今日一日も 新聞のにおいに 朝を感じ 冷たい水のうまさに 夏を感じ 風鈴の音の涼しさに 夕ぐれを感じ かえるの声 はっきりして 夜を感じ 今日一日も終わりぬ 一つの事一つの事に 神さまの恵みと 愛を感じて キリスト教誌「百万人の福音」 水野源三
小さな娘が思ったこと 小さな娘が思ったこと ひとの奥さんの肩はなぜあんなに匂うのだろう 木犀みたいに くちなしみたいに ひとの奥さんの肩にかかる あの淡い靄のようなものは なんだろう? 小さな娘は自分もそれを欲しいと思った どんなきれいな娘にもない とても素敵な或るなにか…… 小さな娘がおとなになって 妻になって母になって ある日不意に気づいてしまう ひとの奥さんの肩にふりつもる あのやさしいものは 日々 ひとを愛してゆくための ただの疲労であったと 茨木のり子
ベンチがひとつ あるだけの 小さな公園で 膝に とんぼ
日々は、決して晴れた日の川面のようにきらきらと光ってはいなかった。 それでも自分の人生は、小さなことで笑い、そのかわりに小さなことでも泣いている、平凡で緩やかな川だった。 道尾秀介 龍神の雨より
人に会う 電話に出る 買い物に行く 風呂に入る どれもが億劫な日
久々の便り 何とか生きています。 最後の一行を しばらく 見ていた
動物園の珍しい動物 セネガルの動物園に珍しい動物がきた 「人嫌い」と貼札が出た 背中を見せて その動物は椅子にかけていた じいっと青天井を見てばかりいた 一日中そうしていた 夜になって動物園の客が帰ると 「人嫌い」は内から鍵をはずし ソッと家へ帰って行った 朝は客の来る前に来て 内から鍵をかけた 「人嫌い」は背中を見せて椅子にかけ じいっと青天井を見てばかりいた 一日中そうしていた 昼食は奥さんがミルクとパンを差し入れた 雨の日はコーモリ傘をもってきた。 天野 忠
歳月は遺族たちを癒さない。 奥野修司 心にナイフをしのばせてより