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“友へ”

前に旅をした
旅すがら懐かしい香りを思っていた
目の前にある時には気にもかけなかったのに
新しい快楽を前に忘れ去っていたのに
自分勝手なもんだよな
だが懐かしい香りは
オレの罪には寛容に目をつむり
代わりに浮ついちまうような笑顔を浮かべた
家に帰ってきた時
ホッとすると同時に
悲しくなったことを思いだす
いずれ全部焼き滅ぼされるから
だが暖かい感情の方は
疑いなく古からの絆がそうさせるんだろう

薄明かりに移ろう風景 
いつもと違うように見えたって
どこを走ってたって
おいすがってくるいつもどおりの景色 
澱みきった沼の底深く
スノーグローブの中を走らされてるみたい

太陽すら嘘に見える
酸素すらキチガイじみてて
愚か者どもが吐きだした息で作られた世界を
ホントの太陽をみるため 
切り裂こうと
言葉にできないイメージは
むしろ空気を縫い合わせ
オレら自身を窒息させ 
墓穴をこしらえていた
お前もオレも 帰る場所ってあったっけ?
帰るべきはそう わかるよな
どう死ぬか話した夜を覚えてるか? 
あの時神さまはそっと聞き耳をたてていた

街を流していた 
煙をいっぱい 嘘とインテリの眼鏡めがけ
撒き散らしながら
お気に入りのハードコアは煩く控えめに
ブレーキダストなんか後で流しゃいい
イヤな事で一杯にされたタンク
禊ぐ暇もないから蹴っ飛ばして空にしちまえ
無意味に走った 
嘲りと嘘は置いてけぼり
目指すのは ここには無い夜
でもいつかあった夜
張り裂けそうな星空 
弾けたなら星が沢山降るなぁ
そうなったら各々大切な人たちに
降った星座を捧げようぜ
心が張り裂けて夜空に還る前に逃げ出せ
走り出せ
光で出来たドアが見えたなら
もう心配いらないよ
オレらは悪くない
誰も悪くない
知らないだけだから
知ろうともしないアホばかり
だから鍵のありかはオレらだけに

片付けた キレイさっぱり
気に入ってくれるかな 神さまは
山上と谷底のせせらぎ その清廉
聖域で龍が吠えた 巨岩を震わせて
泡と消えたのは生きとし生けるものの罪
だから心配はいらない

風に眼をやる
懐かしい匂いを吹き飛ばされまいと
風は飄々と底意地悪く帆を張る
方舟には乗ろうともせず
海をいく 
漕ぎ続けりゃあいい
漕ぎ疲れたら一休み
大して行き先なんてのは決めてないが
流れつく場所はアタリがついてる

祈ろう
脳や臓物がスライムみたいに流れ出し
夜に溶け出す前に
金木犀や海の香りみたいに素敵な記憶が
心に血を暖かく巡らせるうちに
死神が魂を刈り取っちまうまで
灰になったオレらが風に還る前に

帰る場所
ここでは無い場所
帰らなくてもいい場所
きっと場所なんかじゃない
お前の魂はきっと答えへと導く筈
だけど帰ってきてくれたらやっぱり嬉しい

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