2021年読書メモ

読んで面白かったもの

■峠鬼

古代日本を舞台とした神話ファンタジー…なんですけど下敷きにされているのがゴリゴリの物理化学・ホラー・クトゥルフだったり。学者の日本神話風の名称アレンジとかとっても洒落が効いてて好きです。物知りであるなら物知りであるだけ面白くなるらしいです。個人的にはブラックホールを受け止める巨大サンショウウオの回が好き。人間を愛している神性がそのいのちを振り絞って立ち上がる瞬間がオタクはすき。

■テスカトリポカ

信仰に基づいてあまりにも美しく編まれた物語と、麻薬密売組織の描写の迫力でずっと圧倒され続ける読書体験でした。硝煙と血で彩られた、神と巡り合うまでの叙事詩。シカリオ(暗殺者)を育てるくだりが本当に恐ろしくて、さびれた工業団地とかにいくと絶対に思い出しますね。土方コシモくんの生きものとしての強靭な美しさを見てほしい。ラストシーン、男が二人対峙する瞬間のカタルシスは、「この瞬間の為にここまできたのだ」と思わせるにふさわしいものです。人々が壁画や彫刻やその他後世に残そうと思う一場面の誕生を目の当たりにしました。

■ブルーピリオド

アニメも始まって絶好調。とにかく登場人物ひとりひとりにきちんと厚みがあるため、読む人によって刺さるキャラクターが変わる作品というイメージです。創作と自意識の競合とか、家庭内の不和とか、ジェンダーとか。主人公の八虎君は、壁にぶつかるたびに人の言うことをうのみにしたり、何かをつかんだりしつつ、そしてまた何度でも新しい壁に出会うのでしょう。きっとその繰り返しが芸術なので。個人的に一番救われる描写は、八虎の一見軽薄な友達たちにだってちゃんと厚みを持たせてくれているところ。彼らは好き好んでいつも気軽でいてくれる、よき友なんですよね。八虎にとっても、気軽な友情だとしてもゼロじゃない、むしろ大切な宝物であることがうれしいです。


■楽園とは探偵の不在なり

ファンタジーミステリーと言った体でしょうか?人を二人殺すと天使に殺される世界で起きる連続殺人の話です。個人的に斜線堂先生はミステリー作家が本質と言うよりは、そういうギミックを舞台装置として「情念」を描くのがうまい人…というイメージなのですが。今回も思わず息をのむような迫力ある念を浴びまくる羽目になりました。「正しい人が間違ったことで苦しむようなことはあってほしくない」という、祈りにしては憤りで煮えたぎりすぎている強い情念。よかったです。恋愛短編集もお出しになるそうで、超楽しみです。「夏の終わりに君が死ねば完ぺきだったから」もよかったです。

■夏目アラタの結婚

読んでて自分の醜さやご都合主義者である部分を詳らかにされる作品が好きです。これはまさにそれ。大量殺人容疑者である品川真珠を信じるのも人間のエゴで、信じないのも人間のエゴ!真珠を恐ろしく思うのも美しく思うのも、自分を物語の中に置きたい醜い自己陶酔が認知をゆがめているからなんですよね。作中では映画「レオン」で例えられていますが、目の前にそれっぽいシチュエーションが転がっていたら、すぐにフィクション自己投影して自分に酔うキモさを人はだれしも持っている…

■少女聖典 ベスケ・デス・ケベス

チンチンの話しか出てこないので、読まんでよろしい。

■ほしとんで

俳句入門漫画。ほんのり俳句を知りたいという方にはちょうどいいのではないでしょうか。主人公たちのゼミの先輩組がみんな愛らしいです。「解らない専門用語を飛ばしながら先輩たちが仲良くガ~ガ~議論している」空間、部室やそれこそ大学のゼミ、が本当に好きで、一生この人たちの後輩でいたいよう…と思いました。偉そうで、ひどいやつで、態度が本当に悪いけど専門分野にはガチ、そんな先輩がいたらみんななついちゃうでしょう。

■こうしてイギリスから熊がいなくなりました

人の残酷さや恐ろしさをまるでおとぎ話のようにユーモラスに飾り立てた短編集。実際にイギリスでは乱獲で熊が絶滅しているらしいのですが、この物語における「いなくなった」の意味はまた異なり、そこに込められた皮肉がはっきりするほどだんだん恐ろしくなっていきます。イギリスがよくテディベアを愛でるというのも、残虐性の発露は飾り立てられてみんなのすぐそばにある、ということの示唆のような気すらする。

■魔女

藤本タツキがおすすめしていたので読みました。とにかく画面の迫力がすごい。ここまで書き込む執念に圧倒されます。人類の歴史の中では取捨選択の結果なのでいいも悪いもないのだけど、複雑化するものがあれば単純化されてしまったものもあり、そういう「画一的な信仰」に回収されてしまったちからが一瞬息を吹き返す物語です。ごひいきのトルコが舞台の第一話がお気に入りです。織物は、連綿と続く女たちの、秘密のことばが込められている。出会えてよかった。

■機龍警察

機龍がかっこいい。警察がかっこいい。それはそれとして姿俊之がだ~~いすき!!!!当たり前なんですけど世界って間違ってるじゃないですか。正義なんてどこにもないのはわかっているのに、いやだからこそ、間違えてると思うことを自分が行うのは、まるで開き直っているようでバツが悪くて、曖昧な正しさを選びたくなってしまう。そして癒えることのない傷を負う。要領よくやるだけだったらもっとうまくできるのに、そういう下手くそな男がメッチャ好き。

■日のないところに煙は

筆者が実際に聞いた、という体で語られる、実話怪談形式の短編集…と見せかけて、最後にすべてを美しく接続し、読者の現実を侵食するような恐怖でたたみかけてくる。読んでしまったら最後、我々もこの物語に取り込まれてしまうんですね。読了後、「榊」で検索をかけ、絶望するところまで含めていい読書体験です。一番好きな話は「お祓いを頼む女」です。

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