めている関係各機関の皆さんにお疲れ様を言いたいと思います。


素人なりに再発防止の提案をしたい事は色々あるけど、それは、調査結果が出てからにしておきます。

⚫︎追加補筆⚫︎

普段から楽しんでるYouTubeチャンネルで興味深い動画がありました。

離陸許可が出たタヌキさん(A350)が離陸中止して滑走路から離脱するまでの様子、それぞれが的確に対応してる様子です。プロの冷静、的確な対応が日頃から行われてる事が分かります。

今回の件で飛行機利用を敬遠する方も出てくるでしょうが、信頼して頂ければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?