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【E.モレル】日本の鉄道技術の基礎を29歳という若さで築き上げた恩人〜土木スーパースター列伝 #07

こんにちは、横浜国立大学大学院で交通流や人の流れに関する研究をしている池谷風馬と申します。『土木偉人かるた』を通じて、土木の世界をもっと広く多くの人に知ってもらう普及活動を行なっている土木リテラシー促進グループのメンバーでもあります。

私が今回ご紹介するのは、横浜で活躍し、交通と非常に関わりの深い土木偉人、日本の鉄道の恩人『エドモンド・モレル』です。お雇い外国人として明治期に来日し、英国人初代技師長として新橋ー横浜間の最初の鉄道建設を主導しました。

お雇い外国人とは、幕末から明治時代にかけて、当時先進的であった欧米の文化を日本に取り入れるために、教師や指導者として雇用された外国人のことです。

モレル

……と、ここまでは書けるのですが、実は私、このモレルさんのことをよく知らないのです(汗)。大学の講義で習ったことはありますが、人に紹介できるほどの知識がありません。

そこで、今回はモレルさんのことを現在進行形で学びながら、そこで知った彼の功績や土木学生からみた彼の偉大さなどを伝えたいと思います。


日本滞在わずか1年半、30歳で亡くなる

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旧横濱鉄道歴史展示にあるエドモンド・モレルのレリーフ

モレルさんは、1840年に英国で生まれ、当時英国の植民地であったオーストラリアやニュージーランドなどで鉄道建設に携わった後、1870年4月9日にお雇い外国人として船で横浜港に入港します。29歳の時でした。

当時と今では、社会が大きく異なることはわかっていますが、現在の私より少し上の年齢の若者が、日本の国家プロジェクトの代表としてバリバリ活躍していたと考えると、すごい才能の持ち主だったんだなと想像できます。

もともと肺を患っていたモレルさんは、日本の鉄道開業に従事していた時に体調を崩し、1871年11月5日、30歳という若さで結核によって亡くなってしまいます。日本での活躍は、およそ1年半というとても短い期間でした。

現在では世界屈指を誇る日本の鉄道技術の基礎を、29歳という若さで築き上げたモレルさんのどこが土木偉人だったのか、私なりに3つに分けてみました。

① 仕事のスピード感が爆速だった

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鉄道開業当時走行していた機関車

モレルさんの功績で特筆すべきことは、彼の仕事をこなすスピード感だと思います。彼は、来日して10日後の4月19日に、当時の大蔵少輔(おおくらしょうゆう:大蔵省の次官)だった伊藤博文に意見の申し立てを意味する建議書を提出しています。これには、新橋−横浜間の鉄道の工事に関することだけでなく、教育の必要性も強調されています。

その約50日後の5月28日には、第2回目の建議を行い、社会基盤の整備などを推進する工部省、およびその教育機関である工学寮の設置を薦めています。

工部省とは、鉄道や造船、工業などの殖産興業政策を担った中央官庁のことです。工学寮とは、工部省の事業を担う技術者を外国人から日本人に切り替えるために、工学に携わる学生を要請した学校のことです。

工部省や工学寮は、モレルさんが亡くなった後、その遺志を継いだ伊藤博文や山尾庸三らの働きかけにより設立されますが、工学寮は、現在の東京大学工学部の前身のひとつとなり、田辺朔郎など多くの土木偉人を輩出することになります。

このように、来日からわずか50日の間にモレルさんが提案したことは、日本の近代土木の基礎を築く内容であり、今の日本を支えているのではないかと思います。そして何より、彼の仕事のスピードと質の高さにとても驚かされました。……私なんて、課題を出されてから50日後にやっとレポートを書けるかどうかなのに(苦笑)。


② 計り知れない想像力

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鉄道開業当初の横浜駅(今のJR桜木町駅付近)

鉄道建設におけるモレルさんの功績に必ず挙げられるものとして「枕木」があります。枕木とは、レールの下に一定間隔で敷かれている木で、レールの支持や荷重の分散などの役割を担うものです。最近は古材としてガーデニングなどDIYでよく使われていますね。

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(出典:Wikipediaより)

鉄道建設当初、日本政府は枕木を含む線路の材料を英国から輸入しようと考えていました。しかし、モレルさんは「木材が豊富な日本には、英国製の鉄製の枕木よりも国産の木製の枕木を採用する」と、国産の資源を使うことを提案したのです。これにより、建設費の節約や工期の短縮ができたほか、国内産業の自立発展にもつながりました。

この枕木の話はいろんな資料に書かれているため、土木界隈・鉄道界隈の人にはよく知られている話なのですが、すごくないですか?

当時は、インターネットなんてなく、航空写真などの日本全体を写したものもありません。その中で、日本に来てすぐの外国人が、「日本は木材が豊富だから、鉄製の枕木の代わりに木製の枕木を採用する」と提案できるものなのでしょうか。実際にしているのですが……

おそらく彼の中には、鉄道建設だけでなく、産業の発展、教育の推進など、日本の発展につながる多くのことを常に考えていたのではないでしょうか。29歳という若さで、国家プロジェクトを任されるすごさはもちろん、多角的に物事を考える彼の想像力を、私は計り知れません。


③ 土木の土木を築いた土木偉人

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今年より新たにロープウェイが開業した現在のJR桜木町駅

土木を「基礎を作ること」とするのであれば、彼は間違いなく日本の土木の土木を築いた人だと思います。彼が目先の利益のみを考え、枕木を英国製のものにし、日本人の育成をしないという選択をしていれば、日本の土木の発展はさらに遅れていたに違いありません。

鉄道建設のために来日して1年半で帰らぬ人となったモレルさんの功績と遺志は今につながり、日本を支えているのだと、今回の機会を通して知ることができました。

10年後、私はモレルさんが亡くなった30歳よりも年上になります。土木を担う端くれとして、モレルさんのように少しでも社会に貢献できるよう、自分が目指す研究を頑張っていこうと思います。

最後に、土木リテラシー促進グループの学生グループ員は、土木偉人かるたのツイッター(@dobokuijin)で、一日一人のペースで土木偉人を紹介しています。フォローしていただけると、励みになります。

文責・写真:池谷風馬
プロフィール
横浜国立大学大学院 都市イノベーション学府 交通と都市研究室に所属している。博士課程後期2年。専門は、交通工学、都市交通計画。現在は交通流や運転行動に関する研究を行っている。将来は、現状の課題解決を目指すだけでなく、希望に満ちた未来を提供できるような研究者になりたいと考えている。