オライオン


 昼の間は空の七割くらいを雲が覆っていたけれど、夜になるとそのひび割れたような雲たちはずっと東の方へと押し流されて、僕の上にはもう何も無かった。いくつかの星が白くまっすぐ、鋭く光っていた。街の明かりがもっと少なければ、星はずっと明るく、そして沢山見えるだろうなと思った。僕はオリオン座を探した。それはすぐに見つかった。オリオン座はいつも変わらない場所に、いつも同じような明るさで光っていた。星座は空に針で固定されて、磔のように見える。そうは言っても僕はオリオン座以外の星座を見分けられないから、いつもオリオン座だけを見ている。
 どこまでが煙草の煙で、どこからが白くなった僕の息なのか、見分けがつかなかった。きっとその境目はすごく曖昧なのだと思う。
 歌を聞いていた。僕はただの人間なのだから、まだ愛が必要なんだ、と歌っていた。
 後二、三週間もすれば誕生日が来て、僕は22歳になる。昨日の夜にメッセージがあり、その中で少し前にできた新しい恋人に振られていたみたいだった。彼女は僕のことを好きになれなかったみたいで、僕にしたってそれが悲しく思えないのだから、それで良かったのだと思う。
 冬はもうあまり長くないみたいで、もうすぐ春になるのだろうなと僕は思う。背中の筋肉が少し痛む。胃も少し痛い。星はまだよく見えるけれど、それほど沢山は見られない。先週降った雪はもうあまり綺麗には見えなくて、道の端に積まれた雪塊は茶色く汚れて、少しずつ溶け出しては道路を濡らしている。最後に深く煙草を吸って煙を口に溜め、火を消した後でそれを吸い込む。吐き出した煙は僕の中で暖かくなった空気と一緒に、白くゆっくりとベランダに広がって薄くなる。

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