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作品構成についての研究3

前回はこちら

これまでの考察で「三幕構成」を基本として考えているが、よく考えたら私は、肝心のベーシックな三幕構成についてよく知らなかった。まずは参考文献を読んでしっかり理解する必要があるのだが、そんなスマートなアプローチをしていいのは平成以降の連中だけだ。昭和おじさんはこんな時、特攻隊よろしく体当たり攻撃をしなければならない。
だからテスト用に三幕構成作品書いてみた。一応wikiは参照した。


三幕構成桃太郎

【第一幕】
(誕生:オープニング)

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裂帛の気合と共に振り下ろされた婆さんの包丁は、桃を真っ二つに切り裂きまな板に食い込んだ。手応えが、有った。確かに有った。やがて桃は包丁からゆっくり離れてゆき、左右に別れ転がった。桃の中には真っ二つになった赤ん坊の死骸があった。
「しまった。こう血まみれになっては折角の桃も台無しじゃ」、婆さんはため息をついて桃と赤ん坊の死骸を桶に入れ、外に出た。畑の向こう側、肥壺まで行って桃と死骸を捨てた。戻ってきた婆さんはまな板を洗い、ふたつ目の桃を据えた。
先程川から拾ってきた桃である。二つも運ぶのは大変だった。大きい方の処理には失敗した。今度のは少し小さいがぜひとも甘い桃を食べたい。
ゆっくりと包丁を入れてゆき、やがて桃のさねと思しき物に行き当たる。ここだ。婆さんはそろりそろりと包丁を動かして、さねを少しずつ割っていった。
割れた。中から生きた赤ん坊が出てきた。慎重に刃を動かしたつもりだったが、額を少し切ってしまったようだ。少し血が滲んでいる。しかし赤ん坊は元気よく泣いている。女の子だったら気の毒だが、男の子のようだからまあよい、名前は桃太郎としよう。桃次郎では自分の失敗が明らかになってしまうから。

(育成・傷:インサイド・インシデント)

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やがて桃太郎は成長した。強く大きく優しい少年になった。時々額の傷を気にしていた。お爺さんとお婆さんから愛され、桃太郎も彼らが大好きだった。しかしお爺さんは体調を崩して寝込むことが多くなり、お婆さんの表情はだんだん暗くなっていった。食事の量は徐々に減った。一家は困窮していた。ある日桃太郎は言った。
「僕は少し旅に出てくる。この家の食べる量を減らせるし、外で食べ物を手に入れて持って帰ってくるよ」
お爺さんとお婆さんは、すまなそうな顔をした。

(旅立ち:ターニングポイント1)

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翌朝桃太郎が旅立つ時、お爺さんは刀ときびだんごを渡した。
「気をつけてな。なにかあったらすぐ帰ってゲホゲホゲホ」
「お爺さんありがとう。お婆さん、かならずお土産持って帰るからね」
桃太郎は太陽のように明るく笑って旅立った。しばらく歩いて振り返ると、爺さんと婆さんが腰をかがめて家に入ろうとしていた。弱々しく見えた。桃太郎は寂しくなった。

【第二幕】
(村と猿鳥犬:ピンチ1)

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峠を超えると村が見えてきた。昨年来た村だ。様子が変わっていた。静かで豊かな村だったのに、今はそうぞうしかった。屋根の上に人が居た。大声で喚いていた。両手に白いものを持っていた。よく見えないが握り飯か餅なのだろう。屋根の下の人が上の人を罵っていた。ほかに十名ほどが家の周りにいて、皆泣きわめいていた。全員ガリガリに痩せていて、着ているものもボロボロだった。桃太郎は道のはしっこを早足で歩いて、村を通り過ぎた。

次の村は反対に静かだった。来たことがない村だった。静かすぎた。人がいない気がした。窓から家の中を伺ってみた。まるで気配がなかった。大きな家の前で大声で挨拶してみた。だれも答えなかった。人々は空に蒸発したかのようだった。桃太郎は村を立ち去った。

三番目の村も静かだった。かすかだが人の気配がした。悪い臭いがした。そっと家の中を覗いてみた。死体があった。目を開き歯をむき出しにした顔で死んでいた。目はこっちを見ている。桃太郎は怖くなった。突然男が現れた。背中を丸めて口を開いて、よだれを垂らしながら歩き、桃太郎を見つけると低い唸り声をあげて素早く逃げていった。ここにいては危ない。桃太郎は村を離れた。

林の中に来た。日は傾いている。そろそろ腰を下ろそうとしたとき、桃太郎は周りから攻撃を受けた。敵の正体はわからず、刀を抜く暇もなかった。鞘のままでやみくもに振り回した。敵たちはあっけなく倒された。猿と雉と犬だった。三匹ともガリガリに痩せこけていた。猿は言った。
「俺達の敗けだ、俺達を食え」
桃太郎は大声を上げた。
「馬鹿を言え、食うわけないじゃないか。ほらこのきびだんごをお食べ。飢饉も疫病もひどいようだけど、みんなで頑張ろうじゃないか」
猿は泣きながら食べた。犬は食べた後桃太郎に擦り寄ってきた。雉は涙声で言った。
「ありがとうございました。命を助けていただきました。この近くに、鬼が島というところがあります。島といっても干潮の時には歩いて渡れます。そこには食べ物と、金銀財宝があります。でも私達の力では攻めても勝てないのです。貴方様といっしょなら勝てると思います。家来になります。一緒に行きましょう。全部私達のものにしましょう」
ああ、彼らはお爺さんやお婆さんのような、優しい人と一緒に居たことがないんだな。桃太郎は彼らがかわいそうになった。
「いや、人を傷つけたり、人のものを取ったりするのはよくないことだよ。でも僕も食べ物がないのは一緒だ。だからみんなで鬼ヶ島に行って、少しわけていただこう。大丈夫、話せばきっとわかってくれる」
ケモノたちはしばらく意味がわからなかったようだが、やがてわかりましたどこまでもついてゆきます、と言ってくれた。

(鬼ヶ島到着:ミッドポイント)

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鬼ヶ島は豊かだった。大きなのぼりが数本立てられ、魚、野菜、果物がまとまって置かれていた。そこだけ飢饉も疫病もないかのようだった。出てきた鬼たちは予想に反して小柄で、猿よりは大きく、婆さんよりは小さかった。顔は赤かったが、華奢な体つきをしていた。金棒は持っていなかった。
桃太郎一行の要望を聞くと彼らは、それはそれはさぞお困りでしょう、事情は承知いたしました、出来るだけご要望にお答えいたしますので少しお待ち下さいと言い、柔らかくお辞儀をした。
「ほらごらん、話せばわかってもらえるじゃないか。確かに顔は赤いが、とても品が良い。彼らは豊かだからこんなに品がよくなるんだ」
通り過ぎてきた荒廃した村を思い出しながら桃太郎は猿たちに言った。猿が反論した。
「しかしこの島に来て無事に帰ったものは居ないそうです。かならずなにか仕掛けてきます」
犬がさらにそれに反論した。
「いや、この島に来たものは宝をもらえるのだ。だからこそ他の人には嘘をつくのだ。みんなそんなものだ。ただし宝をもらえるのは十度に一度で、九度は誰もいない。普段は鬼も人も居ない島だそうだ」
雉がくちばしを入れた。
「実は空から見ると時々この島に船が来ていることがあります。鬼たちはこの島に居着いているのではないかもしれません」
やがて鬼が戻ってきた。優しい表情で言った。
「私共には食べ物が大きな袋で三袋、金銀財宝が小さな箱で一つあります。自分たちで食べる分も必要ですから、食べ物一袋、財宝を手でひとつかみ差し上げます。それでよろしいでしょうか?」
「勿論です。ご親切にありがとう」桃太郎は顔を輝かして答えた。
「では準備いたしますので、そちらの洞窟でしばらくお休みください。中には食べ物を用意してあります。準備でき次第お声掛けいたしますので」

(洞窟:ピンチ2)

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洞窟の中にはきびだんごとは比較にならないご馳走があり、お酒も少しあった。一行は夢中で飲み食いした。満腹と慣れないお酒で眠ってしまった。

突然大地が揺れた。皆目を覚ました。揺れはすぐに収まった。真っ暗だった。猿がきいきいとわめいた。
「それ見ろ、閉じ込められた。連中が仕組んだんだ。おれたちゃここで生き埋めだ」
犬は吠えた。
「あの野郎、生きて出れたら喉笛噛み切ってやる、嘘つき野郎」
雉は悲しげ鳴いた。
「だめですだめです、出口が完全に塞がれています。やられたやられた。万一外に出れても、連中はもう逃げてしまっていますよ」

(内面の旅:ターニングポイント2)

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桃太郎は呆然としていた。なにも考えられなかった。するとなにかが桃太郎の額の傷に触れた。人間の手のようだった。桃太郎より少し大きな人だった。その人に触れようと桃太郎は手を伸ばした。その手は洞窟の壁に触れた。壁は柔らかい土だった。桃太郎は最初は手で、次に刀で壁を掘っていった。やがて額に触れていた誰かの手が消え、人のおでこが自分のおでこにコツンと当たる感触があり、その感触もすぐに消えた。穴が空いた。

【第三幕】
(脱出:スタンドアップ)

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穴からはきれいな空気の匂いがした。暗闇の中で手下たちは事態を悟った。穴が少し大きくなると、桃太郎を押しのけるように雉が割り込んできて外に出た。もう少し大きくなると猿が飛び出した。犬はさんざん苦労した末に外に出た。体の大きな桃太郎が出れたのはさらに後だった。外は月の夜だった。
外に出た桃太郎は、喧騒を聞いた。急いで駆けつけると、手下たちが狼藉をはたらいていた。犬が鬼の足に噛み付いていた。猿が首根っこにかじりついていた。雉が額をつついていた。
「やめろやめろお前たち。さっきのは本当に地震だったんだ。ただの事故だ。ほら見ろ食べ物も宝箱も用意してくれている。誤解だ。すぐに暴力をやめろ」
手下たちは素直に鬼から離れた。鬼は泣きながら逃げていった。袋が三つと、宝箱があった。桃太郎はいちばん小さな袋と、宝箱の中からひとつかみの半分の半分の財宝をもらった。
お爺さんからもらった刀を腰から抜いて、宝箱の上に置き、桃太郎は宣言した。
「さあ、僕の故郷へ帰ろう」

(帰還:クライマックス)

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婆さんは畑に出ていた。日差しが暑かった。雉が飛んでいた。向こうから犬が駆けてきた。あまり見かけない毛色の犬だった。見知らぬ侵入者に婆さんは少し緊張した。犬の後ろから猿が歩いてきた。猿はめったに見ない。婆さんはますます緊張した。少し恐怖を覚えた。家に逃げ帰ろうとした。すると背後から声がした。
「ただいま、お婆さん」
振り返ると、遠くに桃太郎が居た。大きな荷物を背中にしょっていた。
「おお、桃太郎」、婆さんは驚いた。
「お婆さん、猿と雉と犬は、僕の家来なんだよ。怖がらなくてもよいよ」
近づいてきた桃太郎は、太陽のように明るい笑い顔を見せて言った。
「十分な食べ物が手に入ったからね。もう大丈夫だよ。お爺さんは家の中かな?」
婆さんは首を振った。
「爺さんはな、おまえが出ていった日の夜に、いけなくなってしまったのじゃ。陽のあたる場所に埋めておいたから、お前もあとで拝んでやっておくれ」
「そうか、間に合わなかったか。残念だ。お爺さんに食べてもらいたかったのに。でもお婆さん、食べ物はたくさんあるし、宝物も少しあるから、みんなでゆっくり暮らそう」
「それはよかった。ありがたい。でもなにもなくても、お前さえ帰ってきてくれればそれでよいのじゃよ」
お婆さんは優しく微笑んだ。桃太郎は聞いた。
「お婆さん、やさしいお婆さん、僕を育ててくれた大好きなお婆さん、ひとつ聞きたいんだけど、僕にはお兄さんが居たのかな?」
お婆さんは固まった。

桃太郎の背後で、猿が小声で鳴いた。雉も鳴いた。犬が少し吠えた。
猿が大声で鳴いた。雉は飛び上がった。犬が唸りだした。
猿が発情したよう周りを飛び跳ね木に登って歯を剥いて喚いた。雉はバタバタと羽ばたきながら空中で叫んだ。犬は牙を剥き口からよだれを垂らしながら吠え猛った。桃太郎の背後で獣たちは興奮してゆき、徐々に狂気の様相を呈してきた。(三幕構成桃太郎・終わり)

雑感

書いてみての雑感である。

・やっぱ地下井戸洞窟系は便利。手放せない。
・マニュアル通りに書くと、確かに量が稼げる。というか短くしたかったのだけど、短くならない。一定量以上が必然になる。
・三幕構成はあくまで、「主人公」の内面の構成である。
・漢詩で考える。七言絶句がすべて同じ内容にはならない。だから三幕構成といえども全て同じ物語、というわけではない。しかし別のスタイルの漢詩もある。wikiのような「映画はすべて三幕構成」はやや言い過ぎだろう。「三幕構成は映画でドミナントな構成である」ならばいいかも。
・物語は疑似体験である。読者は主人公になりきる。つまり読者の内面をグラフ化したものが、

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なのであろう。そのように読者の内面を制御すれば、納得が得やすいというマニュアルなのだろう。三幕構成は、説得方法とか、弁論術とか、そういうものに近いのではないか。

もっとも作品自体が正しく三幕構成になっているかどうかこころもとない。ちょっと詳しい人に質問してみる。

というわけで、どうも三幕構成としては失敗のようである、修行が必要である。

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