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【感想】句具ネプリ/春分

句具さまが配布していた「句具ネプリ・春分」のなかから、好きな句を先にTwitterで挙げていたものの、感想をまとめました。

二回目の今回も、句を見て頭に浮かんできたものを、ほぼそのまま書き留めています。ですので文体等諸々、まちまちです。いち個人の感想として気軽に読んでくださると、うれしいです。

それでは行きましょう!!

沈丁花君と出会ひて十余年
中岡始
君と出会って十余年なのか、沈丁花と出会って十余年なのか、つい考えてしまう。花からの香りが届くたび春の到来を知る。同時に十年以上の時間が過ぎたのだなぁという静かな感慨が、句の全体にただよう。

35℃を保つ恋愛ヒヤシンス
澤田紫
35℃は、人間の平熱としては低い。いっぽう、ヒヤシンスは冷暗所でなければ花をつけにくいらしい。恋愛がうまくいかなくて、ヒヤシンスが育つような体感温度の関係を目指したのだろうか。ヒヤシンスは花をつけたものの、その恋愛はどうなったのだろうか.....わたしの考えすぎということは分かっている。

あたたかを車掌は見つつ京下る
青き銀椀
京都のおだやかな私鉄にて、車掌がホームなどを確認している姿が、目に浮かぶ。車掌は、身体をまとう空気がいつのまにか温かくなっていることに心を留め、その温さから季節を風景ごと感じつつ、決まった仕事を淡々とこなしていくのである。「あたたかを」が好き。

スカートを穿きたい日なり百千鳥
正山小種
「百千鳥は、恋愛関係を示すこともある」ということを、わたしは知らなかった。ほんとうは、好きな人に対する乙女心の句なのだろう。それとはまったく関係が無いところで「全人類各自に《今日はスカート穿きたい日》ってきっとあるんじゃないかな」と、わたしは思ってしまったのである。

雪解水バブにも消費期限あり
海音寺ジョー
バブという単語の強さに雪解水……雪解水を湯舟に使用する……?いやいやこの句はそういうことじゃないんだよという逡巡を、皆さん引き起されるのではないでしょうか。そしてたたみかけてくる消費期限……つよい句です。

春きざす離るる職とはじめる手
迫久鯨
これまでの終わりと、新しい始まり。散々考えた結果だけれど、やっぱりどこか、とまどう心。とにかく手を動かしていこう、そのうち馴れてくるよ。これまでも、そうだったじゃないか。

前ボタン開けて妊婦の春コート
鈴木沙恵子
妊婦さんを見かけると「未来」が、そこに在るように感じる。そして「春コート」が、未来の希望とかろやかさを、どこか思わせる。

三月来黙々とただ黙々と
山田由紀子
忙しい。でもやるしかない。やらないと四月が来ない。いや来るけれども。ええやりますよ、大人ですから。

春眠や高木美保ちやう高木美帆
篠原新治
共感の嵐の御句……高木美穂さんというかたもいらっしゃるそうです(笑)

ここからは泣いてもいいよ春小焼
唯果
ずっとがまんしてたよね、よく頑張った。もう泣いていいんだよ。よくがんばった、自分。

啓蟄や眠ったままの造成地
月硝子
実は今回のネプリで、いちばんはじめに目を惹かれた句。わたしは視覚的に句を見るタイプで、とにかく字の並びがいっとう好きな句。好きに理由は無いのです。

さへづりの坩堝に目覚むれば新居
このはる紗耶
さえずりの中で目覚める。場所だけでない、何もかもがあたらしい朝。るつぼというのならば、目も開けられないほどのあたらしさのなかに居るのかもしれない。

恋猫のCV野沢雅子かな
押井獅子
ひとつ前の冬至ネプリ「ビーボーイおでんダパーリィツーデイズ」の御方ですね。字面の圧力と軽妙なことばの混ぜ具合が流石。ええぜんぶ分かってますよ?的な雰囲気がだいすきです。

さびしきもの集まる梅の濃きところ
桜井教人
なんだか心もとなくて、何処かに集まりたかった。結果、花の色が濃くなる部分が出来たのかもしれないな。

今年の春もわさびはダメでした。
雨宮あみな
「あっ……わさびダメだったんだ」とそのまんま受け取って、そのまんま選びました。なんとなく、じわじわきます。

オバサンが春の抱擁ジッと見る
赤波江春奈
「オバサン」とカタカナにしてある意図を思います。往来で抱擁しているカップルをしげしげと見つめているのでしょうか。それとも「春の抱擁」という「作品」を、ジッと見つめているのでしょうか。

朝寝してゼータガンダム乗りて死ぬ
加藤右馬
実は昔のガンダムは、あまり知らないのです。物語のなかで実際に、こういうシーンがあるのかもしれませんよね。どちらにせよ、完全に虚構の句(?)であるところに惹かれました。

ネガフィルム窓に透かして昭和の日
由づる
ネガや◯るんですを写真屋さんに出して現像してもらっていたのはそう遠い昔ではないように思いますが、平成でも前半ですよね。「ネガフィルム」と「昭和の日」が、雰囲気的にマッチしています。

フィルムを透かして見ても、何が写っているのかあんまりわからないような過去に、想いを馳せる昭和の日。

春愁の満たされてゆく採血管
佐々木のばら
わたし「採血大丈夫人間」なんです。針を刺した瞬間から採血スピッツが交換されていく様子をただ見てるのがけっこう好き……と再確認させてくれた句でした。満たされる感じ、わかります。

みな楽器もち生まれけり春の風
登りびと
それぞれ思うように生きていけばそのまんまの音が鳴って結局みんな春の風にふかれていくんだよ

春の雨ひよこに渦があり眠る
楠本奇蹄
春にしては寒い日の雨。ひよこが渦のようにくっついて眠っている。儚くも確かにちいさな生命が、此処に息づいて眠っているのである。

春風や転入届を待つ時間
林山千港
引っ越してきて、役所で転入届が受理されるのを待つ束の間の句でしょうか。これからこの地で誰と出逢い、何が起こっていくのだろう。不安よりも楽しみが勝る、うきうき。

春なのに客足遠く余す時
坂とき
うららかな春。例年なら皆でお出掛けして、お店やさんが潤う季節。だけれど今、お客さんは居ない、来ない、なんにもすることが無い。ストレートな一句。

春の闇キッチンで飲むカロナール
桃花
とてもリアルタイムな日常の句。直接あらわすことばが無いのに状況がよく分かる句、好きです。

春服を旅の終はりに買ひにけり
ノグチダイスケ
どうして「旅の終わり」に、春服を買ったのだろう。冬服で出掛けたけれど帰りはもう暖かかったからなのかな? ふと切り取られたひとコマに、なんだかほっこりしました。

三月の隙間に寄せ書きの五文字
後藤麻衣子
最後の五文字。句を読んだ人が、しぜんと脳内で自分の言葉を入れられるの、良いですよね!!

最後までお読みくださって、誠にありがとうございました。
何処かでお目にかかる機会がありましたら、何卒よろしくお願いします。

佳き新年度となりますように!!

はちご仔拾 拝

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