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臨床作業療法NOVA2021年3月号:序文「当事者性と専門性の邂逅」

    下記は田島が責任編集の『臨床作業療法NOVA』2021年3月号:「当事者」と作業療法ー障害や病の当事者経験から学ぶ力を鍛えるーの内容紹介(序文)です。雑誌へのご関心とご一読を賜れましたら大変幸いです。 

 本雑誌の企画者である田島は、『日本における作業療法の現代史―対象者の「存在を肯定する」作業療法学の構築に向けて』(生活書院)を2013年に出版した。現代史を振り返ると、作業療法が国家資格化した1965年以降、日本におけるリハビリテーション、そして作業療法の歩みは、当初は、治療的観点の強い医学モデルを中心とした、医療者が患者の利益を慮り対象者の意向を重視せずに医療を行うといったパターナリズムが優勢であったが、現在では、医療倫理としても自律尊重やインフォームド・コンセントが重視されている。作業療法士であるギャリ―・キールホフナー氏が開発した人間作業モデルやカナダ作業療法士協会によるカナダモデルでは、クライエント中心主義が提唱されており1、2)、対象者は作業療法を行ううえでの協業者と位置づけている1,2)。それらは日本の作業療法にも大きな影響を与えており、現代は、日本においても対象者との医療コミュニケーション3)を重視した作業療法の展開が当たり前のものとして要請されている時代といえよう。

 パターナリズム優勢の時代には、「障害受容(ができていない)」と対象者のリハビリテーションに臨む姿勢(意欲のなさや指示に従わない等)を問題視する作業療法士の発言にも違和感は生じづらかったかも知れないが、医療コミュニケーションを重視する現代にあっては違和感を抱く作業療法士も少なくないのではないかと考えられる。つまり今、この時代は、作業療法の世界に大きなパラダイムシフトを生じさせている只中にあると私はとらえている。

 それでは今後、作業療法はどのように変化していくのだろうか、「その奥行を確かめたい」との思いから本雑誌の企画をした。上述からもわかるように、もっとも重要な視点は「当事者性と専門性の邂逅(かいこう)」にあると思われる。近年、当事者経験についてまとめられた書籍や当事者研究が話題となっている。当事者研究については本雑誌における『「療法士の当事者研究」について』でも紹介するが、それらは自らの当事者としての経験に自らの実感に即した言葉を付与する営みであり、リハビリテーション医療における専門知や実践知に対して再考を迫るものとなっている。作業療法は医療領域のなかでも当事者性をより重視した臨床実践学であり、そうした動向にどのように応答できるかが問われていると思われる。当事者の経験(当事者性)から学び、作業療法の在り方(専門性)を考えることがこれまで以上に求められていると感じる。

 本雑誌では、こうしたパラダイムシフトの一端を明らかにするために、第一章では、「障害受容」について現在の作業療法士がその言葉をどのように受け止め、臨床に向かっているかを紹介する。第二章では、障害や病の経験を持つ作業療法士に、ご自身の障害や病の経験を基にした作業療法の問題点や課題について寄稿をして頂いた。また、パラダイムシフトの只中にいる私たちが、自身の足場をしっかり踏みしめつつ柔軟に対応できるようになるために、作業療法士としての自身を内省的に捉えなおし、凝り固まった考えや思いを自由にする方法が必要であると考えた。そこで第三章では、私が知る範囲ではあるが、作業療法士としての自身の振り返りが可能となる機会や作業療法の捉え直しになるような実践の紹介をした。最終章では、変化する作業療法の未来形として、多様な〈生〉が肯定的に生きられるようなコミュニティや社会を創成する、作業療法士による近年の取り組みを紹介している。

〈文献〉
1)Renée R. Taylor編著(山田孝監訳)2019『キールホフナーの人間作業モデル』協同医書出版
2)エリザベス・タウンゼント/ヘレン・ポラタイコ編著(吉川ひろみ/吉野英子監訳)2011『続・作業療法の視点-作業を通しての健康と公正-』大学教育出版
3)野口裕二2016「医療コミュニケーションの変容-平等化と民主化をめぐって-」『保健医療社会学論集』27‐1:3‐11


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