ヘッダ二章2

業務実績 5)「倉庫から持ち出しの際は書類作成を忘れないようにして下さい。」

 決行は、一週間後であった。負った怪我が治るまで待ったというのもあるし、夜勤がない日を選んだというのもある。
 本社ビルの四階は倉庫として使われている。この会社の倉庫であるから、勿論、物騒なものが山程ある。コピー用紙と同じような感覚で銃火器や爆薬や無線傍受用の機材などが置いてあるのだ。
 吹雪はこの倉庫から、自分が運び出せるだけの火器類と銃弾を持ち出した。プレートキャリアも引っ張り出す。きちんと倉庫持ち出しの書類も書いた。印鑑を押して社長のデスクに置くと、そっと事務所を後にする。

 向かう先は、都内を活動拠点とするヤクザ崩れの団体『龍の巣』のアジト。威瀬会系暴力団十鬼懸組に近い、若手で構成される組織だ。正直に言ってしまえばいわゆるカラーギャングとほぼ大差はないのだが、ここで「経験」を積んだ人員が後に十鬼懸組へと引き抜かれてゆく。そんな組織だった。

 吹雪はあまり、車の運転は好きではない。だが前回は搭載火器の少なさで苦戦した。故に、好きだ嫌いだと四の五の言っている場合ではない。社用車を拝借してしまったのは些かやりすぎかと思ったが、これもやはり仕方ない。自家用車は生憎持っていないのだ。

 ……そう言えば、ここ最近の車移動はいつも鉄男の運転だった。運転が好きだという鉄男。あいつの言うことはよく分からない。どうしてそんなに運転が好きなのか。
 運転席に鉄男がいて、助手席に貴士がいて、自分はいつも後ろに座って、下らない話をして。
 今は自分ひとりだけ。積めるだけ火器類を積んで狭いはずの車内が、今はやけに広く思える。

「やっぱ、運転はヤダな」

 後ろでダラダラしている方がいい。本当は。だけど、そうもいかない。

 知られたくない。この強烈な感情に突き動かされるように、吹雪は襲撃を行った。知られたくない。自分がこいつらと同じだと、バレたくない。これらの組織に正式に属していたわけではないが、それでも嫌なものは嫌だった。なんでかって? そんなの分からない。その理由を考えている暇はない。そんな時間があるなら行動に移した方がいい。

 とにかく、知られたくないのだ。あの会社の人達に。その前に、全て無かったことにしたい。それだけなんだ。
 醜い自分の心なんて、本当は分かっている。どうしようもない醜悪さなんて、とうの昔に見えている。だけど、それでも動かずにはいられない。不安に駆られてどうしようもないが、動くより他に術はない。それ以外に、自分に何が出来るというのだ?

 夜の道路は色々と見えにくくて、やっぱり運転は苦手だ。あんまり、好きじゃない。


 目次 

恵みの雨に喜んだカエルは、三日三晩踊り続けたという。 頂いたサポートは主に創作活動の糧となります。ありがとうありがとう。