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波天奈の鉛筆

私の手元に、ちょっと不可思議な鉛筆があります。
一見すると、日本の某メーカーのコピー品に見えます。
実際私も、最初はそう思っていました。
コレが手元に届いたときは、
『しまった!つかまされた!』と思いましたし。
ただこの鉛筆、偽物と一言で切り捨てるには疑問点があまりにも多い。
そこで今日は、せっかくの機会なのでそれらを考察していきたいと思います。

まずは外箱

随分とスッキリしてるけど、これはこれでありだと思える

上が本物の9800です。
あ、言い忘れていましたが、この波天奈の鉛筆は明らかに9800をモチーフに作られています。
まず、箱正面ですが、配色、デザイン、メーカー名及びその他の文字の書体、これらは日本で販売されている9800と見分けがつきません。
ただ、違う点としては左上にある筈のロゴマークと右上にある筈の硬度表示が無いという2点。
大きな違いとも言えますが、知らない人が比較する物なくこれを見たときに
『変だな?』と思うかと言えば、殆どの人はそう思わないでしょう。
逆に言えば、それくらい精巧に版を作れるのに何故ロゴマークと硬度表記をつけなかったのか。謎です。ロゴマークを付けると、訴えられたときに言い逃れできないからという理由では無いことは、側面のデザインにて証明できます。

それでは、その側面を見てみます。

サイドの小さなロゴマークがかっこよ


これは、波天奈の方にはロゴマークとJAPANの文字が入っています。
本物にはありません。
そうなんです。
ここにロゴを入れてきているのです。
つまり、正面にロゴを入れなかったのは、ロゴがあるとマズいからという理由では無いと思われます。多分ですけど。
このあたり、法的にはどうなのか詳しい人がいたら教えてくださいませ。

次に、両サイドの蓋の部分。


本物は両側とも【9800】と、硬度が印刷で表示されています。
波天奈はというと、9800は両側共に印刷されていますが硬度表記はシール貼であり、反対側は【1 DOZEN】と印刷されています。
これは、海外の鉛筆ではよくある表記ですね。
硬度表記がシール張りということは箱自体は1種類しかなく、なので表面にも硬度を印刷しなかったのでしょうか。

最後に裏面。

波天奈に書いてる英文の訳


ここは、まるっきり違います。
というより、この波天奈に書かれている『1958年以来、三菱9800はなんちゃらかんちゃら…』の1958年とはいったい何なのでしょうか?

9800は1946年に誕生しています。昭和21年、終戦の翌年ですね。
トンボ8900は1945年生まれですから、9800の方が少し遅れての誕生となります。
9800が輸出され始めたのが1958年という事なのでしょうか?
出来るだけ資料をあたって見ましたが、はっきりとそう書いてあるものは見つけられませんでした。

以上が外箱の概要になります。
添付した画像とざっくりした説明を見てもらった通り、この商品がいったいどうしたいのか不明な商品だという事が分かってもらえれば嬉しいです。
本物そっくりなコピー商品として作りたかったのか、あるいはそっくりな別物として作りたかったのか、あるいはこれは本物なのか。
本物?まさかね。
私が『まさかこれは本物なのか??』と疑った理由は、次から見てもらう鉛筆本体に理由があるのです。

本体を比べる

それでは、波天奈の鉛筆を箱から取り出してみましょう。
出すと最初から、海外の鉛筆ではよくある削られた状態で入っていました。
国内正規品と並べてみます。

削り方が短くて好きな人は好きそう


まず、金の箔押し刻印ですが、どれだけ見比べても違いがわかりません。
書体、大きさ、バランス、どれをとっても両方とも同じです。
一瞬、刻印の深さが違うかもと思いましたが、数十本並べてみたのですが、個体差…というかロットの差でした。
国内流通品でも違いがありました。
あと、塗装ですが、これまた色艶共に見分けつきません。
古い鉛筆や、海外の3流品で見るようなムラやザラ付きもありません。
端から端まで綺麗にツヤっと塗られています。塗膜の厚みも同じように思えます。
では、混ざってしまうと見分けがつかないかといえばそんなことはなく、これまた箱と同じように大きな違いが一つあります。
それが鉛筆のお尻に付いている『天冠』です。
こんな物、普通の9800には付いていません。

端に付いてるのが天冠。硬度表示付き


天冠は鉛筆の乾燥・吸湿を防ぐために付けられると言われています。
私自身はその説に懐疑的なのですが…そんなもん、削ってる先の方が面積でかいやんけ
ま、木には導管が通っているのでどちらかを蓋するだけで、ストローの片側を指で押さえるようにウンタラカンタラ…という理由なのでしょうか。知らんけど。
最近は、ファンシーグッズの鉛筆等にも付けられることが多いですね。

閑話休題

さて、この波天奈の鉛筆。お尻に天冠が付いています。
その天冠には硬度表示もなされています。
ここも悩みポイントの一つです。
外観がこれだけそっくりに作れるなら、何故あえて天冠など付けたのか。
本当はついてるのを付けずに作る。わかります。
本当は付いてないのに付けて作る。わかりません。
手間なだけです。
訴えられた時に云々は、木軸の刻印やカラーリングの完成度で通用しないでしょう。
この天冠をペリッと剥がしてその辺に転がしたらもう見分けがつきません。
確かに、現行品には付いているバーコード印刷が無いので、そこでわかると思いますが。

そうそう。
そのバーコードです。
波天奈の鉛筆にはバーコードが印刷されていません。
外箱にも本体にも。
流石にこれをコピーするとマズいのでやめたのか、何か別の理由があるのか。

ちなみに、現行流通品と波天奈の鉛筆を電動シャープナーで削ってみました。

やっぱりこれくらい木部が長いほうが好き


この写真、どちらが波天奈かわかりますか?
下はすっきりと削れていますが、上は細かく毛羽立っているように見えますね。
木の種類が違うのでしょうか。
削った後の香りも、下の方が弱いですが感じました。
上は殆ど無臭。
というわけで正解は下が波天奈でした。何でやねん。
波天奈の鉛筆の方は、昔の9800を削っている感じに近いです。
木の質といい、香りといい、現行の9800とは全く違います。
特に毛羽立ちが(これはトンボ8900の現行品も同じですが)全く違います。
コストカットの皺寄せが顕著に現れる部分ですが、何故波天奈の鉛筆の方はこの木を使えているのか不明です。
それほど古い商品にも見えません。

あと書き心地ですが、これも全く変わらず。
ほんとに同じ。

これは本当にコピー品なのでしょうか??
これがコピー品として、何故わざとバレるような箇所を作っているのでしょうか?
何より、私はこれと同じような偽物を他に一度も見たことがないのですが、いったいどこで流通しているのでしょうか?

もう一度書きますが、これはひょっとして海外向けの本物なのか…?
まあ、そんなことはあり得ない話でしょうが。


とにかく、不思議な鉛筆であります。

追伸
ある方とこの記事のことについてやり取りしたのですが、そこで私自身がその方に話した事がこの鉛筆への疑問の本質であり、この記事ですっかり抜け落ちていた事なのでそのままコピペします。
特に太字部分が重要かと思われます。

《海外輸出品なのですかね??
これを手に入れてから、海外のフリマサイトやオークションサイトも見てみたのですが、どうしても発見できないんですよ。
中国等のコピー品ならもっと雑かもっと精巧に作るでしょうし。
何より、定価で600円そこそこの鉛筆のコピーなんて、刻印の版やら箱の版、何やらかんやら投資して、儲け出すために何本売らなきゃダメなのかとか考えたり…。
本家三菱鉛筆は資本も歴史もあるから良いとして、コピーメーカーが1からこれを作る意味が分かりません。


なので本物なのか??と悩んだというのが本当のところです。

ステッドラーとかなら単価が高いのでわからなくは無いのですが…》

以上です。

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