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タイムリープタクシー

乗客: すみません、自宅までお願いします。とりあえず北に向かって走らせてください。
運転手: かしこまりました。

夜の街を走るタクシー。運転手が穏やかな音楽を流しながら運転している。後部座席には、一人の乗客が座っている。

運転手: お客さん、タイムリープって信じますか?
乗客: (驚きながら)どうしました、突然?
運転手: いやぁ、たまにね、考えるんですよ。もし過去に戻れたり未来に行けたりしたら、どうするかなって。
乗客: そうですね、考えたことはありますけど、実際には無理でしょうね
運転手: そう思います?でもね、私のタクシーはちょっと違うんです。

タクシーは静かに走り続ける。外は真っ暗で、街灯がかすかに見える程度。

乗客: どういうことですか?
運転手: 私のタクシーに乗ると、たまに時間が歪むことがあるんですよ。お客さんが乗る前と降りた後で、時間がずれてることがあるんです。
乗客: (笑いながら)それは運転手さんが時間の感覚を失ってるだけじゃないですか? 大変でしょ、タクシー業界も。
運転手: いやいや、本当に不思議なんですよ。例えば、この前もあるお客さんが乗った時のことなんですが…。

運転手は過去の出来事を話し始める。

運転手: そのお客さんも、普通に乗って、普通に会話してたんです。でも、突然お客さんが「ここは一体どこだ?」って言ってて…。
乗客: (興味津々で)それでどうなったんですか?
運転手: しばらく走り続けてたら、突然また元の風景に戻ったんですよ。でも、お客さんの時計を見たら、時間が1時間も進んでて…。
乗客: それは確かに不思議ですね。でも、何かの勘違いじゃないですか?
運転手: そう思うかもしれません。でも、同じようなことが何度も起きてるんです。だから、私はこのタクシーが特別なんじゃないかって思うようになったんです。

タクシーはさらに暗い道を進んでいく。外は完全に真っ暗で、何も見えない。

乗客: (不安そうに)あれ?運転手さん、本当に大丈夫ですか?道を間違えてないですか?
運転手: いやいや、大丈夫ですよ。いつもの道です。でも、もしかしたら今夜も…。
乗客: 今夜も、何ですか?
運転手: タイムリープするかもしれませんね。

その言葉に乗客は一瞬息を呑む。

しばらくして、タクシーは再び街の明かりが見える道に戻る。

乗客: (ほっとして)ああ、ごめんなさい、見慣れた道です。やっぱり何もなかったですね。
運転手: そうですね。でも、今夜は特に感じましたよ。何かが変わったって。
乗客: まあ、運転手さんの話は面白かったですけどね。でも、タイムリープなんて現実にはあり得ませんよ。
運転手: そうかもしれません。でも、お客さん、いつか不思議な体験をするかもしれませんよ。
乗客: (笑いながら)それは楽しみですね。

乗客はタクシーを降り、運転手にお礼を言って去っていく。

乗客がタクシーを降り、玄関のドアを開ける。
自宅に戻ったはずなのだが、何かが違うことに気づく。家具の配置、家の照明の色。大きな変化ではないが、明らかに、住み慣れた自分の家ではない気がする。

乗客: 気のせいだよな。でも…。

背筋に冷たいものを感じながら、乗客は思わず家から飛び出した。
外にはまだタクシーが止まっていて、運転手が窓から顔を出している。

運転手: やはり。いつも、私のタクシーに乗った方はそうやって驚いた表情で家から出て、私のことを探すんです。
どうしますか? もう一度、私のタクシーに乗りますか?

乗客は運転手の言葉に凍りついたまま、立ち尽くしていた。

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