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ちっちゃな王子さま(超意訳版『星の王子さま』) vol.17(最終回)

ⅩⅩⅦ

 そうして、今。
 あのときから、もう6年になるんだね……。ぼくはこの話を、今までだれにも話したことがなかったんだよ。
 ぼくは修理した飛行機で家に帰ることができた。再会した同僚たちは、ぼくが生きて帰ったことをとてもよろこんでくれたよ。ぼくは、あの子のことでとても哀しかったけど、彼らにはこう言った。
「ぼくは疲れたよ……」
 今では、哀しみは少しはやわらいでる。『少しは』ってのはつまり……すっかり、というわけではないってこと。
 でもね、ぼくはあの子が自分の星に帰ったんだってわかってる。あの日、太陽が昇ったあと、ぼくは夢中で探したけど、結局あの子の身体を見つけることができなかったんだ。きっと、身体だって、あの子が考えるほど重いものじゃなかったんだ……。
 だからぼくは、夜に星の声を聞くのが好きになったよ。それはまるで五億個の鈴みたいなんだよ……。
 ところで、実はひとつ大変なことを思い出したんだ。ぼくが王子さまのために描いてあげたヒツジの口輪、ぼくはあれに革ひもを描きくわえるのを忘れてたんだ! 革ひもがないと、ヒツジに口輪を結びつけられないじゃないか。だからぼくはときどきこんなふうに考えることがある。
(あの子はあの星でどうしているだろう? ああ、もしかして、ヒツジがあの花を食べちゃったりしないだろうか……)
 またあるときには、こう思う。
(いや、いや、そんなはずがないじゃないか! あの子は花に、毎晩ガラスのカバーをかけてあげてるし、ヒツジのことをしっかり見張っているんだから、大丈夫、大丈夫……)
 そう考えるとぼくはしあわせな気分になる。すると星たちがみんな、優しく笑いはじめるんだ。
 でも、ときどき急に心配になることもある。
(いつもはちゃんとしてても、うっかりすることはあるかも……。もしそうだとしたらおしまいだ! たとえば、たまたまある日ガラスのカバーを忘れちゃったら? それか、ヒツジが夜のうちにこっそり外に出ちゃったら……)
 そう考えると夜空の鈴はみんな、涙に変わっちゃうんだ!
 これって、なんて神秘的なことだろう。あの子のことが大好きな君たちと、ぼくにとっては、この宇宙の片隅の、どこか知らないところにいる、見たこともないヒツジが、ひとつのバラを食べたか食べないかということだけで、宇宙全体がまったくちがうものになってしまうなんて。
 ねぇ、今、空を見上げてごらんよ。そうして思い浮かべてごらん。あのヒツジが、あの花を、食べたか食べないか、ってことをさ。そうすれば君たちにも、そのことですべてのものが、どんなに変わってしまうかがわかるはずだよ。
 大人たちには、それがどれだけ重要なことかなんて、決してわかりっこないけどね! 




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これはぼくにとって世界でいちばん美しくて、世界でいちばん哀しい風景。

前のページの絵とまったく同じ場所だけど、君たちによく見てほしくて、もう一度描いたんだ。ここは、あのちっちゃな王子さまが地球に降りてきたところで、そして去っていったところ。

君たちにお願いがある。
君たちがいつか、アフリカの砂漠を旅したときに間違いなくこの場所を見分けられるように、この景色をじっくりと見て、記憶に焼きつけておいて。
それからもし君たちがここを通りかかることがあったら、どうか、そのまま立ち去らないで、あの星のちょうど真下で、少しだけ待ってみてほしい!

もしそこで、ひとりのこどもが君たちの元を訪れたら、その子が鈴のように笑ったら、その子が黄金色の髪の毛をしていたら、その子が人の質問に答えなかったら……君たちはそれがだれなのか、わかるでしょう?

そうしたらどうか、お願いがあるんだ!
どうかぼくをこんなに哀しいままにしておかないで――ぼくに急いで手紙を送って下さい。
「あの子が、帰ってきたよ」って。

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