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【Q5完結】【Q5.南極観測船宗谷・特急宗谷・宗谷岬】5.宗谷岬に辿り着く

 日本最北端の駅、稚内駅。駅舎は土産物屋、観光案内所、飲食店、道の駅、バス営業所、市の公共施設と直結している。観光客で賑わっている。聖地の内外、周辺を見て回る。駅スタンプを忘れずに押す。


 バス営業所にて、宗谷岬までの往復切符を買う。次の便は一三時二〇分発、宗谷バス、中頓別行きだ。
 


 皆目指すところは同じようで、乗客は多いが、進行方向左側の窓際席に座ることが出来る。海が良く見える席だ。


 稚内市街地を抜けたバスは、海岸線に沿って敷かれた道路を、左右にカーブしつつ西に走る。この車窓に見える海が、宗谷海峡だろうか。今日は天気が余り良くない。洋上には鈍色の雲が重く圧し掛かっている。時折海鳥の姿が見える。


 一四時〇〇分、宗谷岬バス停にて下車。
 岬の最先端に向かう。最北の地であることを示すモニュメントが置かれている。各種メディアや動画で、既に何度も見たことがある。その前には、写真撮影の順番待ちの列が出来ている。自分はその列には並ばず、モニュメントの裏側に回り込み、海水に手を入れる。冷たい。現代の日本に住む、一般的な日本人が、公共交通を用いて到達可能な、日本最北の海水に触れた。実績を一つ解除だ。


 付近には間宮林蔵の銅像がある。


 南極観測船宗谷をスタート地点とし、特急宗谷に乗って宗谷本線を完全乗車し、宗谷岬に到達した。今回のクエスト『南極観測船宗谷・特急宗谷・宗谷岬』を、これにて達成したことになる。

南極観測船宗谷から宗谷岬まで(黄色部分は、宗谷本線運休による札幌滞留日)


 
 クエスト達成に要した時間は五二時間。宗谷本線の運休のため、丸一日札幌にて待機していたため、実際に要した時間は二八時間程度だ。航空機を用いない、可能な限り鉄道に拘るという条件(レギュレーション)ならば、これが最短のルートとなるだろう。新函館北斗から札幌までの終電は、今回乗った新函館北斗一九時〇六分発の北斗21号であり、これは動かせない。その北斗21号に間に合う最も後発の新幹線もまた、今回乗ったはやぶさ・こまち27号、東京駅一四時二〇分発だ。
 本クエストのスタート地点である、南極観測船宗谷からの出発時刻を遅らせることで、ある程度の時間短縮は可能だ。その場合、新函館北斗から札幌までの移動に、夜行バスを使用することとなる。新函館北斗を〇時台に発車する札幌行きの夜行バスに乗れば良い。その夜行バスに間に合うためには、一九時二〇分発東京駅発の、はやぶさ・こまち45号に乗れば良い。この新幹線が、東京発新函館北斗着の終電である。この新幹線は、二三時二九分に新函館北斗に着く。
 南極観測船宗谷の、閉館時刻は一七時だ。閉館時間ギリギリに出発しても、その日のうちに新函館北斗まで着くことが可能で、夜行バスに間に合う。六時間ほど、タイムを短縮できるだろう。
 逆に言えば、この「夜行バス利用ルート」は、「飛行機利用ルート」と結果は全く変わらない。南極観測船宗谷の閉館時刻が一七時である以上、スタート時刻は、それ以上遅らせることは出来ないからだ。 

はやぶさ・こまち27号


札幌に着いて回送車輛となる北斗21号


 しかしながら、このクエストに、そこまで追求する価値が、果たしてあるだろうか? 正直、無い。このクエスト自体に、さほど達成感が無い。微妙な感じがする。特急宗谷の旅は、実に素晴らしいものであったが、スタート地点である「南極観測船宗谷」が、宗谷海峡とも宗谷岬とも、実は余り関係がないためだ。そもそもこの企画の設定自体が、微妙なものであったのではないかという疑問を、企画実行した本人も感じざるを得ない。 
 
 大勢の観光客のため、宗谷岬周辺はとにかく騒がしい。この空間に、寂寥感、詩情、抒情、旅情といったものは存在していない。
 土産物屋の青い建物が目を引く。もちろん日本最北の土産物屋だ。柏屋。スタンプを押し、記念品を買う。


 日本最北端の公衆トイレがある。
 


 道路を渡った陸側にも店が並んでいる。レンタサイクルがある。尋ねると、ここで自転車を借りて、稚内駅にて返却することが可能であると言う。バスで三〇分強の道のり、自転車で走れないこともないだろう。実際に挑戦する者もたまに居るというが、今日のこの天気では、さすがに挑む気にはなれない。今にも雨が降り出しそうだ。



 展望台に登る。景色は素晴らしいが、今日の天候だと樺太までは見えない。
 この丘の上に、宮澤賢治の文学碑があると案内板に表示されているが、探す時間は無かった。次の、一四時五七分発のバスが最終便だという。滞在時間が短く、物足りないと感じるが、他に交通手段がないため致し方ない。
 帰りのバスの列に並んでいると、本格的な雨と突風に襲われる。
 復路のバスでも、左手の窓際席に座れる。稚内駅バスターミナルまで、陸側の車窓を眺めることになる。進んで行くと、途中の高台に、稚内空港が見える。ごく小さな空港だ。窓ガラスには雨滴が付いたり付かなかったりしている。不安定な天気だ。


 一五時四九分、稚内駅前着。
 観光案内所にて、レンタサイクルの相場を確認し、周辺の飲食店について情報を集める。稚内の名物は、チャーメンという麺料理と、たこしゃぶだと、若い男性職員が教えてくれる。テキパキしていて、イケメンだ。チャーメンが食べられる中華料理屋と居酒屋を何軒か教えてくれて、パンフレットにマークを付けてくれる。そのうちの一軒に入る。
 夜は貸切となっているので、今日は夕方のみの営業とのことだ。メニューも一部の品しか頼めないと、予め言われる。
 チャーメンとビールを頼む。チャーメンは、焼きそば風の麺に、中華あんかけが豊富に乗っかった料理だ。普通に旨い。ビールは勿論、サッポロビールだ。当然だ。議論の余地は無く、何の異論もない。
 料理には特に文句は無いのだが、現金で勘定を支払うと、釣銭が五〇円少なく帰ってきた。その場で指摘すると、素直にもう五〇円帰ってくる。百円玉と五〇円玉をただ単に見間違えた単純ミスなのか、故意なのか、中年の男性店員の表情からは読み取れない。

 腹ごなしに駅周辺まで歩いて戻る。タイミング良く、特急車両が入線してくるのを目撃したので撮影する。後から調べてみると、一七時四四分稚内発の特急宗谷であった。自分が今朝札幌から乗ってきた、はまなす編成とは異なり、普通の特急車両であった。


 稚内駅周辺の商店街では、スーパーが一軒営業している。それ以外の商業施設は、余り営業している気配がない。
 今夜の宿は、稚内駅から大分離れている。稚内と、一つ南の隣駅、南稚内の中間ぐらいの場所だ。八月の北海道は観光シーズンに突入しており、自分の予算の範囲内で宿泊可能な施設が、そこしか見つからなかったのだ。
 歩く。高緯度地域のためか、日没がやはり遅い気がする。いつまで経っても明るい。途中「瀬戸家住宅」という建物の前を通る。文化財指定を受けた建物だという。残念ながら、今日は既に閉館していた。



 公文式の看板を掲げた建物を見かける。


 夜の稚内は流石に涼しい。旅館の部屋には扇風機が備えつけられているが、それすら必要ない位だ。大浴場に浸かった後、小雨が止んだタイミングを見て、旅館近くのセイコーマートに走って酒とツマミを買う。適当に吞みなおす。


 セコマには歯間ブラシも売っていたので、これで歯を手入れして眠りに就く。小雨が降ったり止んだりしている。 

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