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悪意狂攅哥

心臓が煩いのも痛いのも、誤魔化しはできても掻き消せやしないから、止まる迄、或いは止める迄、今の此の儘で遣り過すだけなんだろうな。

我々人間は、、、いや。私は、沈黙しなければならない。其の在り方を選択しなければ、私は静かに追い出されるだけだ。端の無い、無限に広がった空間世界で、此の身を晒されてしまう。其れは非情で恐ろしい、追い遣る先など此の次元には存在しないのだから。そして我々は、空間世界から逃れる事は出来ない。(唯一死は可能性として存在するが、確実性の証明は不可能である。)

私は別に、沈黙せざるを得ないわけでは無い。那れは只の強迫観念である。我々は空間に有限を設けている。実際には無限である空間に、有限な我々は、耐えることが出来ない。私が今居る幾つかの有限空間の中で、沈黙を選ばなければ成らない場所が在る。勿論、沈黙を堂々と破る場所も在るが、其れも何時離散してしまうか分からない。殆どの場所で、知らぬ間に追い出されそうに何れは成る。私は其処に居座り続けなければ成らないから、或いは静かに去る為に、沈黙に成らざるを得ない。

悪とされ、責任を負うのは私であろうから、いっそ私が有限空間を設けよう、明け開かれた有限の空間世界を、私が線を引くことで作ろう。今迄何度か、そうして限界線を引いてきた。だのに、岩肌の様な違和が、再び追い出そうと削りに来る。私が追い出すべき関心に、全てをずらされてしまう。未だに、追い出す側に成れたことは無い。

矢張り此の怪物を、野性に返すしか無いのだろうか。私の化物は、最早番犬を務めることすら出来なく成っている。今更外に飛び出せる程の無知や無謀さを、此の化物は持ち合わせていない。剛鉄の檻を、囓り続けて其の儘息絶える他無いように思えてしまう。此の子が踏み出すのをどうにか見送りたいのに、私は閉じ込め黙らせ、殺すことしか出来ない。何度殺したところで、檻の中で息を吹き返すだけだが。

とはいえ獣に還したところで、其れで追い出せたところで、結局は又無限空間に投げ出されてしまうのだろうな。手許の形式だけを甘受する蒙昧さに溺れることが出来る程、私は獣臭く成れなかった。怪物に飼われた化物達に、酷く冷めた羨望の眼差しを向けている。手許から断絶し、無限へと歩む在り方を、我々人間が選択することは不可能である。人間の内最も精力が有るのが、彼等化物達である。彼れは進化か、或いは退化か、将又只台頭して来ただけなのか。

我々人間は、皆等しく醜い獣である。其処に例外は無い。然し其れを認めない、或いは認めはするが、懸命に隠し神を装おうとする。同時に、他人の化物を無かったことの様に目を逸らす。見つめる者も、其れを理想化しているだけに過ぎない。直視出来るのは其れに溺れた者、即ち飼われた者だけである。無論、私には今の所目を逸らす外残された道は無い。

是迄何度刃を、銃を向け、届かなかったのだろうか。向けられてもいない凶器で、何度殺されたのだろうか。今は此の刃も其の銃も、全部内側に向けている。手向けられた花も、塞がれた両手も、宛てられたことは無かった。きっと此先も、誰かの花は誰かに宛てられ、私の花は此の両手で枯れるばかりだろうな。全部宙に浮いて届かないか、横目に見ていることしか出来ないから、せめて網膜には色を着けない様にしている。或いはこうしてかき出している。

技なんて1個も覚えられないから、くたばる迄悪足搔きするしか無い。元々私が立つ場所では無いのに、有限空間の端の戦場に立たせるべき化物は、無限空間で私を待って眠っている。怪物は瞬きの沈黙から、野性を指し示して来る。雑談に与太話に、逃げていないと此の姿を保てない。諦めて飼われてしまいたいが、自分で作った枷や鎖がどうやら頑丈過ぎるみたいで、怪物にすらどうにも出来ないらしい。鍵が何処かなんて知らない、忘れた。

今私に出来ることは精々此れくらいだから、不可視擬な光線銃を打とう。貴方へ、貴女へ、彼方へ、誰かへ。未完成で、玩具と言われてしまう様な此の銃で。透明かも知れないけれど、私には此の中味がちゃんと見えています。丁寧に包み込んで、知恵の輪みたいに結んだので。私の底と、私の怪物が生み出した叫びですので。如何しようも無く煩い鼓動から、送り出された毒ですので。

此れは、明確な悪意です。どうぞ御緩と。


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