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売られた女の夢_200611

さまざまな年齢の女が10人ほどで細長く屋根のついた船に乗っている
周りはジャングルのように木が生い茂っている
空は曇っていて、今にも雨が降りそうな冷たい風が吹いている
昼間だと思うが薄暗い
船を漕ぐギイギイという音と水が船に当たるちゃぽちゃぽという音だけがしている

私たちはみな売られてきた女たち
髪は船に乗る前に肩で切りそろえられ、服装も白いシャツワンピースのようなものを与えられた
これから川伝いに海に出て、そこの港にある酒屋に行くのだ
そこには昔から地方で売られた女たちが集まっていて、
毎月自分たちのように新しい人材が流れ着くのだという


港につくと、そこには大江戸温泉のようなレジャー施設があり、正面玄関から中へ入る
「(へぇ、全然綺麗じゃん)」
周りを見渡しても新しい施設に見えた
サングラスをかけたオーナーらしき大柄な男が、なにかリストを手にこちらへ来る
「お前とお前は風呂へ、お前はキッチンへ、お前とお前はこれからそのまま店に出ろ」
その他は待機部屋で準備をしておけ、と言い捨ててオーナーは去った

私はこのまま店に出ろと言われた
いくらなんでもさっきまで船に乗っていた身、
なんの作法も教えてもらえずとはずいぶん乱暴、とか思いながら、
先輩らしき女の人の後ろについていく

「まずここでシャワーを浴びて、この制服に着替えて」
ピンク色のサテン生地がまぶしい、ドンキホーテに売ってるみたいなカラーセーラー服を渡される
「化粧は派手目に、アイシャドウに赤は使わない、わからなければ誰かに聞いて」
とりあえずシャワーを浴び、どうやってここから逃げ出すかを考え始める
噂では、吉原よろしく旦那を見つけるか足抜けするしかないらしい
とてもめんどくさいなあ、裏方でいいから普通に雇ってもらえないだろうか
そうしたら逃げなくても済むのだが

どこかの楽屋みたいな部屋で化粧をし、
私たちは温泉ホテルの宴会場のように広く、畳に長いテーブルが並ぶ部屋で待機する
これが店らしい
そして新人はこのピンク色のくそダサいセーラーを着るのが慣わしのようだ
高級感あふれる綺麗な先輩たちは色とりどりのキラキラしたドレスを着ている

「お客さんについたらまず自己紹介をして、名前を覚えてもらうこと」
「お酒は水割りとビール、オーダーの取り方と作り方をすぐ覚えること」
「手を出されたらボーイを呼ぶこと」
「名前を覚えてもらってお得意様になったら、二人で外で会う事もある」
「チェキやサービスは別料金」
なんかいろんな仕事が混ざっている
なるほど吉原キャバクラ地下アイドルというかコンパニオンというか
つまりお客が喜びそうなことをギリギリまでやってりゃいいのか


お店が開くと、絵に描いたような海の男たちがなだれ込んできた
朝から働いているので、昼間のこの時間は漁師たちのゴールデンタイムだそうだ
長いテーブルのあちこちにお客さんが自由に座り、見計らって女たちが隣に座る
私もひげの濃い、いかにもな男の横に座った
声は大きいが普通の男の人のようだ、名前を教えてお酒を作る
今日きたんですよーとか何とか言いながら適当に話をする

しばらくそうしていると、店の入り口がざわついた
細身の黒いコートの男性、銀色の何かが光った
げ!師匠だ!なんで???
見ると白の師匠がギター片手(!)に店に来た
お酒も飲まない、ここには食べられる料理も無いはずなのになぜ…
唖然としていると、一番綺麗なドレスを着た先輩がエスコートに入る
ちょっと恥ずかしそうにしながら、師匠は店の奥のVIP部屋に消えた
そらそうだ、こんな平場で飲むわけが無い
もしかして頑張ってVIP部屋に行ければサシでお話できるのでは?
しかもしかも名前とか覚えてもらって店外デートとか同伴も??


とはいえ私は昨日今日売られてきた、ただの女のひとりだ
ここで頑張ってなんになるのだ、もしそれで師匠が来なくなったら悲しいし
がんばるのやーめた、と私はすぐに目の前のお客さんにお酒を次いだ
しかしギターを持ってきているというのはいったいどういう…
もし目の前で弾いてもらえるのだったらいいなあ


勤め始めてしばらく経ち、そろそろ新人ピンクも脱ぎ始める頃
「今日は貸切店仕舞い、女たちはみんな店に出るように」
との通達
今日は誰かが店を買い占めたらしい
おおいいぞ、今日はあのやかましくてしつこいヤツの相手をしなくていい
めんどくさい夜の断りもしなくていい
女たちはキャアキャア言いながら化粧をしていた

店内にスタッフ勢ぞろいで列をつくり、その特別なお客を待つ

その客とはやはり師匠だった
しかも今日は会然TREKの衣装を着て、会人さんまでいる
なんというサービス精神、しんじらんないんですけど
綺麗どころ数名がエスコートをし、上座へお連れする
私は完全にあぶれているので、なにか演芸でもすべきなのか、
はたまたいつものようにぼけっと座っていてもいいものなのか
考えあぐねた結果、他の女たちと一緒に遠くの席から師匠をずーっと観察していた
何も口にせず、たまにお話中に微笑み、ずっと穏やかにしておられる
先輩たちに言われるままにお酒をつくり、皿を運ぶついでに近くにいけてもすぐ離れ

私(夢である事を知ってる意識)は自分の夢なのに何をしているのだと思ってはいた
だが現実でもそうであるように、誰かに何かをするにはそれ相応の関係が要る
でも今は自分がそれをするのに必要な関係を持っていない
だから何も出来ないししない
いつもの喧しいお客がいないだけマシと、ぼうっとグラスを傾けていると
「名前を呼ばれたものは前に出るように、これから街へ出る」
とオーナーが叫んだ
いいなあ、店外だ
取り巻きでもいいから呼ばれないかなあと思っていると、
運よく最後に名前が呼ばれた
やった、外に出られる
でもなんで名前が呼ばれたんだろう

外に出ても列の一番最後をとぼとぼ歩くだけで、
なにをするでも命ぜられるでもない
街ではなにやら七夕に似たお祭りをしているようで、
あちこちにキラキラと吹流しや飾りが風に揺れている
何処からともなく笑い声がして、まるで街全体が酔っているようだ

自分がこの港に来てから、いったいどれだけの月日が流れたんだろう
もう以前の事など覚えてもいない
ふらふらと埠頭の端っこにたどり着き、海を眺める
かつて自分が乗ってきたボートが無人で船着場に浮かんでいるのを見た


「もう慣れましたか?」
声をかけられ振り向くと、優しそうな顔をした師匠がいた
「ありがとうございます、慣れましたが色んなものを忘れてしまいました」
「そうですか。でもそれは忘れたんじゃなく、忘れたかったんじゃないですか?」


夢の中の師匠は私が聞きたい台詞を言ってくれる
さすが夢だな
そう思いながら目が覚めた

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