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終わりの夢_2001??


それの第一報はこうだった
「奇跡!?怪奇!?少女の体に幾何学模様のアザ」

そこはちょっといかがわしい類のニュースを取り扱うサイト
数年前、南のとある国に住む少女の腕に市松模様を不規則に崩したような模様の黒いアザが出来たというニュースを取り上げたものだった
少女本人はもちろん家族にも心当たりの無いもので、痛みも無ければアザ以外の体調の変化は無いらしい、と地元記者
「とくに気にしていませんが、何かの偶然が重なったのかもしれないですね」
と少女の母親
記事には、大勢の大人たちに囲まれ腕をカメラ前に突き出させられた少女の写真が掲載されている
その腕には、確かに不思議な形のアザがある
「悪戯に入れられたタトゥーなのではないか」
「ただの落書きでしょ」
「宇宙人からのメッセージにきまってる」
「虐待」
ちらほらと書き込まれたサイトのコメント欄もほぼ否定的である

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ニュージーランドの羊が大量死するというニュースがまたそのサイトに載った
遊牧してあった羊の約半数が倒れていたという
地元警察は病気か事件か調査を進めているとのことだが、他の大事件や国際的なニュースに紛れて誰にも語られることの無いまま埋もれていく

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兄に手を引かれ走っている
向かう先は昔通っていた小学校だ

兄が見ていたテレビが言うには、日本の各地の幼稚園児の体のどこかに不思議な模様が現れているらしい
そんな話、どこかで聞いたことがあるような気がする
すると突然兄が「来た」と呟いた
視線の先は窓の外、庭に生えている柿の木の葉っぱに、今テレビに出ていたのと同じ模様が浮かんでいる
市松模様を不規則に崩したような黒い模様
いつかどこかで見たような

言われるがままに貴重品をカバンに詰め込む
あれもこれもとそこらにある物を詰め込むが師匠のCDが1枚も無い
DVDも、チケットの半券も、何もかもが消えている
他の人のCDは確かにあるのになぜ
持っていた記憶もある
ここじゃない所に置いていたかもしれないと、あちこちの部屋を探すがどこにも無い
いや、本当に持っていたっけ
曲名が出てこない
歌おうとするとデタラメでめちゃくちゃな歌詞や、身に覚えのないメロディが出てくる
こうじゃない、あの曲はもっと水平線みたく広い歌詞でもっと高く暖かい音程の歌だったはずなのに
「早くしろ」と兄に急かされる
何にも思い出せない、そもそもそんな曲無かったかもしれない
そこだけすっぽりと記憶が抜け落ちたような違和感がある
むしろ違和感だけが確かにある

小学校に着くと、自分たちと同じように荷物を持った人々が集まっている
頬や腕や足にあの模様が浮かんでいる人もいる
不安そうに身を寄せ合い、ただただ集まっている

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落ちている小石にも、花壇の花にも、飼っていた兎の耳にも、どんよりくすんだ池で泳ぐ鯉にもあの模様がある
兄の首から左頬にかけてあの模様が浮かんでいるのが見えた
ブランコや校庭のサッカーゴールにも
私の右腕にも、いつの間にか模様が貼り付いている

人々が空を指差す
見上げるがそこには何も無い、ただの青空だ
叫び声や泣き声が聞こえる
ふ、と瞬きをして目を開けた瞬間には、空に大きくあの模様が存在した
音もなくまるでずっとそこにあったかのように


夢の中の私は考えている
例えばこれが悪魔の顔や、もっとおどろおどろしい模様、或いは痛みや苦痛を伴っていたとしたら素直に神に祈れただろうか
もっと「正しく」怖がれたのだろうか
悲しみや未練や恐怖や、もしくはある種の開放感とともに世界が終わる絶望というものを感じられただろうか

巨大な模様が浮かんだ空を見上げている
雲はいつものように流れ鳥も飛んでいるが、きっと雲にも鳥にも、これはついているのだろう
自分の右腕を見る
いや、生まれた時からこれはあったのかもしれない、見えていなかっただけで
思い出せば過去の記憶の自分にもあったような気すらする
記憶がどんどん改竄されていっているような、しかも改竄された記憶の方が本物のような
何もかもがあやふやになっていく

また瞬きをし、次に目を開けると全ては闇だった
確かに目は開けたはず…開いたと思う
瞬きを繰り返す…瞬きの仕方を思い出せない、しているはず
立っている足の裏の感覚…らしきものはまだある、あるような気はしている
まるで劇場でライトが落とされる時のようにあっけなく、この世は消えた
何も見えず、何も聞こえない

それでもまだ私は私として思考している
たったこれだけが世界の終わり
もしかしてこの世は何かを間違えていたのだろうか

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目が覚めると凄まじく息が上がっている
急いでメモを取りながら「失格」「烙印」という言葉が頭に浮かんでいた
CDは棚にちゃんとあるのを確認した

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