叫び
静寂を破る放屁の音が部屋中に響きわたった。
ここは、会社のトイレの個室。僕が唯一ほっとできる場所だ。就職試験にすべて落ち、やっと滑り込んだ住宅工事会社だったが、工事注文が取れず、
毎日が針の筵だった。
受注件数を示す棒グラフはゼロのまま固まり、先輩たちの冷ややかな視線、課長の怒鳴り声のなか、やっと息をしているような毎日・・・トイレに
入り思い切り放屁、それが僕のせめてもの叫びだった。
誰かがトイレに入って来た。あの話し声は先輩と課長だ。
「いやぁ、アイツには参りました。業績ゼロですからね~気の毒に思って
私に来た注文をやらせてみたら、見積もりは間違えるし、お客からは
陰気くさいから担当を変えてくれといわれるし、散々ですよ」
「そうか、俺も散々カツ入れてるけど、アイツはもう首だな」
「アイツ」とは間違いなく僕のことだ。首だって?
我慢に我慢を重ねてきた日々の鬱憤が火を噴いた。
課長を殺してやる!
その日から課長のスケジュールや自宅周辺を綿密に調べた。
決行の日、僕は台所の一番切れそうな包丁をリュックに入れると、
退社する課長の後を付けた。電車から降りて10分ほど歩くと黒々と広がる
公園がある。街灯も少なく人通りもない。絶好の場所だ。
後ろから声をかけ、振り向いた課長のお腹に包丁を突き立てた。
「ぎゃ!」と叫んで前こごみに倒れる課長。
「やった!」と思った瞬間、課長の手が僕の足を掴み思いきり
引いた。僕はもんどりうって仰向けに倒れた。
「ガツン!」
後頭部にベンチの角が食い込む鈍い音がした。
その一瞬後に
「ブッ!」
放屁の音が響き渡った。僕の最後の叫びだった。
おわり(690字)
山根あきらさんの青ブラ文学部、に参加させていただきます。
一行目が面白く、書いてみましたが、ベタですね~
もうちょっとシリアスにしたかったのですが(≧▽≦)
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