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ブログ・エッセイ

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毎日の何でもないことや、エッセイぽいことなど
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#エッセイ

クラゲ

江東区には橋が沢山あったので、私は橋の真ん中に立ち、じっと川を眺めて見た。 川にはクラゲが沢山いた。 小さく縮まったり、大きく開いたりして、ふわふわしているのは、生きているクラゲ。 形は変わらず、ひっくり返されながら流されて行くのは、生きていないクラゲ。 ところが時々、そういう固まって流されている様なクラゲが、突然小さく縮んだりする。 驚いて良くよく見ていると、生きているのか。 開いたり縮まったりしたがら、ふわふわ泳いで行く。 そしてまた、固まった様に形を変えず

山桜:ふみ エッセイ

エッセイを出版致しました。タイトルは「山桜」です。 昨年秋頃に、なんとなく考えていたのは、単にエッセイというタイトルの、短編を数個まとめたものでした。 その頃、ある方の30年ほど前のエッセイを手にして、読みふけっておりました。 高知の古本屋さんからやってきたその本は、余程大切に保管されていたのでしょう。とても綺麗な状態でした。 こんなに大切に保管される本。 そして、主人公が亡くなる直前に「故郷高知の山桜を書きたい」と言われたと書かれていました。 故郷の山桜。 そう

エッセイ5 ある夏の日

ある年の8/14。この夏は猛暑で、数日間、記録的な温度が続いていた。 1日を終え、寝床につく時にふっと、 もしかしたら、明日まで、もたないかも。 と不安が脳裏をよぎった。身体がかなり、きつかった。暑さが続くって、こういう事なのかあ、と思った。 もし、明日の朝、目が覚めなければ、家族が、もろもろやる事になる。 あの人に知らせて。あの人には知らせられるだろうか。 家の片付けは、数年前の年末に同じ様に不安がよぎった時に、ほとんど済ませてあった。 気になる事って何だろう? 家族

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エッセイ4

祖母の食堂に、おじさんは来た。 いつからだろう? 人見知りな母と、忙しい祖母の代わりに、私はそのおじさんのテーブルの真正面に座ってじーっと、おじさんを見ていた。 おじさんは無口で、温かな人だった。下にしまった手をたまに出して、コップに注がれた日本酒を飲む。 ふみちゃんも飲むか?

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エッセイ3

ドンっ 鈍い音が家中に響いた。 イタイイタイイタイ 祖父が食堂の入り口から家に入ってきた。 自分で建てた家だから、正門に当たる食堂の入り口から入りたくなるらしい。 わくわくして入るのだ。

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お花を生けに行っていた話

随分前ですけど、近所の建物に飾るお花を生けに行っていました。 週に一回くらい。 1階と2階と3階、それぞれ、指定の場所に飾るお花を花器に生けるんです。 場所によって花器の大きさもそれぞれで、お花の量もそれぞれです。 入口近くには、大きめの華やかな、季節のお花。 花器も、大きめ。 たっぷりと、大らかに生けます。 食堂には、小さめの、ジャマにならないけど、ほっとするお花。 美味しいお食事や、美味しいお茶を頂いたり、テレビを見たり。 数人だったり、お一人だったり。 寛いで頂ける

エッセイ2

お母さん、早く、早く行かなきゃ、早く! 私は母のお腹の中で、急がせていた。 母は、人見知り気味で内向的。接客は苦手なのだけど、お店を手伝わなくてはいけない。 祖母は食堂をやっていた。ラーメンやお寿司、お酒も扱っていた。お客さんが来る。注文をとる。作る。お出しする。片付ける。それらを全て、祖母はやっていて、母はそれを手伝わなくてはいけない。 時間ないよ、早く行かなきゃ。お婆ちゃんが大忙しで大変だよ。 母は、もじもじいじいじしていた。身体が萎縮して足が動かない。できない気持ち

エッセイ

私の生まれた町は、四方八方を山に囲まれていた。 前を向いても山。後ろを向いても山。右を向いても山。左を向いても山。 当然の様に、山は四季折々に表情を変えた。春夏秋冬。美しい自然の変化の中で私は育った。 学校の裏には、かも山が並び立つ。校舎の真後ろは山崩れで、茶色の線が描かれていた。麓には家々が立ち並ぶ。小学校と同じ敷地内に幼稚園はあった。 かも山からかも川、そして仁淀川へと清流は流れる。この清流を辿るとかも山に登り、追うと仁淀川に辿り着き、いずれは太平洋へと続く。 かも