見出し画像

箱根駅伝にみるシューズ事情〜レーシングフラット(薄底)は、このまま絶滅してしまうのか?〜

カスタムシューズから市販品ヴェイパーフライの時代へ

みなさん、こんにちは。藤原商会代表: シューズアドバイザー藤原です。

箱根駅伝2021は、驚愕の95.7%のナイキ占有と、ズームXヴェイパーフライネクスト%(ヴェイパー)、エアズームアルファフライネクスト%(アルファフライ)を本番で使用するランナーに溢れました。

これは、全世界で発売されているモデル、いわゆる市販品が多くのランナーに受け入れられたことを意味します。


今まで日本人アスリートは、自分好みにしたカスタムシューズにこだわり、いわば特別扱いされているある種の“優越感“、それを作ることによる“お守り感“も大きかったように思います。

かつてのマラソンオリンピアンがそうであったように、最近まで、日本のランナーはカスタムシューズを作るのが当たり前、当然なことながら、箱根駅伝の選手でも、それは当たり前でした。

それが、今年、ミズノは2016年 75名、アシックスは2016年 67人もいた着用選手が、ミズノ3名、アシックスに至ってはゼロになったわけですからね。


これは、市民ランナーのイージーオーダーも含めて、履きやすさとは、フィット感だと考えるランナーが多かったように思います。

わたしからすれば、フィット感とシューズの機能性がごっちゃ混ぜになったままのように感じていました。

正直各メーカーの発売する市販品でも、特別仕様にしなくても、ほぼ全てアスリートをカバーできるように、すでになっていましたからね。

とにかく、そのような日本の伝統をも凌ぐ、速く走れるという“機能性“がヴェイパーにはあったわけです。

それは、国際ルールをも変更させるぐらいのものです、彼らに“心変わり“をさせるにも十分な動機だったのでしょう。


ただし、それにしても多すぎやしないか、君!という話です。

210名参加のレースで201名が同じブランドを履くなんて、あまりにも共産主義的風景ではありませんか!ちなみに本場のアメリカでもそんなことはありませんからねえ!

厚底レーシングの機能性の正体とは?

いったい何がそんなにいいのか?その機能性とは何か?

速く走れるシューズのロジックは、スピードを維持する能力に長けていることです。それは、瞬発的なスピードではなくて、中間走のスピード維持する機能です。

絶対的なスピードがアップができるわけではなくて、そのスピードを維持することができるような、“楽さ“を生み出すことで、結果、速くなるというものになります。

速く走れる、は聞こえがいいですが、やや解説が必要です。


PEBA(ポリエテールブロックアミド)は軽くてフワフワな素材、それが、単純にランナーの垂直方向のバウンドを生み出します。縄跳びのようにジャンプをしたら、シューズ自体がポンポン跳ねるようなそういうイメージで正解です。

ただ、その特性だけでは、どっちに行くか分からないバウンドのコントロールしずらい素材ですので、カーボンプレートが、推進方向にランナーと共同作業で力を伝えるのがトリックです。それによって、筋活動量が減り、楽になるわけです。


つまり、操るのはランナー、ランナーの技量も必要です。

ここがメリット・デメリットの部分のなのですが、シューズからバウンドが、推進力の高い効率的なフォームに導き、ランナーの技量を高めるような側面がある一方で、そのバウンドに合わせること、楽をすることに体が慣れてしまえば、キックする力など本来の自分が持っている体の機能性を低下させる側面もあると言えるでしょう。

まさに、諸刃の刃。

蹴るという行為は基本的には、素手で拍手をした時のように、裸足でもクリアなキックができることが正解です。ですから、これが出来ている人が厚底レーシングを履くのと、バウンドに助けられ、助力慣れしている状態とでは、大きく違うということです。

楽をするのと、ズルをするとの関係でしょうか。

それに、接地とバウンドにタイムラグがあるようなバウンドを推進力に活かせないフォームでは、そのクッションはただの不安定要素になってしまいます。


体がバランスをとりはじめたら危険

2017年の別府大分マラソンではヴェイパーフライ4%を履いて、2時間34分台の自己ベストを出しました。まさに水の上を走るアメンボのように、とても快適に走れたのを覚えています。

しかし、その翌年、2018年の福岡国際マラソンでは、ヴェイパーフライ4%フライニットを履いて出場しましたが、何となく推進力にかけ、もがきながらゴール。楽さにはほど遠い感覚になりました。

箱根駅伝でも、201名のナイキ厚底着用者のみんながみんな最高のパフォーマンスをしているのでしょうか?そうではないですよね?


そして、その後、トレーニングを再開したときに異変に気づきます。

レーシングフラットで走っても、全然進まない状態でした。まさに体がバウンドに乗り慣れてしまって、地面を蹴って進む能力が落ちたように感じました。

体がバウンドを合わせているうちはいいですが、どれが自分のバウンドだが分からなくなってしまうとうまく走れなくなってしまいます。わたしは全くどれがどうだか走っていて分からなくなってしまいました。

ちなみに、2019年の福岡国際マラソンでは、それを踏まえて、接地感を養うことと、シューズにバウンドを乗せる技術を磨いて臨み、自己ベストではなかったですが、感触の良い42.195Kを走ることができたわけです。


この経験から、柔らかいソールで体がバランスをとることはやはり良いことばかりではないと強く感じています。

特にこれからランニングの技術を身につける、もしくは基礎的な体の機能性を高めるプロセスで、目先の勝敗に一喜一憂するような“武器“の使用はマイナスです。

シューズが代用してくれるようなランナーの機能性を高める時期なので、レーシングフラットのようなシューズを履いて、起伏や柔らかいところなど路面に工夫をして、足の固有知覚を高めるのがベストです。

昨今のナイキ現象は、すでに小学生とか、中学生も3000mでも履くような若年層化しています。先の高校駅伝では男女とも着用率は上がってきてます。

キックのクオリティーとか、良いフォームを身につけるきっかけにしたり、レースで普段の成果を出すような、ある程度、勿体ぶった使い方であって欲しいです。


では、レーシングフラット(薄底)はなくなってしまうのか

では、レーシングフラット(薄底)はなくなってしまうのか?

今回の箱根駅伝210名のうち、非ナイキが9名のそのうち薄底シューズであったのは半分以下のわずか4人・・・

これだけみると絶滅必死・・・

実は、昨年末の男女の全国高校駅伝で、すでにたくさんの選手がヴェイパーやアルファフライを履いていいました。この世代が、次の箱根選手ということを考えると、箱根駅伝ではもう絶滅してしまうでしょうね。

箱根駅伝のような20K以上のレースでは、機能的にも厚底シューズに分があり、履く理由もありますからね。だから、201名もの選手が厚底レーシングを履いていたわけですから。

そうは言っても、以前なら、レーシングフラット(薄底)のシューズで走っていたようなディスタンスでも、もはや世界的にヴェイパーフライが着用され、ロード5K世界最高記録も最近更新されています。

ロードシューズなら距離に関係なく、ヴェイパーフライが、もはや、スタンダードになったと言っていいでしょうね。

わたしもそうしてます。


では、アゲイン、レーシングフラットはなくなってしまうのか?

答えはNOです、まだまだ輝きます。

ひとつ目の理由は、当たり前ですが、トラックレース・ショートディスタンスのレースで引き続き使われるからです。

エリートアスリートは、スパイクなので関係ないですが、日本では市民ランナー中心にトラックニーズはあります。また、実質的なヴェイパー、アルファフライ外しになる、ワールドアスレチックが発表したトラックレースでのシューズ規制も追い風と言えるでしょう。

また世界では、アメリカNY5番街のマイルレースを代表とする、5K以下のショートディスタンスのレースがたくさんあります。そのためのスペシャルシューズもあるぐらいです。(今回の箱根駅伝6区区間賞の東京国際大の佐伯選手はそのスペシャルシューズを着用、アメリカ人はびっくりしてると思います)

世界的に見たら、箱根駅伝でシェアを落としているアシックス、ミズノはそういった潜在需要ももっと捉えることができると思いますね。


日本ブランドのレーシングフラットの技術・クオリティーは素晴らしいものがあります。この手の商品展開は、現状ドメスティックな展開であり、インターナショナルな展開ができれば着用する選手はたくさんいると考えられます。

例えば、アシックスソーティーシリーズ、ミズノウエーブデュエルネオなんて、全くアメリカで買えないわけで、箱根駅伝が黒船来航してきた今、逆に日本ブランドも世界を攻めるべきですよ。

レーシングフラットはトレーニングシューズと呼ばれる?!

そして、わたしは、レーシングフラットは、ワークアウトトレーニングで体の機能を高めるいわば、“トレーニングシューズ化 “するのではないか、と思っています。

レーシングフラットの特徴は何か?これはズバリ接地感覚です。逆に厚底レーシングにないに等しいのが、同じく接地感覚ですよね。

レーシングフラットでは、インターバルなどワークアウトトレーニングをして、接地感を高めておくこと、足の作用反作用の感度を上げておくことは、ヴェイパーフライのような厚底レーシングを履きこなす、使いこなす意味でとても重要です。

いわばバウンドに慣れない、ズルに慣れない脚作り。それはハードなものではなくて、かなりスマートなロジックなものです。

例えば、厚底レーシングをイメージして、レーシングフラットを使ってみる、というような簡単なイメージでも違うと思います。

厚底レーシングと同じような感覚で、レーシングフラットでしっかり地面をバウンドさせキックしてみる。もし同じような感覚で走れるなら良いコンディションである証でしょう。

そして、その100%の状態を、120%にしてくれるのが、ハレの日のシューズ、厚底レーシングですからね。

レーシングフラット(薄底)は、100%のコンディションを作る上で、接地感覚を体に補完・養成するのにピッタリなシューズです。

そういう意味では、厚底レーシングに必要不可欠なシューズとしての “トレーニングシューズ“と呼んでもいいのかな、ってわたしは思っています。

選手も画面に映らないところ、見ていないところでは、レーシングフラットは履いています。また、ゆっくりのスピードでうまく走れるガイド機能があるデイリートレーナーもです。

箱根駅伝シューズ事情、その裏側の方が最もリアルな部分かもしれませんね。

ここでのデータなど、2021年箱根駅伝のシューズ事情は、こちらに表にしてありますので確認してください

シューズから見た2021年箱根駅伝(速報)
https://media.alpen-group.jp/media/detail/running_210103_01.html

シューズから見た2021年箱根駅伝(総括: 1月4日公開)
https://media.alpen-group.jp/media/detail/running_210104_01.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?