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大人になってからの勉強は、どうしてこんなに楽しいのか?

大人になってから、勉強がすごく楽しいです。
これは私だけではないです。
私の周りでも、ネットでも、そういう人をたくさん見かけます。

どうしてそうなのか?と疑問に思ったので、その原因を自分のために整理したのですが、せっかくなので、記事にしました。

全部で10個の要因を思いついたのですが、備忘録を兼ねて、ここに書いておきます。



(1)知識蓄積

そもそも学習というのは、知識を自分の中の知識と有機的に結びつけることです。

知識を知識と結びつける

保有する知識が多ければ多いほど、自分の中のさまざまな知識と結びつけやすくなるので、学習しやすくなります。
このため、累積知識量が多い大人は、知識を素早く深く習得することができます。

年に50冊程度の本しか読まない人でも、中年になるころには、累計で1000冊以上の本を読んでいます。
このため、中高年の保有する知識量は膨大なものになります。
しかも、大人は、それらの知識を活用して生活・仕事・趣味・思索・議論をすることがよくあります。
だから、それらの知識のけっこう大きな割合が血肉になっています。

なにより、知識が知識とつながる瞬間に謎の快感が走るのが大きいです。
「ああ、これは、これとこんな風につながっているのか!」という感動が起きます。
面白いし、楽しいし、感激するのです。

だから知識量の多い大人は、勉強するのが楽しいのです。


(2)体験蓄積

体験の蓄積が多ければ多いほど、学習は楽しくなります。
なぜなら、知識は体験と結びつけることで、素早く深く理解することができるからです。

知識と体験の結びつけ

たとえば、多くの大人は、仕事・親戚づきあい・遊びなどで、さまざまな土地で、さまざまな人と、さまざまな体験をしています。
このため、さまざまな土地が、そのときの情景・思考・感情と結びついた形で血肉になっています。

だから大人が地理・地形・地質の本を読むと、今までに体験した土地の情景・記憶・感情を思い出し、深く味わうことができます。
「あの頃、毎日汗だくで通った建物のあるあの地形は、こうやってできたものなのか」と、感動したりするのです。

これは、地理や地質に限った話ではありません。
今までに住んだ様々な土地の植物の記憶があるので、植物に関する本も興味深く読めます。
「あー、あのよく見るこの変な草って、スギナと同族だったのか。しかも、スギナってシダの一種だったのか」と、いろいろ楽しめます。
子育てした経験があれば、歴史上の人物の親子関係の話も無味乾燥な歴史記述以上のものになります。

だから、体験の蓄積が多い大人は、子供よりも素早く深く学習することができるのです。


(3)政治ゲーム

サラリーマンは、たくさんの利害関係者の事情・利害・感情・関係を調整しながらでないと、仕事が進みません。

政治ゲーム

このため、利害関係者の複雑な事情・感情を読み取り、行動を予測する能力がどんどん発達していきます。

これは紀元前から変わりません。
組織の中で働く人間は、古今東西、みな同じです。

このため、サラリーマンは、歴史の本はもちろん、紀元前に書かれた文献を読んでも、登場人物たちの行動の事情・動機・感情をリアルに感じ取りやすいです。
だから歴史の本の理解力も吸収力も高いのです。
たとえば、私は特に『ガリア戦記』が大好きなのですが、その一行一行の裏にある事情に共感してしまうし、それらに込められた巧妙な政治的メッセージにもいちいちニヤリとしてしまうし、何度舌を巻いたかわかりません。
あまりにリアルに背景と事情が伝わってくるので、とても紀元前に書かれた書物とは思えないくらいです。

これにより、まったく同じ歴史文献を読んでも、大人と子供では、全く別の読書体験になります。
子供にとっては無味乾燥な知識でしかないものが、大人にとっては血湧き肉躍る壮大なドラマとなるのです。


(4)時代

昔は、スポーツは努力と根性で語られることが多かったのですが、生理学からのフィードバックや戦略の言語化により、ずっと効率よくスポーツ技能を向上させることができるようになりました。
学習もそれと同じで、昔は、学習機材も学習教材も学習法も、今よりもだいぶ効率が悪かったです。
逆に言うと、ここ30年くらいの間に、それらが飛躍的に進歩したのです。
このため、中年の人が子供だった頃に比べると、今は、ずっと快適に、効率よく学習することができます。

これも、子供の頃の勉強より、大人になってからの勉強の方が楽しいと感じる理由の一つだと思います。



(5)インターネット

これは「時代」要因の一種ですが、
インターネットの発達によって、学習効率が劇的に上がりました。

インターネット

子供の頃、ネットがなかった人は「わからないことをググる」ということができませんでした。
オンライン英会話などのサービスも利用できませんでした。
これらができるのとできないのとでは、学習のしやすさも楽しさも大きく違います。



(6)スケジュール裁量

学校だと、決まった時間に勉強しなければなりません。
しかも、それは、自分で決められません。
だから、勉強する気が起きないときにまで無理に勉強することになるので、授業に集中できず、ついついほかごとを考えてしまったり、眠くなったりします。

居眠りする生徒

これに対し、大人は、勉強したい気分のときにだけ勉強することができます。
だから勉強に集中できます。

勉強したいときにだけ勉強するのであれば、勉強は楽しくて当たり前です。



(7)学習対象の裁量

大人は、勉強したいものだけを勉強することができます。
数学にも歴史にも興味がなく、英語だけを勉強したいのなら、英語ばかりを勉強することができます。
発音に興味を持ったのなら、発音ばかりを学習することができます。

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やりたい勉強だけをやるのだから、勉強が楽しくて当たり前です。



(8)お金

たとえば、英語を学習する場合、学習用のソフトウェア、ハードウェア、スクールを適切に選択すれば、学習効率は大きく上がります。
しかしながら、多くの子供は、高価なソフト、ハード、スクールを購入するお金はありません。
大人になると、それこそ何百万円もこういう学習機材や学習サービスにつぎ込むことができたりします。

大人のお金

また、多くの子供は、そもそも、学習用のハード、ソフト、スクールなどの選択肢をろくに知らないというのもあります。
だから、それらを親にねだることすらできません。

もちろん、お金があったとしても、お金をかけるべき対象を間違えれば学習効率はあまり上がりません。
しかし、それらの選択肢を知っていて、かつ、お金をかける対象さえ間違わなければ、あとはかけられるお金の量の問題になります。



(9)学習テクニック

大人は、仕事に必要な業務知識を習得する過程で、効率よく学習するテクニックを習得します。
学習方法を学習するのです。
さらに、先輩・上司・同僚の学習のやり方を見て、自分の学習方法を改良していきます。
しかも、楽しく快適に勉強する技も身につけていきます。

このため、学習能力自体が、年々上がっていきます。
大人は、長年かけて身につけた学習テクニックを使って学習するので、楽に楽しく勉強できるわけです。



(10)学習慣れ

中途半端に空手を習っている人よりも、単に喧嘩慣れしているだけの素人の方が喧嘩が強いことは、よくあります。
学習もそれと同じようなところがあって、学習テクニックをいっぱい知っている人より、単に「学習慣れ」している人の方が学習能力が高いことがよくあります。
そして、子供よりも大人の方が「学習慣れ」しています。

ただし、これは職種や企業や担当案件によって違います。
たとえば、「体制の整っていない中小企業で、炎上プロジェクトを引き継ぐ」みたいな泥臭い業務の多い方だと「学習慣れ」しやすいです。

と言っても、そういう泥臭い経験のない方には、いまいちイメージがわかないと思います。
なので、具体例を挙げて説明します。

たとえば、私がとある炎上案件のプロダクト・マネージャーを引き継いだときのことを話します。
その製品は、B2Cアプリで、Android版とiOS版とWeb版があり、サーバサイドはJavaとRailsとMySQLで作られています。
ユーザの離脱率も高いし、トラブルも多い。
もともと外注で作られたものを、外部からの一時的な助っ人を入れて内製化している最中、という、わけのわからない状態になっていました。
内製化した後に継続的に改良していくにはデザイナーもエンジニアも足りません。
ユーザがどういう気持ちでこのアプリを使っているのかもよくわかりません。
そもそも製品コンセプトもはっきりしないし、方針も戦略もぼんやりとしています。
どっちの方向に向けてどんな努力をすれば成果が出るのかがわかりません。
英語の「manage to ~」というのは「なんとかして~する」という意味ですから、この状況を「なんとかする」のがプロダクト・マネージャーの仕事です(つらい)。

つらい3

そういう状況で、製品コンセプトを定義し直して、ビジョンと戦略を作り、エンジニアやデザイナーを採用し、チームビルディングし、定例ミーティングを設定し、ミーティングの運用方法を設計し、ユーザインタビューとA/Bテストを繰り返し、データ分析体制を整える必要がありました。
エンジニアが正当に評価されるように人事評価制度も作り替える必要もありました。

この泥臭い任務を遂行するために必要な「学習」を考えてみます。
まず、新しいプロダクトを担当することになったら、その業界知識を学ぶための本を何冊か読まないといけません。
また、マネージメントの本だけでも、ドラッカーのような古典から、リーン開発シリーズ、各種マネージメント研究の専門書に至るまで、読まなければならない本は多いです。最近のマネージャーなら、それに加えて行動分析や心理的安全性の本も読まないとなりません。
プロダクトのミッションとビジョンを定義するために、それらの作り方と実際的な運用方法についての本も必要です。
優秀なデザイナーやエンジニアを採用するために、面接技法を研究した専門書や文献も読まないといけません。
メンバーが納得感を持って働けるような人事評価制度を作るために、人事評価システムを研究した文献も読み込まなければなりません。
設計・開発・テスト・運用と、ソフトウェアエンジニアリングの本も何冊も読み込まないといけません。
それぞれのソフトウェアプラットフォームやフレームワークもある程度理解しなければならないですが、クライアントサイドもサーバサイドも複数のプラットフォームを使っていますから、読まなきゃならない本は多いです。
なぜプラットフォームやフレームワークを理解しなきゃいけないかというと、トラブルが起きたときに、それぞれのエンジニアたちの報告を理解し、議論をリードし、問題を切り分け、それぞれに指示を出すためには、それぞれのエンジニアが担当するシステムのアーキテクチャと構造をある程度理解できていなければならないからです。それぞれのアーキテクチャはプラットフォーム上に構築されているので、プラットフォームを理解しないと始まらないのです。
また、フェアな人事評価をするには、それぞれのエンジニアが書いたソースコードをある程度理解していないといけません。そしてソースコードを理解するには、プラットフォームを理解しておく必要があります。
また、効果的なユーザインタビューのやり方、UI/UXデザイン、A/Bテスト、データ分析、データ視覚化についての本も読んでおく必要があります。それらの知識がないと、担当者とちゃんとした議論ができないからです。

それらの情報を短期間に脳にインプットしつつ、即座にそれらの知識を活用できなければ、この泥沼を上手く切り抜けられません。

しかも、これに類した学習行為を、何十年もの間、担当プロダクトや担当部署が変わるたびに繰り返し続けていたりします。
その結果、知らず知らずのうちに「学習慣れ」しています。

これにより、たとえば、大人になってから高校生の教科書を読むと、その情報量の少なさに驚いたりします
え? たったこれだけの情報を頭に入れるのに1年もかかったの? みたいな。

なので、こういう泥臭い仕事を数多くやってきた大人は、仕事と関係ない勉強をすると、楽にできるというわけです。
なろう小説の主人公みたいに「俺つえええええええ」ができるわけです。

俺つえええええ




■おわりに

大人になると、これら10個の要因の相乗作用により、勉強が楽しくなる人が多いのだと思います。

だから、子供の勉強と大人の勉強は、一見同じように見えて、かなり異なる体験なのです。

そもそも、目的が異なります。

多くの子供は主に将来のために勉強しますが、
大人は、単に勉強が楽しいから勉強しているケースが多いのではないでしょうか。

こういうわけで、私は、今日も楽しく勉強しているのです。


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※この記事は、文章力クラブのみなさんにレビューしていただき、ご指摘・改良案・アイデア等を取り込んで書かれたものです。

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