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貨幣と資本(第12回):第10章 BS勘定行列分析の枠組み

10-1. 分析の目的

第1章で示したように、従来のマクロ経済学、特に経済成長論の領域では、金融部門の存在と活動が排除されていた。しかし、本稿のこれまでの議論の中で、SNAの勘定科目体系とその相互間の勘定連絡(恒等式)を通じて、マネーストック増殖額(ΔM)、貯蓄(S)、投資(I’)、資本蓄積(ΔK)等が相互に有機的に連関していることを証明した。

本章の目的は、地価・株価といった資産価格バブルの発生と崩壊という経済的ショックが、信用連関(Credit Interlinkage)としての金融資産・負債の膨張と収縮にどのように影響するのか、そして最終的に一国経済全体の資本(K)、すなわち国富に対して及ぼすダイナミックな乗数効果を定量的に測定・分析することにある。また、そのような経済的ショックに対し、政府による公共投資や事業会社による設備投資を金融機関からの借入(Debt finance)により実施した場合、一国経済全体の金融資産・非金融資産、負債、そして資本(国富)にいかなる影響を及ぼすか、についてもシミュレーションと分析を実施する。

加えて、本章では、海外部門において、新たな国際機関としてケインズ型のアジア決済同盟(仮称、CUA: Clearing Union of Asia)を各国政府の出資により設立の上、中央銀行間のネットワークで貿易決済等の運用を行った場合、一国経済全体の資本(国富)や経済成長にいかなる影響をもたらすか、シミュレーションと分析を実施する。とりわけアジア決済同盟(CUA)が資本として発行する暗号資産(Blockchain Equity)だけでなく、貿易決済等を目的として加盟各国中央銀行に提供する同暗号資産建の当座預金(Monetized Blockchain)を導入した場合、一国経済全体の金融資産・非金融資産、負債、そして資本(国富)にいかなる影響を及ぼすか、についてもシミュレーションと分析を実施する。

10-2. 分析方法

地価・株価といった実体資産の価格変動による金融資産・負債、そして資本(国富)への乗数効果を測定するため、本章では、SNAの貸借対照表を制度部門別に行列化した上で、標準化した金融係数行列を用いたレオンチェフ逆行列と同様の分析方法を用いる。

従来、レオンチェフ逆行列は、SNAの2.国内総生産勘定を行列化した産業連関表において、投入・産出分析(Input/Output Analysis)を行うため、レオンチェフ(Leontief W.)によって開発されたものである。

本章ではこれを応用し、SNA上の金融部門による過去の活動の蓄積ともいえる3-3.金融勘定の金融資産・負債を制度部門別に行列化した。これを「金融勘定行列」と呼ぶ。その上で、1.貸借対照表勘定上の(借方)非金融資産(実体資産:土地/生産資産/株式)を制度部門別にベクトル化すると共に、(貸方)資本(国富)についても制度部門別にベクトル化した。

T型勘定(T-Account)から勘定行列(Accounting Matrix)への変換

本稿の第3部及び第4部では、複式簿記の貸方(右側)と借方(左側)から成るT型勘定(T-Accounts)にSNAを組替えて分析を行ってきた。

この第5部では、地価・株価といった実体資産の価格変動による金融資産・負債、そして資本(国富)への乗数効果を測定することを目的として、SNAのT型勘定(T-Accounts)による1.貸借対照表勘定と3-3.金融勘定を基礎として、これらを更に2次元の勘定行列(Accounting Matrix)に組替える。

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