目次
第1部 知能の落とし穴――高IQ、教育、専門知識がバカを増幅する
第1章 IQ190以上の神童の平凡なる人生――知能の真実
第2章 天才はなぜエセ科学を信じるのか――「合理性障害」の危険性
第3章 専門家が判断ミスを犯す根本理由
第2部 賢いあなたが気をつけるべきこと
第4章 優れた判断力、知的謙虚さ、心の広さ
第5章 なぜ外国語で考えると合理的判断が下せるか――内省的思考
第6章 真実と嘘とフェイクニュース
第3部 実りある学習法――「根拠に基づく知恵」が記憶の質を高める
第7章 なぜ賢い人は学ぶのが下手なのか――硬直マインドセット
第8章 努力に勝る天才なし――賢明な思考力を育む方法
第4部 知性ある組織の作り方
第9章 天才ばかりのチームは生産性が下がる
第10章 バカは野火のように広がる――組織が陥る「機能的愚鈍」
著者のデイビッド・ロブソンはAmazonの略歴によると、心理学と神経科学を専門とする英国ロンドン在住の受賞歴のあるサイエンス・ライター。ニューサイエンテイスト』誌の編集者、BBCのシニア・ジャーナリストを歴任。ガーディアン』、『メンズ・ヘルス』、『アトランティック』、『サイコロジスト』、『イオン』などに寄稿。Xアカウントは@d_a_robson。
はじめに
本書において、著者は以下の3つの問いに集中したという。
・「なぜ賢い人々が愚かな行動をとるのか」
・「こうした過ちは、どのような能力や性質が欠如しているために起こるのか」
・「どうすれば、過ちを防ぐために必要な資質を伸ばすことができるのか」
そしてこの3つの問いを、個人から巨大組織に至るまで社会のあらゆるレベルにおいて考察したという
第1部 知能の落とし穴――高IQ、教育、専門知識がバカを増幅する
第1章 IQ190以上の神童の平凡なる人生――知能の真実
第2章 天才はなぜエセ科学を信じるのか――「合理性障害」の危険性
1970-80年代のハーバード大学のデビッド・パーキンスの研究では、学生たちに、たとえば「核軍縮は世界大戦の可能性を低下させるのか」といった時事問題に関する質問をした。合理的思考ができるなら、イエス・ノー双方の主張を考えると予想されたが、しかし、知能が高い学生は他の学生と比べて、別の視点を考える傾向が強いわけではないことが明らかになった。たとえば核軍縮に賛成の者は、全加盟国が協定を遵守すると信じていいのかを考慮していなかった。抽象的思考力や事実的知識を使い、自分の見解を正当化するための根拠を並べ立てただけだった。
次のデータを見て、銃規制は効果があると言えるだろうか。
第3章 専門家が判断ミスを犯す根本理由
認知心理学のパイオニアと言われるオランダの心理学者、アドリアン・デフルートは優れたチェスプレイヤーの能力の理由について調査した。
第2部 賢いあなたが気をつけるべきこと
第4章 優れた判断力、知的謙虚さ、心の広さ
カナダのウォータールー大学の心理学者で、ウクライ生まれのイゴール・グロスマン
この段落における著者の一連の記述は、あたかも集団主義的思考、同調性が優れた判断力につながるかのように読めるが、疑わしい。
こうした国々では、「謙虚」ではあるかもしれないが、群れに付いていく傾向があるだけで、その判断が必ずしも優れているとは限らない。
また、自己評価の低さは自信過剰と同じくらい危険があり、状況を察知しているにもかかわらず、自己の判断を無視して群れに従うことで自己を苦境へと追い詰める可能性もある。
もしかしたら、知性の高い人にみられる愚かな判断は、代償・トレードオフかもしれない。
第5章 なぜ外国語で考えると合理的判断が下せるか —内省的思考
株主総会では、経営陣や質疑内容よりも、自身がかれらの言動や態度について感じたことを書き留めるといいかもしれない。
「ビッグマウス」「自己株売についての質問でプライヴェートは別だなどと声を荒げる」「指定された役員が質問に応じず全て司会者=社長が答える、その内容は鼻を括ったもの」「背後の役員たちが一様に死んだような表情をしている」「最後に役員全員が起立して株主を見送る-礼儀という以上に違和感のある態度・何か株主に不利になる決定を事前に決めているのだはないか」
レイ・クロックがマクドナルド買収やその後の施策に関して直感に従って動いて成功した例を「ソマティック・マーカー仮説」の例として持ち出しているが、同じように直感に従って失敗した経営者もいるかもしれない。成功例だけを挙げている可能性があり、したがってこの議論展開じたいがバイアスに左右されている可能性も考えられる。
※ソマティック・マーカー仮説では、知能に問題がなくても日常生活で意思決定がうまくできないことが示されている。腹内側前頭前野の損傷により、情動喚起刺激に対する身体反応が障害されるため、情動的な身体反応の信号は意思決定において重要な役割を果たしていると考えられる。
他にココ・シャネルやクライスラーの開発責任者の例があげられているが、彼らの「直感」が極めて優れた判断の下にあるのだとしたら、それは他人が真似できないものではないか。優れたスポーツ選手の感覚をどれだけ言葉にしても、アスリートでない一般人がそれをどれだけ読んでも彼らの能力は身につかない。
第6章 真実と嘘とフェイクニュース
第3部 実りある学習法――「根拠に基づく知恵」が記憶の質を高める
第7章 なぜ賢い人は学ぶのが下手なのか――硬直マインドセット
リチャード・ファインマン
チャールズ・ダーウィン
第8章 努力に勝る天才なし――賢明な思考力を育む方法
252-
日本と東アジアの小児教育に対する評価が甘く、オリエンタリズム、ないしは隣の芝生的な偏見に裏打ちされた思い込みが垣間見える。
著者の言うことが本当なら、日本や東アジアの生え抜き研究者からノーベル賞級の学者がもっと排出してもおかしくないのではないか。著者自身がじぶんの考えに対する内省の姿勢が不足しているのではないか。
日本の教育に対する見方が非現実的に好意的で甘い。という事は、他の紹介事例に関しても眉に唾をつけて読む必要がある。(262-3)
それほど日本の数学教育が優れているのなら、フィールズ賞含め日本の数学の学術的レベルや応用分野での成果がきちんと比例しているのか検討すべきである。(おそらくしていないのではないか)
また、この日本の教育の過大評価の記述から浮かび上がるのは、著者がデータではなく都合の良い個別エピソードの抜粋に基づいて議論を展開している点である。これは本書の随所に見られるので、著者の主張が本当にデータ的な裏付けのあるものなのか、都合の良いエピソードに過度に拠っていないか、警戒しておいた方がいい。
ダーウィン、ベンジャミン・フランクリン、リチャード・ファインマンといった著者が好んで引き合いに出す人物の例も、果たしてそれが他者にとって習得の「モデル」となり得るものなのか、懐疑的に見ておいた方が良さそうだ。
第4部 知性ある組織の作り方
第9章 天才ばかりのチームは生産性が下がる
第10章 バカは野火のように広がる――組織が陥る「機能的愚鈍」