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大増殖天使のキス

小さいころ私の左腕には真っ赤な痣があり、イチゴ状に盛り上がって目立っていた。兄が鉛筆でボツボツを書き加え、「チズの腕にイチゴがなったぁ!」とからかうので幼い私は泣きべそをかいた。母はその鉛筆の跡を拭きとりながら、「これは天使のキスのあとだから、大事にしようね」と微笑んだ。

幼稚園のころ私は水ぼうそうになり、熱を出した。熱が下がり始めると水疱ができ、それをかき破ったため、体中にぽつぽつと水玉模様ができてしまった。
「こんなに天使のキスがふえちゃった」
私の言葉に母は笑うかと思ったら、厳しい顔をして言った。
「さわっちゃいけません」
母は痕が残るのを恐れていたのだった。

大きくなるにつれ、腕の痣は茶色から薄茶色になりほとんど分からないくらいに消えてしまった。水泡の痕もなおったが、ただ一つ右の胸に薄いピンクの痕が残った。天使のキスが移動したのだ。このキスの痕を知っている人は何人いるかって?それは秘密です。

         おわり(408文字)


たらはかにさんの企画に応募させていただきます。
今週のお題は「大増殖天使のキス」です。
よろしくお願いいたします。


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