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第109〜like a rocker〜

久しぶりに長く雑談をした。といっても30分である。今の教室では、どれだけ続いてもそれくらいが限界だろう。無論限界とは、自然ともたらされるのである。教室の反応と空気によって千差万別である。私の話を引き出すのは、常に生徒諸君の具体的なリアクションをおいて他にない。事実、50分とか雑談していた教室も過去にはあるわけだ。

「人はなぜ歌うか」ということについて、まあいつもの話である。混沌からの救済としての「型」。その秩序が歌の「姿」であるというようなことを淡々と語るわけだが、私は必ず祖父の死と万葉集をネタにする。祖父の死に際して、実家へ向かう新幹線の道中で読んだ『万葉集』の経験。もちろん挽歌である。

何も孝行のできなかった不出来な孫である。死んでからも、最愛の孫であったかもしれぬ私に授業で名前を出してもらえれば、祖父も少しは供養になるだろうと思ってしている話だ。私なりの、せめてもの罪滅ぼしのつもりである。

これまででは最も、学生諸君が熱心に聞いてくれたようであった。教室に真剣な空気が流れた。私の方を真っ直ぐに眼差していた。熱がこもった。熱意だけで言葉を紡ぎ続けた。有り難い。久しぶりの空間だ。

青少年諸君の裡に、人生に対する動機を育むこと。それだけが私の仕事なのであった。最近はすっかり忘れていた。原点に回帰して出直さねばならない。点数のことなど、知ったことか。

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