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探す!   #曲から記事


早く、早く、行かなければ!胸の鼓動が速くなる。ドキドキドキドキ…速足が駆け足になる。鼓動が重なる。


ここは仙台市○○区、恋人の純が住んでいた場所だ。純は、イラストレーターで在宅勤務、仙台が好きだから、と、ここを住居に選んだ。それなのに、大地震、大津波に襲われ破壊されてしまうとは・・・わたしはやっと開通した道路を車を飛ばして来た。そして今、この地に足を踏み入れた・・・

この変わりようはどうだ!泥色のコンタクトレンズをはめた目でみているよう・・・どこもかも泥色だ。饐えた悪臭が鼻をつく・・・瓦礫が足場もなく折り重なっている。取り残されているガソリンスタンドの傾いた柱に、青い屋根が落ちそうに彎曲して踏みとどまっている。ぐずぐずにこわれた壁が半分泥水につかり、汚れた布団がまるまって動物の死骸のようだ。波に攫われて傾いた屋根に乗り上げた船が、虚ろな瞳のような窓を開いたまま、立ち往生している。天地がひっくり返った、というが、これは海と地が入れ替わったようで、自分がどこにいるのか一瞬判別がつかなくなった。

でも、探さなければ!

どこ?純のアパートは?

あ。あれだ!

崩れかかった白い壁に見覚えがある。純が描き、部屋に飾っていた冬山の絵が、少しだけ瓦礫から顔を出している。引っ張り出そうと瓦礫の山に登ったとたん足を取られて転んだ。頭を打ったようだ・・・


純は優しい人だった。朝目覚めると、やあ起きたの?とPCから顔を上げてベッドまでコーヒーを運んできた。起きなくていいよ、ここで飲むのがいいんだよ・・・

コンビニに行けば、すい、とかごを掴み、好きなものなんでもいれな、と笑った。エスカレーターに乗ると後ろから私の身体を優しく抱いた。女の子ならだれでも好きになってしまう・・・そんな人だった。

一緒に住もうよ、と言われたが、私は離婚が決まったばかりで15歳も年上だったから、すぐあきられるだろう、と応じなかった。優しさが欲しくて別れられないくせに、逃げ道も作っているなんてずるい女だ。

あるとき、聞いてみた。

「ねぇ、もし私がいなくなったらどうする?」

「探す!」

「本当?」

「もちろん!」

きっぱりと純は言った。

「じゃあ、俺がいなくなったらどうする?」

「探す!」

私も答えた。

でも、純と会うことがだんだん辛くなってきた。SNSで知り合った、年下の男との同居は誰からも反対され、お互いに相応しい相手ではないのでは、と気持ちが揺れ動いて・・・スマホの連絡先もすべて泣きながら削除した。

それでも、と、パソコンで久しぶりに純のブログを見て驚いた。大きく私の名前が書いてあり、「愛している、探している。返事をくれ」とあったのだ。

泣きながらの電話、そして会おうと約束した日、あの地震だ・・・


だれかが、頬をたたいている。

「おい、しっかりしろ!」

救助の自衛隊員らしい。抱き上げられ、車にのせられそうになった。
その手を素早く潜り抜けて、わたしは瓦礫の海に飛び出した。

「どこに行くんだ!そっちは危険だ。引き返しなさい!」
そんな声がした。

でも

探さなきゃ、こうしてはいられない!

早く、早く、行かなければ!

胸の鼓動が速くなる。ドキドキドキドキ…速足が駆け足になる。鼓動が重なる。


探さなければ!探さなければ!

           

            おわり


ジユンペイさんの企画応募作品です。5曲のうち、4曲目オルタナ的・・・の曲から連想して書いた記事です。下のリンクから聴くことができます!

まず、聴いたとき、歩いている、走っている、と感じました。それから事件が起こり、回想場面、最後にまた現実に戻る、という設定です。

ジユンペイさん、よろしくお願いいたします。

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