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17年の月日を越えて

眠気を取り払うように、用があって、ふと自分の名前を検索した。

私が彼と出したかった音楽が全世界リリースされていたことを目にする。

私は、涙が止まらなくなるのを抑えられなかった。

彼は、天才ピアニストと呼ばれる人だった。

私より年下で、18歳で日本1を取り、音大中が彼の噂で持ちきりだった。

私が彼に出会ったのは、音大前の横断歩道だった。

しばらくして、彼から、マイナーな作曲家のヴァイオリンソナタを弾いてみたいと言われた。

私は、その作曲家にあまり魅力を感じることはできなかった。
そのあと、電話で盛り上がった私達は、彼から誘われて、夜12時に音大裏の森へ散歩に行くことに。

手をつないで、キスをした。  
抱きしめあった。

でも、彼は日本に大切な人がいたらしくて、私達はその日以来4年顔を合わせることもなかった。
意図的に私が避けていた。

4年後、なぜか、少し一緒に弾くことになる。
私には婚約者がいた。
彼がぴったりくっついてきた。
私は彼を言葉なく優しく拒絶した。

私は結婚し、彼とは2度と会うこともないと感じていた。

そんなある日。
友人から誘われたコンサートで、彼に再会する。

しばらくして、元夫から、ヴァイオリンをやめてほしいと言われる。

そんな時に、私は、決めた。
もしも、彼が一緒にリサイタルを弾いてくれなかったら、ヴァイオリンを諦める、と。

彼に尋ねると、彼と最初に弾いた作曲家の作品でリサイタルを開くことが決まった。

その後、元夫と離婚。
元夫と離婚したあと、私は彼と2回リサイタルを開いた。

たくさんの人に、私達の音楽で人生が変わったと言われる。

だけど、彼と一緒に弾くと胸が苦しくなりすぎた。
山のような喧嘩を経て、私は、彼と弾くことをやめたいと彼に言った。

すると、お前は俺と弾くレベルにない、大嫌いだと吐き捨てて、私の前から去っていった。

その後。

彼は、別のヴァイオリニストと毎年演奏している。

私は、素晴らしいピアニストにたくさん出会った。
世界的コンサートピアニストばかりと弾かせていただいた。

そして、たくさん傷ついた私をずっと隣で見ていた友人から誘われて、海外でレコーディングし、海外の素晴らしいレーベルでCDを出すことができたのだ。

数日前から、なぜか彼を思い出していた。
すると、彼と弾いた曲が全世界リリースされていた。

今、私の心に浮かんできた彼に伝えたい。
私、あなたより先にあなたが世界で1番好きな作曲家のCD出したよ、と。

あなたはどう感じるだろう。
また、怒るかしら?

今、胸がいっぱいだよ。
私、少しは成長したかな?

この曲を弾く時は、どうしても彼を想うことしかできない。
2度と会わない彼のことだけ。

#創作大賞2024

#エッセイ部門




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