【ひと夏の人間離れ】
証券マンの彼が初めて我が家を訪問したのは6月、これから訪れる本格的な夏の前触れのような蒸し暑い日だった。背が高く痩せた身体に丸顔でちょっとアンバランスな印象、担当になったからと恭しく係長の肩書の名刺を差し出した。株を売るタイミングを教えて欲しいというと「わからないのです」というそっけない返事。内心むっとした私に「それでも出来る限りやってみましょう」と真剣な顔で答えてくれた。
株価はトランポリンに乗ったかように上下したが、そのつど彼のメールが届き、様子見の末、高値で売ることができた。最後の手続きで訪問の日「ではまたよろしくお願いします」と帰る彼に「もう売る株ないわ」と笑うと「いや株の話じゃなくても」の返事。
「お手伝い出来てうれしく思います」の手紙の添えられた花かごが届いたのは翌立秋の朝だった。
花など貰うのは何年ぶりだろう?え?これって単なる仕事の一環?
それとも?今年の夏は私、ちょっと舞い上がって人間離れしたような?
おわり(411文字)
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