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1章 大陸を横断 -砂漠の町ツーソンへ

1-3 早速コウモリ関連施設へ

 5日間のオーバニー滞在中に、日帰りできるコウモリ関連の施設などに行った。

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 お隣マサチューセッツ州のバークシャー博物館では、ちょうど「MASTERS OF THE NIGHT」というコウモリ展をやっていた。アメリカのコウモリ保護団体Bat Conservation International(BCI)とその創設者でコウモリ研究者であり写真家でもあるマーリン・タトル氏が協力した企画展示で、ここ何年かアメリカ中を巡回している大がかりな展示だ。われわれも日本の博物館、科学館、動物園などでコウモリを紹介する展示をするので、一度見てみたいと前から思っていた。
 世界の多様なコウモリの紹介では、鼻葉があるヘラコウモリやキクガシラコウモリ、下唇に切れ目があるナミチスイコウモリ、鼻面の長い花蜜食コウモリ、喉が膨らんだオスのウマヅラコウモリなど特徴的なコウモリ頭部の像があって触ることもできる。キクガシラコウモリの仲間には鼻の周りに鼻葉という3次元的に複雑な形をした器官があって、2次元の写真でその形を理解してもらうことは難しいが、立体模型ならよくわかる。ただ、なぜそのような顔をしているのか、生態や行動と合わせた説明がもう少し欲しいところだ。ウオクイコウモリが水面から足で魚を採ろうとしていたり、木立の中のハイガシラオオコウモリ、橋の隙間に棲むオヒキコウモリ、葉裏をねぐらにするシロヘラコウモリ、洞窟や樹洞に棲むコウモリのジオラマもある。アメリカ各地を巡回しているだけあって、しっかりとした造りの展示だった。

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オスのウマヅラコウモリの頭部立体模型


 オーバニー郊外のハウズ洞窟Howes Caveにも行った。ここは、北アメリカのコウモリに大きな被害を与えている白鼻症候群が、2006年にアメリカで最初に発見された場所だ。Pseudogymnoascus destructansという真菌がコウモリの皮膚で増殖して、感染したコウモリは冬眠中に覚醒してエネルギーを使い果たして死んでしまうのだ。寒い所が好きなこの真菌は、コウモリの冬眠洞で待ちかまえている。その後この真菌はアメリカのあちこちに広がって、2020年現在、アメリカの35州、カナダ7郡で感染したコウモリが見つかっていて、数百万頭のコウモリが死んだと考えられている。コウモリの種によって影響は異なるようだが、冬眠洞によっては100%近くが死んでしまうこともあるという。この真菌はヨーロッパにも日本を含むアジアにもいるのだが、ヨーロッパやアジアでは冬眠洞を使っていない夏の間にこの真菌はいったん減り、アメリカのように大きな被害は出ていない。何か天敵がいるのか、あるいはコウモリに耐性があるのかもしれない。
 ハウズ洞窟は行ってみると普通の観光洞窟で、夏は一日に何千人もお客さんが来る場所だった。ツアーで行く範囲にはコウモリはいないということで、ボートに乗って鍾乳洞を見物して、コウモリTシャツなどを買って帰ってきた。
 知人の家から10kmほどの所には、ファイブリバーズ環境教育センターFive Rivers environmental education centerがあり。2009年に訪れた時に、敷地内に建つ納屋から飛び出すコウモリの観察をしたのだが、そのとき白鼻症候群でかつてたくさんいたトビイロホオヒゲコウモリMyotis lucifugusが激減してしまったという話を聞いた。今はどうなっているか尋ねてみると、ここは夏の繁殖場所でいちばん減った時は16頭になってしまったのが、昨年8月には64頭に回復したとの事。白鼻症候群に耐性ができたのか、それとも比較的真菌が繁殖しにくい乾燥した洞窟で冬眠するようになったせいかは不明だそうだ。もっとも昔はこの納屋に500頭ほどいたそうだから、回復はまだまだで、本来はごくごく普通種だったトビイロホオヒゲコウモリは、ニューヨーク州では絶滅危惧種になるかもしれないという。

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 ファイブリバーズ環境教育センターの敷地内ではいろいろな鳥も見られる。ミドリツバメTachycineta bicolorが巣箱に営巣していた。電信柱にも巣箱がかかっていた。