競技クイズ健全化(収益化)の為の提案

1.なぜ健全化が必要か

 現代はインターネット環境での情報共有が当たり前となり、趣味の多様化が進むとともに、先鋭化してきている。競技クイズ(*1)もその趣味の一つだ。
 そのような環境の中、多くの趣味はコミュニティの熱意で成り立っている。コミュニティに貢献するための労力や資材を進んで提供してくれる人がいることで存続している世界が数多くある。そのような熱意に触れてコミュニティがさらに発展することもあり、それ自体は悪いことではない。
 しかし、競技クイズには他の趣味とは違う特異性が含まれていると考える。それが作問だ。多くの趣味は、環境、場所、道具、人的資源を提供することのみで成り立つものが多いと考える。
 それと比べると、競技クイズは問題準備のコストが高い。大会を開催しようと思えば数百問(*2)の問題を用意することになる。1問作成する為に30分と仮定すると、100問の問題を用意するには50時間必要となる。これに加えて大会の告知、協力者の依頼、会場や機材の準備、大会進行の準備等々が重なってくるわけで、そのコストは計り知れない。大会ではなくても、小企画を開催するだけでも問題準備には時間がかかるものだ。
 一方、それにより主催者が得られる金銭的な恩恵はあまりない。趣味の世界なのでそんなことは当たり前、という考えもあるだろうが、熱意で成り立っているコミュニティであるから故、正当なインセンティブがなければモチベーションが保てないという人も多いはずだ。
 大会の衰退はコミュニティの衰退と同義である。趣味が多様化する中で競技クイズというコミュニティを存続するために、今の競技クイズが抱える課題と解決案について記載を試みる。

(*1)競技クイズに厳密な定義はないと考えているが、今回の話はクイズ全般に当てはまるものではないためこの用語を使用させて頂く。
(*2)最近はクイズ出題ソフトを利用した大会問題数の削減が試みられている。筆者はこの取り組みは大賛成である。

2.課題

 改めてコストとインセンティブの関係を見てみよう。
 簡素化のために原価は作問コストのみ考えることとする。裏取り、再鑑も含めて1問30分で作成する。
 一方収入面では、多くの場合は問題集(記録集)の販売のみである(*1)。1問あたり何円で販売するかというのは色々な考え方があるが、ここでは1問1円として販売したとする(*2)。問題集が100冊売れれば、時給換算で200円となる。まともなインセンティブとして成り立つのは500冊ぐらいからだろうか。
 ところで、Boothで2021年に発売された問題集を見てみると、およそ300冊、金額としては合計13万円ほどである。毎年クイズにそれぐらいの金額をかけられる人はごく一部だろう。多くの人は自分に必要なクイズ問題集を見極めて購入することになる。
 その際、どうやって購入する問題集を選ぶだろうか。有名な大会、強豪プレイヤーが作っている、問題数が豊富、自分にあったジャンルや難易度など、人によってさまざまであろう。
 ここはデータがないので確実なことは言えないが、難問より基本問題、長文より短文の方が売れ筋であるように思う。そちらの方が層が厚いからというのが単純な理由だ。前述した500冊販売を達成できるのは短文基本問題かつ知名度が高いごく一部の冊子のみで、多くの問題集はまともなインセンティブのラインには立てないだろう。
 また、現状全国で開かれている大会を見てみると、トップ層向け(オープン大会)が多い。これは先程のインセンティブの件も関与している様に思う。本来コミュニティを支えるのはトップ層ではない。中間層以下の土台が大きいほど、コミュニティは成長する。
 競技クイズの特性上、トップ層向けであろうがそれ以外向けであろうが、作問コストはほとんど変わらない。しかし、中間層向けの大会を開くよりトップ層向けの大会を開いた方が知名度が高くなり、問題集の売り上げもそれに応じて高くなる。つまり、問題の質ではなく、大会の規模や知名度で売り上げが左右されてしまう状況があると考える。
 また、購入者側からの視点も考えてみよう。前述の通り、多くは問題集を選定して購入する。しかし、その問題集が本当に自分に合っているかは、残念ながら買ってからでないと分からないのが現状である。知名度が高い問題集はアタリではないかもしれないが、ハズレの可能性は低く、購入優先度が高くなっている様に思う。
 ここまでの問題をいっぺんに解決する簡単な案がある。それは各問題集から優良問題を抜き出して、まとめ問題集を作ることである。これは丁度Youtubeのまとめ動画のようなものだろう。作成する側のコストは低く、購入者も支払った額に見合う内容が保証されている。
 既存の仕組みでは、このようなまとめ問題集はやったもの勝ちである(*3)。しかし、この様な問題集が蔓延すると、その分新作問題込みの問題集の売り上げが落ちることになる。この様な環境では新作問題を作成する恩恵が減ってしまう。
 さて、長々と書いてきたが、課題を今一度整理してみよう。
[課題①]作問に対するインセンティブは問題の質ではなく大会の規模や知名度に対して与えられることで、コミュニティを下支えする層への大会が縮小する懸念がある。
[課題②]購入者は問題集に支払った額に対する恩恵が得られるかが買うまで分からず、知名度の高い問題集を選択せざるを得ない。
[課題③]既存の基本問題を寄せ集めた問題集は販売者と購入者がWin-Winであり、新作問題を作るメリットが少ない。
 次項からこれらの課題の解決策を1つ提案してみたいと思う。
 
(*1)大会の場合は参加費による回収もあるかもしれないが、会場費等の名目で集めることとして割愛する。
(*2)参考として、Boothで販売されているクイズ問題集の収録問題数と金額の分布図を示す。ただし、見やすさ重視のため1,500円以下かつ1,500問以下のみを対象とし、20冊程度を除外している。

図2.1.Boothで販売されているクイズ問題集の収録問題数と金額の分布図

(*3)ネット上ではこのような問題集を潰す様な動きが見られる。上述の通り、本来は購入者にとってはありがたいことであるはずだが、「楽して儲けている」ことに対する反発が大きいのであろう。

3.提案

 提案内容は問題のサブスクリプション化である。内容は下記の通り。
 ・運営者は問題を集めたクイズサイトを運営する。
 ・利用者は運営者に月額を支払うことで、クイズサイトを閲覧できる。
 ・利用者は運営者に問題を提供することが可能である。(以下、提供者)
 ・提供者は問題の閲覧数(もしくは評価などの指数も合わせて)に応じて運営者より報酬を受け取る。
 以下、課題に対する効果を見ていこう。
[課題①]作問に対するインセンティブは問題の質ではなく大会の規模や知名度に対して与えられることで、コミュニティを下支えする層への大会が縮小する懸念がある。
 ⇒サブスクリプション化により、被閲覧機会を平等に近づけることができ、優良な問題に正当な評価、報酬を与えられる可能性が高くなる。
[課題②]購入者は問題集に支払った額に対する恩恵が得られるかが買うまで分からず、知名度の高い問題集を選択せざるを得ない。
 ⇒サブスクリプション化により、利用者は定額で自分に合った問題や問題集を探すことが容易となる。
[課題③]既存の基本問題を寄せ集めた問題集は販売者と購入者がWin-Winであり、新作問題を作るメリットが少ない。
 ⇒サブスクリプション化により、新作問題に対する正当な評価、報酬を与えられる可能性が高くなる。

4.実現までの壁

 さて、本当にサブスクリプション化すれば全てうまくいくのだろうか。実現までに解決しなければならない事項をいくつか上げてみたいと思う。
・すでに浸透しているベタ問は誰が報酬をもらうのか。
 ベタ問と呼ばれる問題は、広く競技クイズに浸透し、あらゆる場所で出題されている。その様な問題の起源を辿ることは不可能であろう。だからと言ってクイズサイトに登録した人に対して報酬を払う方式ではかなりの反感をくらうことになるだろう。
 では、ベタ問は別枠で登録してしまい、報酬の割り当てはしないというのはどうだろうか。次はベタ問とは何かという議論が始まり、対象が定まらない懸念がある。
・既存問題との被りをどう判断するか。
 例えばYoutubeであれば、既存の動画を利用した切り抜き動画などは、元動画の作成者への報酬を支払うような仕組みがある。しかし、短い文字列のみであるクイズにおいて元作成者の判断は容易ではない。
・閲覧数以外の評価は可能か。
 被閲覧機会の平等化ができたとしても、知名度が高い大会や作成者の問題の閲覧数が多くなることは想像に難くない。閲覧数以外の評価方法が確立されないと、格差が広がるばかりだ。
 例えば問題に対して高評価、低評価をつけてもらう方法はすぐに思いつく。しかし、1問あたりが一瞬で過ぎ去っていくクイズに対して、わざわざ評価を残してくれる人がいるのだろうか。知名度に対して閲覧数が多いや、引用の仕組みを確立して引用数で評価など考える必要がある。
・提供者に十分な報酬を与えられるか。
 競技クイズの人口を考えた際に、利用者からの支払いのみで賄えるか。
・フォーマットを統一すべきか。
 クイズサイトを作るにあたって、画一的なフォーマットを作るべきか。

5.最後に

 ここまで勝手気ままに記載してきた。自分は競技クイズの最先端に立っているわけでも、コミュニティに積極的に参加しているわけでもないため、見えていないことが多いと思う。ただ、少し離れた所から見ていて何となく競技クイズのコミュニティに危機感を感じて今回記載させてもらった。
 もしかしたら、自分の感じている危機感は杞憂かもしれない。それでも、少しでも良い方向に向かい可能性があるのであれば議論の価値はあるのではないだろうか。
 最後に競技クイズのさらなる発展を願ってこの文を締めさせていただく。

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