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バイリンガルギョウザ

ここは、フランス、アルザス地方の小さな町に一軒だけある中華料理屋。
そのウインドウに飾られている、メニュー見本の餃子が、僕。

あるとき、東洋人の女の人がやって来て、僕をじっと見つめ、思い切ったように店に入り、しばらくたったら、満足そうな顔で出てきた。また僕をちらっと見て。

翌週もその人はやってきて、また僕を見る。僕は思い切って声をかけてみた。
「サリュー!」
彼女はびっくりしてためらいながら言った。
「こんにちは!」
帰りには
「さよなら」というので、僕は
「オーヴォワ」
何回かの来店で僕は理解した。
サリューはこんにちは、オーヴォワはさよなら、だと。

ある日
彼女が店主と何か話しているのが聞こえてきた。
プチカドー
メルシーボク

え?プチカドー(ちょっとした贈り物)?
店主が嬉しそうに僕の隣に立派な門の絵ハガキを置いた。
日本のチャイナタウンらしい。

その日以来彼女は来なくなった。
僕はその写真と並んで、今でもウインドウを飾っている。

        おわり(420文字)  
      
たらはかにさんの企画に応募します。
今回のお題は「バイリンガルギョウザ」です。

フランス・アルザス地方に住んでいた時の経験をもとに
書いたフィクションです。小さな町にも、中華料理屋さんは
あって、人気のほどが分かりました。店主さんが、中国人とは
限らないのですが。こんなことあったらよかったな。

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