2020年度の静岡県作業療法学会教育講演抄録の草稿

人と社会を紡ぐ作業療法
~障害の個人モデルから障害の社会モデル・人権モデルへ~


講演では、次の3点について話をさせて頂きたいと思う。
 1点目が、障害の個人モデル偏重の作業療法・リハビリテーションの問題、2点目が、療法士の「障害受容」の使用法について、3点目が、障害の社会モデル・人権モデルの作業療法・リハビリテーションについて、である。
 1点目について。講演者は、障害のある人の就労支援の在り方を研究した際、「能力主義」「障害価値」の視点から分析することにより、それらの関係軸から作業療法・リハビリテーションを俯瞰できた。それは「障害の個人モデル」偏重(障害のある本人の改善を目指す視点)の対象者理解の上に、「能力価値」に重きを置くあまり、「障害価値」を否定的に位置づけ、障害のある人の「働きたい」という願望を「障害理解・認識ができていない」とし、社会的排除を容認してしまうというものだった。
そうした作業療法・リハビリテーションは歴史的にみるとどのように生成されたのだろう。今後はそのことに関心が向いた。作業療法・リハビリテーションの歴史を調べてみると、作業療法・リハビリテーションの目的は、ADL自立からQOL向上に変容しているものの、先に述べた、「障害の個人モデル」偏重の対象者理解や、「能力価値」の重視には大きな変化がないことがわかった。
 2点目について。そのことを裏付けるものとして「障害受容」という言葉の使用がある。講演者が療法士として働き始めた頃、周囲の支援者が「(対象者の)障害受容ができていない」と自然に用いており、違和感を抱いた。なぜならその言葉の背景に療法士の都合を優先しているかのような印象を持ったためである。そこで療法士はどのように「障害受容」を用いるかを調査した。結果から、療法士自身、「障害受容」をそのように用いることは、対象者を否定するかのようで抵抗感を感じつつ、自身が培った専門的な知識や技術を最大限活用しようとして、図らずもそのように用いていたことがわかった。しかしそれは上述のように、障害のある人の「働きたい」という願望を打ち消す用い方であり、裏を返せば、人と社会を紡げない、障害に対して否定的な支援のあり様を浮かび上がらせるものだった。
 3点目について。近年は、まだまだ不十分ながら、障害の社会モデル(社会や周囲の改善を目指す視点)・人権モデルに基づいた作業療法・リハビリテーションの在り方を検討したりしているので、最後にその知見を紹介したい。1点目として、最近の「障害受容」の使用状況の研究結果を紹介したい。現在調査中であるが、使用状況が明らかになれば、近年の支援モデルの傾向を報告できる。2点目として、認知症の人への作業療法では、イギリスやスコットランドにおいて、パーソン・センタード・ケアや人権ベースのリハビリテーションが提唱され、実践されるようになってきたため、その紹介を行いたい。3点目として、近年作業療法分野でも注目されている「社会的公正」や「作業的公正」という考え方について、作業療法にどのように活かせるのかについて私見を述べたい。

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