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食べる夜

食べる夜・・・僕は今でも信じられない。

僕がめぐみとめぐり会ったのは出張で乗った飛行機の中だった。偶然隣の席に座った彼女の魅力に圧倒された。長い睫毛、黒目勝ちでほんの少し目じりの下がった瞳、もの言いたげな唇、話しかけたかったがとても勇気が出なかった僕にチャンスが巡って来た。飛行機が揺れて僕のズボンに彼女がコーヒーをこぼしたのだ。恐縮する彼女、クリーニング代をとの言葉に、一緒に食事に行って欲しいと頼むとOKの返事、僕は舞い上がった。窓の外では雲を従えた夜空が、僕たちを包むように広がっていた。

そんなきっかけで、僕たちはデートをするようになった。お互い仕事が忙しく、会うのはいつも夜になったが。

その日は、食事のあと山下公園を歩いた。夜の海からの潮の香りの風、岸壁に打ち寄せる密やかな波の音、告白には絶好のチャンスだ。
「君は素敵だね・・・」
そう言おうとして僕は慌てた。言葉が出て来なくなったのだ。
「君は・・・」
で、黙ってしまった僕に、めぐみは不思議そうに僕の顔を見た。
「いや、あの、毎日暑いね」
当たり障りのない会話なら続けられた。

次のデートは、中華街、赤いちょうちんが揺れる夜の街は、恋ごころを
燃え立たせた。今夜こそ!
「君みたいなチャーミングの人と知り合えて幸せだよ」
そう言おうとして僕はまた頭が真っ白になった。
「君みたいな・・・」で言葉が止まってしまう。他の話題なら
難なく話せるのに。

そんなデートを数回繰り返しているうち、めぐみからついに
「もう終わりにしましょう」というラインが来た。
「貴方がよく分からない」と。

何ということだ。せっかくいいところまで進んだのに。
僕はどうかしてしまったのか。

ひとりで帰る道、夜空を見上げてふとあることを想い出した。
あの日は夜空がことのほか美しかった。暮れかかった空は藍色で、その裾は夕焼けの茜色を残し一番星がキラリと輝いた。一緒に社を出た同僚が柄にもなく「おい、きれいな夜空だぞ」と指差した。
仕事で失敗したことで頭がいっぱいだった僕は見上げようともせず、
「お前はよくそんなこと言っていられるな、夜空どころじゃないよ」
と舌打ちした。

夜空の下でデートをすると、めぐみにかけたい愛の言葉が失われてしまう…夜が僕を怒っている…僕の言葉を夜が食べてしまう??

その日の夜空は今にも雨を降らせそうな雲で覆われていた。見上げるとその黒い空が僕を押し包むように迫って来た。
その夜空に向かって叫んだ。
「ごめん、君は素敵だよ」今度はスラリと言葉が出た。
「いまさら遅いさ」
雷のような声が響いた。
            
                  おわり

小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお手間をおかけしますがよろしくお願いいたします。

夏なのでちょっとホラーっぽいものが書きたくてがんばってみましたが、
だいぶ無理がありますね~冷や汗が出ました。(;^_^A

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