あのころ

あの頃は何もかもが新鮮で、輝いて見えた。

上京してすぐに、中央線界隈をうろついて、手ごろなアパートを見つけた。

東京の端っこの方。吉祥寺のもうちょっと先。

新宿にも出やすい。何処に行くんだろう。結局音楽のショップ。音楽の喫茶店。ライブハウス。帰りは遅くなっても、ぎりぎりで電車に乗れる。

新宿、渋谷、池袋、下北沢、ライブハウスに足を運んだ。そこで知り合った女の子たちとバンドを組んだ。スタジオに入る。毎週。練習が終わると反省会。ノンアルコールでひと時はしゃいでいた。

ライブをやった。お客さんが盛り上がっていた。

いつからだろう。つまらなくなった。

ギターの子の家に集まって、打ち合わせをしていた。知らない子が入ってきた。知らない話が始まった。メンバーはそれぞれ、帰って行った。

いつからだろう。全然、新鮮じゃなくなった。

スタジオに入ってもつまらない。

やっと合わせて形になってきた洋楽のコピーも、どうにか仕上がったオリジナルの曲も、色あせてつまらなくなってきた。

「ちょっと用事で」

練習をさぼって、吉祥寺の街をうろついていた。

ふらっと入った、輸入レコードの店で、見たことのないジャケットを見つけた。

二ナ・ハーゲン

まるで宇宙人だ。お財布と相談したら買える値だった。もうこれを手放す気はなかった。綺麗なビニール袋に入れてもらった大きなレコードを抱え、何かうきうきしながら、帰りの電車に乗った。

いつもの車窓がちょっと、違って見える気がする。

アパートの窓を閉め切って、レコードに針を落とす。

聴いた事のない音楽。巻き舌のオペラ。ひらひらと翻るソプラノ。

エレクトロとポップが、心地よいリズムに合わせて響いてくる。めちゃくちゃ上手いソプラノのオペラが、ドイツ語の巻き舌でひらひら舞っている。

最高だ。


次のスタジオ練習にはちゃんと出席した。

ジャムの時に、私は、考えていたことを実行した。いつものようにギターを弾く、いつものようにドラムがなる。それに合わせて、ソプラノをひらひらさせながら巻き舌でパンクオペラを歌った。

新曲を作ろうとしていた。コピーから少しづつジャムって、みんなテキトーに演奏を始めた。新しい曲を作りたいから、ちょっと違ったことをやりたいんだ。

かまわず私は、オペラボーカルを、気のままに歌い続けていた。

練習が終わって、反省会。ノンアルコールで、話は続く。

そもそも、何がやりたいのか。

どうして今日はこうなったのか。

録音テープを聴きながら、話し合っていく。

原因は分かっている。

次の練習の時に、知らない人がスタジオに入ってきた。今度のライブの練習をしにきたのだ。

「いいから聴いてて」壁側の椅子に座って、その人の歌を聴いていた。アメリカンロック。正統だ。

私は、バンドをクビになった。

全然がっかりしなかった。

新しい、わくわくするものを見つけてしまっていた。



ジュンペイさんの、こちらの企画に参加させていただきます。

ヒスイさんの記事からきました♪


ジュンペイさんの企画ページの曲を、上から順番に聴きながら書きました。一番上のを聴き始めて書き始め、一番下のを聴き終わるのと同時に書き上がりました。
なので、続きは書きませんでした。
曲を聴きながら、思い浮かぶにまかせて書きました。

まだレコードの聴けた時代の、ショートストーリーです。主役は女の子。


ジュンペイさんの企画の募集は今日までみたいです。


じゅんぺいさんから、ご紹介いただきました。

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