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Web3というテロリズム

Web3という言葉で語られるポジショントークはものすごく苦手なのだが、新しいムーブメントになっているのは間違いないので、苦手意識を我慢して勉強している。頭の中が整理しきれていないが、文章を書いて、野に晒すことでレベルアップしてみようと考えたのがこの文章である。

追記はじめ:
以下に批評をいただいてるので、技術的な誤り等については是非、こちらの記事を読んでupdateいただけますと。
https://kumagi.hatenablog.com/entry/re-web3-terrorism

また、それに対するアンサーも書いていて、何故こういう記事を書いたのか?という思想面について雑談的に書かせていただいております。

以上追記終わり

Web3に必要なキーワードは、「トラストレス」という言葉

「トラストレス」というキーワードをgoogleで検索すると、2018年ぐらいの記事が上位を占めているのだが、2018年3月のサウス・バイ・サウスウエストで語られていたことをまとめた下記記事に書いてあることは、Web3の言説そのままであった。

既存のプラットフォームは、「信用」を寡占し、巨大になりすぎている

彼は「インターネットはFacebookとGoogleのものになってしまった」と嘆きます。そして、1.巨大企業への盲目的な信頼(Blind Trust)、2.データの所有権がない(No Ownership)の2つを挙げながら、「インターネットはそもそもオープンなものだったはずだ」「インターネットは透明性があり、フェアな場であるべきだ」と述べています。主張はシンプルで「仲介者はいらない。データは私たち自身が所有すべきだ」というのです。

Web3の言説そのままやんけ。結局、Web3を語る人は、2018年のSXSWで話された、この話を引用してるだけなんですね。

Web3というテロリズム

Web3の言説を読んでると、GAFAMの優位な構造を破壊するためのテロリズムであると感じざるを得ない。今は暗号通貨長者の中でインサイダー的にGMVを作り合ってる段階にしか見えず、未だに形のないものをポジショントーク的に言うなよって思うのもそのとおりで、Web3という言葉は、既存の権力構造に対する宣戦布告と考えれば、割と素直に受け入れられる。

その手段が、Decentralization である。

Meta社が、Diem(旧Libra)を諦めることになったのは、一企業が暗号通貨を発行するという中央集権型になるのを政府が許さなかったからだ。つまり中央集権であり続けることには限界が存在する。これは間違いない。

それに対して、ビットコインを始めとする暗号通貨は、サトシナカモトという架空の人物を責任者に立てて、政府から逮捕されたり暗殺されない存在を生み、なおかつ、トラストレスなネットワーク構造でユーザ同士のお金の取引を実現した。

暗号通貨のネットワークに参加したいあらゆる組織は、ブロックチェーンの台帳を等しくコピーし、誰でもネットワークに参加ができる。そして、PoCなどと呼ばれるブロックチェーンの仕組みでトラストが担保される。

お金の取引というトラストを実現するための機能が分散されていて、特定の機関に依存しない仕組みがトラストレスと呼ばれる。そして、このシステム構造で、ビットコインという暗号通貨が成立しているという事実が存在している。

重要なポイントとして、取引所は交換可能な状態であって、Aという取引所が潰れたとしても、Bの取引所に送金をすれば送金に手数料はかかるが取引は続行できる。そのような代替可能な世界を作ることで、GAFAなどと言った寡占構造を原理上産めないようにする(らしい)

さらにスマートコントラクトと呼ばれる契約の仕組みを活用することが可能になっている。スマートコントラクトは、僕の理解が間違っていなければ、分散ネットワークにおける取引(トランザクション)制御の仕組みをプログラマブルにしたものである。

例えば、P2Pで送金をする時に、適切に相手に着金した段階でスマートコントラクトが発動し、送信者には取引完了を宣言されるエスクローの仕組みがスマートコントラクトで実現するというのが、一番プリミティブな利用方法である。

このようなエスクローの仕組みが決済事業者などの中央集権な管理者を必要することなく、個別分散されたブロックチェーン上に書かれた契約情報に基づいて取引が適切に完了する。

Web3で語られているDAOであるとか、今後出てくるであろう、新しいストックオプションの仕組みに連動する働き方の変化であるとか、土地取引などの物理的なアセットの取引の改革などは、スマートコントラクトに書かれているトランザクション制御の時間範囲を無限に伸ばし、それ自身の台帳が公開されているという原則で、情報の非対称性を無くし応用していくものと、僕は理解している。

Web1.0、Web2.0はRDBに支えられ、Web3はブロックチェーンに支えられる

OracleなどのRelational Databaseにおけるトランザクション制御は、RDBの世界の中で閉じているが、分散ネットワークにおけるスマートコントラクトはそれが世界に開かれている。

一方で、現時点のWeb3文脈、とりわけNFTなどのツッコミの内容が、どこか稚拙な話にも見えるのは、何十年か前に、まだECも存在しない時にRDBのトランザクション制御を見て、これによってどんな世界が変わるのか?を想像しているところで、見ている時間軸がずれていることが原因なのではないだろうか。

実際のところ、そういう世界はRDBだけで実現できるものではなく、RDBをコアに置いて、その上位レイヤーにユーザーからのトラストを集めるWebアプリケーションを書くことで実現できたわけで、その最たる成功者がGAFAであることは忘れてはいけない。

Web3の流れをエンジニア的に雑に言うと、RDBもしくはRDBの発展した分散データベースによって支えられているGAFAの利益構造を、トラストレスな誰でも参加可能なブロックチェーンネットワークを通じて破壊しようというものだと理解している。

その際に、トラストレスなネットワークが証明するものは「契約情報」だけで実現できるのではないか?というのが、肝となるコンセプトであると考える。

故に、NFTが所有者を示す情報しかなく、画像データの実体は全然コピー可能じゃないかと言うツッコミはそのとおりで、web3でやりたいことは、契約情報だけの真正性を元に新しい世界を実現しようとしてるからだ。そして、その自信の根拠は、暗号通貨がブロックチェーンには取引履歴しか書かれてないのに価値を保持することに成功したという実績にある。

この仕組を持ってして、GAFAの優位性を骨抜きにしようと言うムーブメントであると考えている。どうやってやるかは知らんのだが、トラストレスがインターネット以来の再発明と言われるのは、TCP/IPの仕組みみたいにシンプルなところに成功の論拠を見出しているからだろう。いずれ、これがそれだったのか!と関心したい気持ちはある。

そして、新しい権力構造は、トラストレスの上に新しいブランドによるトラストを構築し、新しい富をもたらす。それがWeb3にコミットする企業の真の目的である。そこがどうしてもポジショントークにしか見えないので、感情的に抵抗したくなるのは、それがWeb2.0の成功者たちに対する革命を目指しているからと思えば素直に理解できる。

トラストレスの上に必要なトラストという新しい権威

この革命が成功する時に出てくるのはトラストレスの上に構築されたトラストな仕組みである。

NFTであれば、画像を何らかしらの手段で守ってあげるNFTの取引所であり、暗号通貨であれば秘密鍵を守ってあげる既存の暗号通貨取引所であり、不動産や企業の契約書情報だあれば、契約書にかかれている文言を安全に保全するストレージが新たなトラストになる。それは技術的な解決法だけでなく、ユーザー同士の評価経済に立脚したものもあるだろう。

逆に言うと、これまでのGAFAなどが付け入るポイントは、彼らはWeb1.0の時代にせよWeb2.0の時代にせよエンドユーザーに近しいところでトラストの構築に成功してきた企業だということである。UI/UX、AIによる検索、コンテンツマッチング、決済技術、IDなどの手段や技術を通じて、さまざまな人やデータ間の距離を縮めてきたことがGAFAが実現してきたことであって、それはweb3の果てに実現するweb3.0の世界でも同様のことになる可能性は低くはないだろう。

例えば、一番ありそうなのは、秘密鍵を保存し、あらゆる取引情報の所有者を示すウォレットの名前としてApple WalletかGoogle Walletが普及している世界は容易く想像がつく。もしかしたらNFTのデータを守ってあげるサービスにInstagramって名前がついているかもしれないし、契約取引情報を担うサービスがFacebookであるのかもしれない。

インターネットはそもそもトラストレス

インターネットはトラストレスなネットワーク構造である。インターネット・サービス・プロバイダーとして接続業者が参入することで、我々はインターネットに接続できている。ISPは代替可能な存在で、Bフレッツの上で接続可能なISPは好きに選ぶことができる。

また、Interopというイベントは、機器ベンダーの相互接続(Interoperability)を検証する場から始まったと聞いている。

ISPは、分散されたネットワーク構造の中でエンドユーザーの接続点を担うが、そこに流れているデータの責任をもつことなくビジネスを運営できる。一方で、ISPを利用する会員によってインターネット上で犯罪が起きたら、接続したIPアドレスを通じて接続者を特定して逮捕することにつながるわけだが、これはISPがトラストレスなネットワークの上に、トラストな仕組みを提供してビジネスを提供しているから可能になる。つまり、悪事を働いている人の端末に特定のIPアドレスが割り当てられていることをISPが保証しているから、犯罪者を特定し逮捕、起訴ができる。

トラストレスなネットワークの上には、新たなトラストな存在が君臨し、新しい権威になる。Web3は、このようなインターネットの構造に、上位レイヤーとして契約情報によるトラストレスな新しいレイヤーを生み出すことを目的としている。

結果として、それがGAFAのような存在になるのかはわからないが、多分、なる。なぜならWeb3はWeb2.0の成功者に対するテロだからだ。独裁国家を倒した勢力が、改めて自分たちも独裁になっていくということは事実存在している。それはそうしたかったというよりは、何かを守るためには、そうせざるを得なかったという大人の事情があるんだと思う。

最後に、2018年のトラストレスの議論においては、現時点でも存在するツッコミに近い話が書いてあって、とても参考になる。

それは、2018年のPKI Day 2018というイベントで、岩下直之さんが講演されている「トラストとトラストレスの狭間で」というPDFであった。

https://www.iwashita.kyoto.jp/archives/4956

https://www.jnsa.org/seminar/pki-day/2018/data/180417_am2_iwashita.pdf

このスライドには、全くの同意である。

2018年ぐらいの議論からweb3は全く進化していない。

ハイテク銘柄は、お互いの破壊の歴史

かつて君臨したSunという中央集権構造を、OSSで構築したLinuxが破壊したように、ハイテクは常に既存の権威の破壊の歴史。確かウォール街のランダム・ウォーカーという本には、ハイテク株は、新興企業が既存企業の利益構造を破壊してしまうから長期投資には向いてないと書かれていると記憶しています。

折しもMetaの株価に限らず、ハイテク株の株価が暴落している昨今。別にそれがトラストレスによってもたらされたわけではありませんが、広告事業の先行き不透明という論点も、行き過ぎた中央集権同士のつぶしあいという構図でもあり、どこか巨大化した恐竜が…と時代の流れみたいなことも考えてしまいそうなのですが、いずれにせよ、我々も生き残るために歯を食いしばって頑張らなければなりません。

最後に

まぁこれを書きながら改めて考えたが、mixi日記に書かれた情報は外部からアクセスできないので情報資産としてはイマイチだったし、それはFacebookやInstagramにも、割とそういう性質があるので、管理責任が中央集権になってるよりは、インターネットの仕組みネイティブであるトラストレスで配信できる世界というのは悪くないとは思う。

twitterが出てきた時にそういうメッセージングツールになるのかな?という世界に憧れてモバツイを作ったって部分もあったし、当時は無理だったにせよ、その気持に心当たりが無いわけではないな。

とはいえ、新たにトラストを所有した人たちは、結局、自分たちの存続のために囲い込みたがるんだよなーーーー。結局同じことの繰り返しにはなるだろうなーーーー、という話ですが、老害っぽくなるので、まあ頑張ってください、と。革命を起こして新しいお金持ちを生むために、シリコンバレーではGAFAから人が流出しているのは、トラストレスが新しいTCP/IPだと思ってるからですよね。きっと。

さてさて、今後、どうなるか楽しみです。がんばりましょう。




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