メルトリリスのケーキ事件

「私の!買い置きしたケーキが!」
これといった特異点反応もなく平和なカルデアで事件が発生した。メルトリリスのケーキが盗み食いされたのである!
「犯人を探しにいくわよマスター、きっちり責任取ってもらうんだから。」
「なんでもいいけどさ、どうしてケーキを僕の部屋の冷蔵庫に…?食堂に共用の冷蔵庫とかあったはずじゃ。」
「あら?不満かしら?むしろ光栄に思いなさいな、マスター?そんなことよりほら、さっさと探すのよ。」
「アッハイ」
こうしてマスター、藤丸立香とメルトリリスはケーキ盗み食い事件の犯人を探すことになったのだ。

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「誰が盗み食いしかた心当たりはないのかしら。そもそもこの部屋、誰が入れるの?」
「誰でも入れるよメルト、鍵はかけてないんだ。」
「相変わらず無用心ねマスター…いつかまた死ぬわよ。」
「…また?」
「いいえ、なんでもないわ。なんでも。それより本当に心当たりはないの?」
「ケーキといえば甘味!甘味といえば子供!つまりカルデア子供部屋に行けばわかるかもしれない。」
「あなた、ニューロンと口が直結してないかしら…」
そしてたどり着いたカルデアの一区画、通称カルデア子供部屋。幼子の姿をしたサーヴァント達がよく集まっている。ちょうどナーサリー・ライム主催のお茶会が開かれているようだ。そしてそこにはケーキを貪り食う茨木童子が!
「クハハ!京を襲っていたあの頃ですら味わえなかったこの極上の甘味。これを貪り食う!これぞ鬼よ!」
「ひとりじめはずるいわ、ずるいのだわ!みんなで食べるために用意したのに。」
「クハハ!鬼は奪うもの、けーきとやらは吾と酒呑で食べるのだ。」
「そらそうやけどなぁ、宴の席で無粋なことしてもしゃあないやろ?」
「なっ酒呑!?……クハハ、気分が変わった。吾は大江山の首魁!気前よくけーきを分けようではないか!クハハハハ!」
いつものように酒呑童子の手玉に取られる茨木童子、育ちの良さが垣間見えるがそれはさておき。
「むっマスターか。吾と共にけーきでも食べるか?」
「いいの?やったぜいただきます!」
と言ったところでメルトリリスの氷のような目線が飛んできた。
「あー…ところでそのケーキの山はどこから持ってきたの?実は僕の部屋からケーキがなくなってね、探してるんだ。」
「ん?吾を疑うか?これは買ったものだが。なんだ、意外そうな顔をするな。」
 不機嫌そうにやり取りを見ていたメルトリリスが口を開く。
「…ねえマスター?そもそもケーキをこんな大量に用意するのに、マスターの部屋の冷蔵庫からたった一切れを盗むとかそんなことするかしら。」
「あっ」
「あっじゃないわよ!まったく…」

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とぼとぼと廊下を歩くマスターとそのサーヴァント。
「やっぱり行き当たりばったりじゃダメかー。甘いものなら子供達と思ったんだけど。」
「ダメに決まっているでしょう?相変わらず緩みすぎよ貴方の頭。それに、見た目が子供なだけで中身はれっきとした英雄、怪物よ。」
「でも、そんな怖い人たちには見えないよ?」
「まったくもう、困ったマスター…それなら私はどうなの?私はヒトではないわ、怪物よ。」
「でもメルトは何度も僕を助けてくれた。怖がる理由なんてないよ。」
「甘いわね、貴方はいつだって。」
 そう言うとメルトリリスは驚いたような、安堵したような表情を浮かべた。
「それよりもマスター、カルデアには監視カメラがあるでしょう?映像を見たらはっきりするんじゃないかしら。」

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「それで、監視カメラの映像が見たいと?」
ここはカルデアの管制室。現在はマシュが当番のようだ。監視カメラの映像を流しながら容疑者を探している。
「確かに先輩の部屋を出入りした方々をチェックすることはできると思いますが。それよりもその、メルトリリスさん…?」
「なにかしら」
「その、カルデアには様々な人がいらっしゃるのは理解しているのですが流石にその格好はその、刺激が強すぎるのでは…」
「あら?私の姿に何か問題でもあって?小さな騎士様。」
「騎士様!?いえ、そうではなくてですね。なんというかその、先輩のそばにその姿でいられるのがもやもやしてですね。」
「不安なのかしら?確かにこの美しい、完璧な姿を見せつけられては不安になるのも仕方ないわね。」
「不安だなんてそんな。メルトリリスさんは信頼できる方なのは最近のレイシフトでもわかりましたし。私はただその、なんとなくもやもやするだけで。」
 そのような会話をするうちに、ついに監視カメラで藤丸立香の部屋に侵入した人物を発見した。
「この恰幅のいい人は…カエサルさん、ですね…」
 三人は顔を見合わせた。

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「やれやれ、こうしてバレてしまったわけだ。」
 メルトリリスがカエサルを問い詰める。
「それで、どう責任を取るつもりかしら?」
「もちろん弁償するとも!だがただケーキを食べるよりいい体験になったのではないか?そう、ケーキを盗み食いした犯人を探すというその行為!そのような時間をマスターと共に過ごせたこと、それこそが宝なのではないか?そう!つまり私がケーキを食べたことは結果的に」
「貴方、私がそんなことでごまかされると思って?」

 その後カエサルがその見た目に似合わぬ俊敏さをもって逃走を図ったものの、メルトリリスに追いつかれたのはまた別の話である。

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 「それにしてもメルト、なんでそんなにケーキにこだわってたの?」
 カエサルの弁償によって一回り大きくなって返ってきたケーキを机に置きながら彼は聞いた。
 「まったくもう、私がこだわっているのはケーキじゃないったら…マスター、今日は何の日かわかってないの?」
「誕生日おめでとう、マスター。ほら、せっかくのケーキよ、食べなさいな。」

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