採用面接で志望動機を聞くよりもやるべきこと

志望動機は自己申告です。
だから誤魔化しがききます。

誤魔化しができる質問をして、なんの意味があるでしょうか?
応募者だって「こんなの茶番だ」と思ってるんじゃないでしょうか?

実際、志望動機と入社後のパフォーマンスの相関を調べた研究データも探してみましたが、ろくなエビデンスが見つかりませんでした。
経験的にも、志望動機が「単にお金を稼ぎたいから」という人と、「企業理念に共鳴したから」という人で、入社後のパフォーマンスに違いはなかったです。

そんなことに時間を使うより、わざわざ自社の面接を受けてくださった応募者が望んでいることをして差し上げることに時間を使うべきではないでしょうか。

では、誠実で優秀な応募者は、面接において、何を望んでいるのでしょうか?

私はITエンジニアの面接の経験が多いので、格闘家を例に話をします。

格闘家は、自分がいかにすごい格闘家であるかを「語りたい」のではありません。
強力な対戦相手を鮮やかに倒してみせて、自分がいかにすごい格闘家であるかを「見せたい」のです。

優秀なITエンジニアも同じで、自分がいかに優秀なITエンジニアであるかを「語りたい」のではありません。
自分が優秀なITエンジニアであることを「見せたい」のです。

そのためには、たとえば、
「○○の引数をとって□□を返す関数を書いてください」
と言って、ホワイトボードにプログラムを書いてもらうのがいいです。
そして、その書く時間を計測し、書く過程を観察するのです。

すると、応募者は、
正確で、無駄がなく、読みやすく、バグりにくいコードを、素早く書いて見せます。
それによって、面接官たちに自分の実力を見せ、そのすごさを実感してもらいたいのです。

また、彼らが腕を見せやすいように、なぜそのようなプログラムにしたのか、根掘り葉掘り聞いて差し上げなければなりません。
すると、そのエンジニアは、なぜそう書かなければならないのか、持論を語ります。
そこで、プログラミングの思想と見識を「見せる」ことができます。
面接官が理解していない、そのプログラムの凄さ、奥深さ、自分の洞察を、面接官に「見せる」機会を応募者に提供するのです。

その過程で、応募者は、自分のコミュニケーション能力も「見せる」ことができます。
面接官の質問を的確に理解し、打てば響くように、迅速かつ簡潔かつ的確に答えられる自分のコミュニケーション能力の高さを見せられるのです。
彼らは「自分はコミュニケーション能力が高い」と「語りたい」のではないのです。
高いコミュニケーション能力を、実演して「見せたい」のです。

それどころか、自分の人柄まで「見せる」ことができます。
わからない点をつっこまれたら、誤魔化さずに「そこは、よくわからない」と素直に答えることで、自分が謙虚で誠実な人柄のナイスガイであることを見せられるのです。


中途採用の場合、それに加えて、実際の業務課題の一部を切り出したミニテストをやっていただくのがいいです。
たとえば、面接官自身が過去に経験したトラブルの発生時の状況を説明し、そのトラブルシューティングのために、具体的にどのような手を打っていくのかを聞きます。
最初に何をするか聞きます。
その答えを聞いたら、「ですよね、そこが怪しいですよね。だから僕も、まずはそこを調べました。そうしたら、こうだったんです。この場合、次に何をしますか?また、それはなぜですか?」
などと聞きます。
それを繰り返していくことで、応募者は自分がどのように問題を切り分けて、正解にたどり着くのか、そのプロセスを「見せる」ことができます。
もちろん、その過程で、応募者は、人柄とコミュニケーション能力も「見せる」ことができます。


さらにそれに加えて、応募者が過去に経験したプロジェクトを一つだけ選んで、「狭く深く」聞きます。
そこで行った一つ一つの意思決定の理由を、高い解像度で精密に聞いていきます。
それによって、応募者は、自分が過去に行った意思決定のすごさを、面接官に「見せる」ことができます。
細部まで、よく考え抜かれた的確な意思決定を「見せる」ことができるのです。
(質問がぬるいと「見せる」じゃなくて「語る」になってしまうので注意)
彼らは面接官の「その発想はなかった」「めちゃめちゃよく考えてる」「深い…」「まじすごい」と驚く顔を見たいのです。

結局のところ、面接時間というのは、応募者が自分の実力を「語る」ための時間ではなく、
自分の実力を「見せる」ための時間なのです。

だから、面接官がやるべきは、彼らが思う存分に、気持ちよく「見せる」ことができるようにするための、お膳立てをして差し上げることなのです。

…などという面接官の持論を聞くより、論文を読んだ方がいいと思います。

なぜか?

たとえば、Rynes, Colbert, and Brown (2002)らによると、人事マネージャーの72%は、知能(intelligence)よりも誠実さ(conscientiousness)の方が入社後のパフォーマンスを予測すると考えていましたが、実際は逆であることが研究で分かっています。
つまり、人事のプロ、すなわち面接の専門家による面接の判断基準は間違っていたということです。

ここに、経験則の限界があります。
経験をいくら重ねても、誤った思い込みからは逃れられないのです。
素人だけでなく、専門家ですらそうなのです。

自分の誤った思い込みを打破するには論文を読むのがいいです。
上記で説明した僕の面接方法も、論文を参考に組み立てたものです。

手始めにこの記事を読んで、気になったところについて、根拠となる論文を読んでみるといいと思います。

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※この記事は、文章力クラブのみなさんにレビューしていただき、ご指摘・改良案・アイデア等を取り込んで書かれたものです。



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