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じーじーの ちゃわん

ある日のよあけ、じーじーのちゃわんが

つくもがみになりました。

手と足がはえて、ぎょろっと目もあきました。

「おら、うごけるようになった!

 …ようし、かくれるで!」

ちゃわんは、われたりかけたりすることがずっとこわかったので、

使われないように

たなの上の方の、奥の方に、いそいでかくれてしまったのです。


そうしてかくれていたら、あさごはんのにおいがしてきました。

おみそしる、たまごやき、やきシャケ。

さいごに、たきたてごはんを

おかまでまぜるにおいがしてきました。

「ああ、いいあんばいのごはんのかおり。

 ホカホカごはんをたっぷりよそってもらうのが

 おらぁだいすきだで。

 たくあんもあるかなぁ。

 しばづけも、あるかなぁ。」

と、においをかいでいると、ばーばーが食器だなをあけていいました。

「あれれ、おじいさんのちゃわんが、ないねぇ…」

ちゃわんは、ぎくっ としました。

ばーばーは、しかたないねぇ。と言って、

かわりにお客さま用のちゃわんを出して、

じーじーのごはんをよそってだしました。

じーじーは、

「わしのちゃわん、いつもと違うのだのん…」

といいました。

「たなの中から、おじいさんのちゃわんが

 なくなっちゃっただに。

 どこいっちゃっただかねぇ…」

ばーばーがこたえました。

じーじーは、ひどくおちこんで、

いつもおかわりするごはんを

一杯しか食べませんでした。


「じーじー、がっかりしとったな…

 おらが、おらんくなったもんで。

 でも、おら…」

ちゃわんはやっぱり、たなのおくにできるだけ

ちいさくなってかくれたままでいました。


そうして何日かたった夕食のとき、

じーじーがぽつりとつぶやきました。

「わしゃ、あのちゃわんでなきゃあ、いやだのん… 

 あのちゃわんは、おばあさんがむかし、

 わしに作ってくれたのだで。

 あれでないと、いやだに」

ちゃわんはむかし、ばーばーが趣味の陶芸の教室でつくって、

おじいさんにプレゼントしたものでした。

おじいさんは、おちこんだままで、

また一杯だけごはんを食べました。


じーじーがおちこんでいるのをみて、

ちゃわんはどうにもやりきれなくなりました。 

そしてその夜中、たなの奥からでてきて、

あしたのあさごはんこそ使ってもらえるように、

もとの場所にもどることにしました。

そのとき……


ガチャン!!


足をすべらせて、床へまっさかさま。

ちゃわんは、おおきくかけてしまいました。


そして、音をききつけたじーじーとばーばーがやってきました。

「これは、わしのちゃわんだ…なんでこんなとこに!

 こんなにかけちゃっちゃあ、まぁ使えやせん…」

おじいさんが気をおとしていると、

おばあさんがいいました。

「そうだ、だいじょうぶだに、おじいさん!」

そういって、ちゃわんのかけらをひとつずつ

ていねいにひろって、箱の中にそっとしまいました。

ちゃわんは、どうなってしまうのかと不安で、

手足をしまって、めをつむってじっとしていました。


そして次のあさ、ばーばーは、

昔から通う陶芸の教室の先生に、ちゃわんをみせました。

「なんとかなるかしら…」

先生は、

「だいじょうぶ!なおるでね!」

といって、ちゃわんをつれていきました。


それからしばらくして…

先生のところから、ちゃわんがもどってきました。

おじいさんが箱からだすと…


金いろのあたらしいすてきなもようが入ったちゃわんが、

そこにありました。

金つぎという方法で、ちゃわんはかけたところを

つなげてもらったのです。

つなげてもらったところが、もようのように見えるのでした。


じーじーは、またちゃわんを使えるようになって

おおよろこび。

ちゃわんもまた、じーじーにごはんをはこべることが

とてもしあわせでした。


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