見出し画像

「拭く」

 年末。やっとけば良かったよなと思いつつ、寒い中縮こまった手足を何とか伸ばしてちょこちょこ大掃除をしております。(ホントに年末になって気温がマイナス続きで困る)
 当たり前の事ですが大掃除ともなると壁や棚など普段手を伸ばさない場所も、ここぞとばかりに拭きあげますよね。掃いたりハタキをかけたりしますが「拭く」のは掃除の仕上げ、トリを飾る作業ともいえます。雑巾で拭き上げた後にハタキをかける人は見たことがありません。「仕上げ」の印象が強いこの行為は合理的な目的のほかにもっと感覚的な「仕上げの作業」であるように思います。

気候と文化で育まれた
 「拭く」のは万国共通ですが、中でも日本人はよく「拭く」ようです。そもそも日本人は清潔な民族です。呼吸をするようにそこかしこを拭いています。これは日本の高温多湿で菌が繁殖しやすい気候域が関係しており、またアジア圏に多くみられる「座る文化」であったことも大きいようです。   そして多湿ゆえに各地で発展した発酵文化や、温泉・銭湯などの入浴文化は「拭く」という行為をさらに身近にする要因だったと思われます。

拭く精神性
 「拭く」という行為は、清潔にするという事以外にも「穢れ(けがれ)を拭きとる」といった精神的、宗教的な意味も含まれているそうです。つまり外側の穢れだけでなく我が身内面の穢れも「拭いて」いるのです。国によっては外側の穢れと内側の穢れを分けているようですが、日本は内外一緒という感覚のようです。お寺の修行中のお坊さんが朝から雑巾がけに勤しんでいるのはこういった意味合いもあるのでしょう。
 またアメリカの行動経済学者ローレンス・ウィリアムズらは数々の実験で”人は嫌悪感などを覚えると口や手をキレイにしたいという潜在的な欲求がある”と述べており、やはり清潔さと精神的な健全さは関わりがあるようです。

拭いて振り返った一年
 かつて自分自身が住み込み修行をしていた時代、夏と冬に治療院の大掃除がありました。その掃除の前に師匠から必ず一言「治療室の掃除をして、今年一年での後悔だったり反省したことをここ(掃除した治療室)に置いていきなさい。」と言われたのを思い出します。当時はまるでピンと来ず、意味がわからん程度に思ってましたが、こんな小坊主でもこうして知識を得た今では襟を正して一年を振り返りながら床を拭いています。
 一年間まったく過ちも反省もない人はいません。色々と思い巡らせた自分の家・部屋を黙々と「拭く」のは、今年の反省・来年の展望など考えるにはちょうど良い機会かもしれません。

二葉鍼灸療院

参考文献
ミツカン水の文化センター 機関誌『水の文化』58号
https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no58/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?