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3.砂上に創られしイスラエル

テルアビブのホステルで目を覚ますと、ベット横の窓の外は既に明るかった。iPhoneのホーム画面は朝6時半と表示している。
昨夜遅くに到着して、心身共にかなり疲弊していたが、緊張からか思いがけず早起きをしていた。同部屋の若い白人女性はまだ起きる様子もなく、廊下に出てもホステル中の旅人たちが寝静まっているようだった。

朝の散歩でもしようかとホステルの外に出たが、強烈な湿気を帯びた熱気ですぐに室内へ引き返した。さすがは中東の8月である。
あと6時間後には受け入れ先の主人とバス停で待ち合わせをしていたが、私は荷支度をして早めにそのバス停に向かうことにした。なにせ待ち合わせ場所までスムーズに辿り着ける気がしなかった。

重いバックパックを背負ってバスターミナルまで歩いていくと、入り口には荷物検査場、そして周りには兵士たちがいる。がっしりとした銃を装備した兵士はテロ対策なのだろうか。彼らにエルサレム行きのバスはここから乗れるか?と聞いてみたが、エルサレムの発音が全く伝わらない。何度か言い直して「ジェルサレイム」でようやく通じて、6Fからバスが出ていることを教えてもらった。

朝のバスターミナルは閑散としていて、朝日に照らされた塵が静かに舞っていた。人は少なかったが、それでもどのバスに乗るかわかりにくく、何人かに乗り場を聞いてようやくたどり着いた。冷房の効いたバスは清潔で、席に座ってバスが動き出すと、初めて私はイスラエルの昼の景色をゆっくりと眺めることができた。

車窓から見える景色は窓についた汚れで砂色のフィルターがかけられていた。バスは大都市テルアビブからエルサレム郊外のバスターミナルへ向かう。高架上の車窓から見るテルアビブは近代都市的なガラス張りの建物と少し古びた砂色の石造の建物が混在している。

やがて、バスはテルアビブを抜け、高速道路を静かに進んでいく。車内に人は少なく、音楽も会話もない車内には匂いも音もないように感じられた。もたれかかる車窓の先には人工的に植えられた木々が高速道路の脇に広がっていた。等間隔に並べられた木々は剣山のように綺麗な列となって砂漠を必死に隠そうとしているように見える。

砂漠の上に国を作りあげたのだということがよくわかる。

雲一つない快晴の空を見ていると、地球から雲が消えてしまったかのように感じる。バスはいくつかの小さな街をこえ、一時間近く時間をかけてエルサレムのバスターミナルに到着しようとしている。路上では敬虔なユダヤ教徒らしき男性が黒い長袖服に黒い帽子をかぶって歩く。この暑さであの格好は何とも耐えがたそうだが、暑がる様子も見せない男性は颯爽と歩みを進めていた。

私を待つ受け入れ夫妻はどんな人物なのだろうか。

私はユダヤ教徒についてあまりにも無知すぎるように感じた。

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