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ヘルパー日記後編2・(心理作戦)

Hさん84歳、息子さんと二人暮らしです。
入浴介助、調理が仕事なのですが、入浴時に、身体にさわられるのが嫌い。
太っていて、心臓も悪いし、骨も弱っているから、あぶなっかしくて支えようとすると手を振り払って怒ります。髪を洗うのも、人にやられるのは嫌い。お風呂用の椅子もあるのに、スノコにじかに座らないと落ち着かないそうで、そうすると、お腹はつかえるひざは痛む、胸は苦しい、ことになって、自分で髪を洗うのがいやになる。だから、手伝おうとすると

「本人がいいと言ってるんだからいいんだよ!」

と啖呵を切る。で、髪はきたないまま。

でも、やっと、洗髪作戦が成功する確率が増えてきました。まず、身体を
あっためて、浴槽から出る少し前になると

「明日は、デイサービスで、出かけるのね。いいなぁ、車が迎えにきてくれて、お昼もただで食べられて・・・。出かけるからきれいにしておかないとね」

と洗髪まえふりをしておく。

本当は、お昼は実費なので、無料ではないのですが、本人が無料だと思っているので息子さんと打ち合わせの上、ただ、ということにしています。

スノコに座ったら、近くにさりげなくシャンプーのビンを置く。
それでも、洗いそうも無いときは、

「人に手伝われるの、嫌いだと知ってるけど、苦しそうだからちょっと手伝おうか?」

とすばやく、髪をほどいてしまう。(髪が長くて結んでるから)
そういう正攻法が通じないときは、

「あ、ここにおできが!」

と、シャンプーをつけておいた指でさわり、続けて洗ってしまう。ここまでくれば、こっちのものです。

本人は結構気持ちよさそうにしているのだから、だったら、最初から洗わせろよ、と思うけれど、あくまでも、穏やかに、にこやかに続ける。
これがプロの風呂の技です。匠といってもいいかなぁ・・・と。(^^;;

一週間たつと、忘れてしまわれるので、この手はけっこう使えました。

けれども、数か月後、いい気分でお風呂に浸かっているHさんに、「もう出ましょう」と何度声かけても従ってくれず、そのうち湯あたりして立てなくなった、という事件が起きました。息子さんにも手伝ってもらったのですが、どうしても立てない。仕方なく、救急車を呼ぶと屈強な男性3人が来てくれました。でも、お風呂場も、浴槽も狭くて3人で力を合わせて立たせる、ということが難しい。かなり手間取って、やっと布のハンモックのようなものに乗せて、ベッドまで・・・

一休みすると元気になった本人を見て、救急隊員さんたちは

「また、なんかあったら、呼んでくださいね」

と、いやな顔一つせず帰って行ったので、ほっとしたものです。

それを機会に入浴はもう難しい、ということになり、清拭(身体を拭く)に
サービスが切り替わり、触らせてくれない体を拭く、という難事業が
施設入所まで続いたのでした。

        ヘルパー日記後編2  おわり


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