見出し画像

貧乏人がキャバクラに行ったら悲しい気持ちになった話

 先日、友人と一緒にアフィリア・ブルジュールというコンセプトカフェに行って、魔女っ子たちと楽しく時間を過ごしました。店を出て友人と別れたあと、まだ飲み足りなく感じていた僕は、大宮駅前の南銀座通りで客引きのお兄さんに声をかけられ、キャバクラかガールズバーに行くことを真剣に検討し始めました。髪の毛がつんつんしているチャラいお兄さんに、「カラオケがあるところはちょっと…。静かなところでまったりと飲みたいですね」と告げたところ、「じゃあ落ち着いた雰囲気のキャバクラを紹介しますね」と言われました。

 そして彼はスマホで誰かに電話し、黒人とアジア人のハーフっぽい、見るからに怪しい風体のお兄さんが目の前に現れました。僕はドレッドヘア的な髪型をしたその背の高い屈強そうなお兄さんに、「あなたは明らかに怪しいですよね。大丈夫なんですか?」と尋ねてしまいました。お兄さんは笑顔で「大丈夫ですよ!」と言うけれど、とても不安だったので「前金でお願いできますか?」と言って、前金制にしてもらいました。

 南銀座通りの脇道の奥にあるキャバクラに僕は連れて行かれ、「こんな奥まったところに店があったら、そりゃ客引きをしなければ客が来ないよな」と思いました。店内に入ると、下手くそなカラオケでうるさかったため、「さっき出した僕の要望はどうなっちゃったんだい! 話が違うじゃないか! 静かなところで女の子とまったり飲みたいんですけど!」と憤ったけれど、ごつい黒服の人が出てきたら恐ろしいので、黙ってボーイさんに前金(50分5000円)を支払い、焼酎の水割りをちびちび飲みました。目の前にはお菓子が山盛りになっていたけれど、これを食べたら目玉が飛び出るような金銭を請求されるのではないかと思って、手を出せませんでした。

 しばらくすると20代中頃とおぼしき女の子が僕の隣に座りました。ソーシャル・ディスタンスを確保しているのか、やや遠いです。ただ、もうちょっとで乳首が見えそうなほどおっぱいが見えていたので、そこに目をやらないわけには行きませんでした。その女の子と少し世間話をしたあと、「乾杯させて頂いてもいいですか?」と言われ、つい「おいくらですか?」と尋ねてしまいました。2400円です、と女の子に言われ、僕は「うーん、高いっすね~」と渋い顔をしました。「ちょっと待って、財布のなかを確認するから」と言ってボロボロの安い財布をジーパンの尻ポケットから取り出すと、なかには1000円札が4枚ありました。「大丈夫だ。1杯ならあげられる!」と気持ちが大きくなった僕は、「じゃあ1杯どうぞ!」と爽やかな笑顔で言いました。

 するとボーイさんが音もなくやってきて、僕の耳もとで「前金制なので2400円頂きます」とささやきました。僕は女の子の目の前で財布から1000円札を3枚取り出して支払い、おつりの600円をチャリンともらいました。そして苦笑いしながら女の子に「生々しいところを見せちゃってごめんね」と謝りました。女の子は気にする素振りを見せず、笑顔で「いいよいいよ~」と言うので好きになりそうになりました。しかしその女の子はかなり早いペースでその2400円もするドリンクを飲んでいき、10分も経たないうちに飲み干し、「呼ばれちゃったので!」と言って僕のもとから去っていきました。「え、あの、2400円も払ったんですけど…」と思って泣きそうになりました。

 それから今度は別の女の子がやってきて、またドリンクをおねだりされました。僕はふたたび財布のなかを確認します。1000円札が1枚しかありません。「ごめん、もうお金ないんだ」と言って断りました。その女の子は不機嫌になることなく、「あ、そうなんですね。全然いいですよ~」と笑顔で言うので好きになりそうになりました。そして彼女はすぐに去っていきました。

 そのあとまた異なる女の子が来て、ドリンクをせがまれ、「ごめんね」とお断りし、申し訳ない気持ちになり、去っていき、違う女の子が来て、ドリンクを欲しがり、「ごめんね」と断ってみじめな気持ちになり、LINEを交換してお店を出ました。その最後の女の子は僕が店を出たあとも、僕が見えなくなるまでずっと店の外で手を振ってくれていたので、好きになりそうになりました。

 僕がふたたび南銀座通りに足を踏み出すと、「こんどはうちの店に来てよ!」と言わんばかりに、客引きのおじさんが近寄ってきましたが、財布の中には1000円札が1枚しかないし、クレジットカードも所持していないので、さすがに次の店にはいけません。「すみません、お金もクレカもないから行けません」と断りました。

 それから20歩くらい大宮駅に向かって歩くと、今度は中国人とおぼしきおばさんに「お兄さん、マッサージどうですか?」と誘われました。僕は「え? すみません、お金がないので」と答えたけれど、おばさんは僕の腕を自身の腕でとても強固にロックし、「お兄さん、おちんちん気持ちいいよ。おっぱいもあるよ」と僕の耳元でささやきました。熟女好きの僕はニヤニヤしながら「あなたのおっぱいも揉めるんですか?」と尋ねると、おばさんは照れたように笑って手を振りました。僕はおちんちん気持ちよくなりたかったし、誰か女の人のおっぱいを揉みたかったけれど、いかんせんお金が1000円ちょっとしかなかったため、「ペイペイ使えますか?」と言って、しつこい中国人のおばさんを撃退しました。「そんな怪しい店でペイペイが使えるはずがない」と思っていたので、僕はそう言ったわけです。おばさんはすごすごと引き下がり、夜の闇のなかへ消えていきました。

 すでに終電はなくなっていたため、僕は大宮駅から自宅まで長時間、歩いて帰りました。歩きながら、キャバクラでの切ない出来事を思い出し、こんなことならアフィリア・ブルジュール(魔女っ子バー)で朝まで飲んだ方が良かったな、と後悔しました。あの2400円もするドリンクをほとんどあっという間に飲み干したキャバ嬢のことを考えたら、「たった850円の緑茶ハイをめっちゃゆっくり飲んでくれる魔女っ子バーのルチアちゃんは天使としかいいようがないな。しかもルチアちゃんのほうが可愛かったな。ルチアちゃんやめないで!」と思いました(ルチアちゃんは4月24日に卒業してしまうのです)。

 そして僕は、あのキャバクラで飲んでいたお客さんたちの顔を思い浮かべ、あんなにお金のかかる店で毎日のように遊んでいる人たちは一体何者なんだろう、と思いました。資本家とかなのだろうか。普通の労働者じゃあ、あんなお店に通えないからたぶんそうなんだろうな。僕がキャバクラに通える身分になれることは一生ないだろうな。それでも別にいいや。僕にはコンセプトカフェがあるから。コンカフェに通って、ルチアちゃんみたいな素朴な女の子たちとまったり安いお酒を飲むほうが僕の性に合っているな。おちんちんはいいや、別に気持ちよくならなくても。心が気持ちよくなれればそれでいい。

 そんなわけで、「もう二度とキャバクラには行かないぞ!」と固く決心した僕でしたが、自宅に帰りつく前に、キャバクラの女の子から愛的なものがこもったLINEメッセージが届き、それに嬉々として返信してしまいました。今となってはもはや彼女の顔すらよく覚えていないけれど、未だにLINEのやりとりをしています。

お忙しいところ、最後まで読んでくださってありがとうございます。もし「いいね!」と思ったら、愛の手を差し伸べて頂けるととても嬉しいです。noteやYouTubeの製作費に使わせていただきます。