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浮島

百年ぶりに昼寝をした。

今日は昼寝をしよう--、朝5時に子のうめき声で目覚め、哺乳瓶片手にまだ薄暗い日曜日の空をぼんやり眺めながらなんだか唐突にそう決意したのだった。
ねぇ悪いのだけれど今日昼寝をしてもいいかな、と訊くと、いいよいいよその間わたしが見るから、と言ってくれた。

お礼とばかり昼食に空豆とアスパラガスのスパゲティをちゃちゃっと二人分つくってから、一人で寝室に向かって布団をかぶり、大いなる午睡をキメた。
百年ぶりの昼寝だった。三千年ぶりに夢まで見た。

目覚めると、子は母に抱かれながら哺乳瓶をくわえ、懸命に口を動かしていた。
ミルクを飲み終わったその小さな人は大きな欠伸をひとつし、はちきれんばかりのむちむちの左手で目を執拗にこすってから眠りに落ちた。
父と子、二人の午睡を順に見送った母はようやく来た自分の時間を慈しむように、いそいそと鍋に火をかけ、「浮島」を蒸しはじめたのだった。

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