見出し画像

【時に刻まれる愛:2-19】最後の手紙


宝の在処

ボクだけの秘密基地。その小屋の床に刻まれた薔薇の模様から、第五のヒントを手に入れた。

城のボクの部屋で見つけた第四の封筒には、手紙しか入っていなかった。

でも今度は手紙だけじゃない。懐中時計とカードも入っている。
封筒を開けなくても、触った感じでそれが分かる。

ボクはゆっくりと封筒を開けると、まずは手紙を取り出した。

この小屋で過去と対決したばかりのボクは、この手紙の内容を読むことに少し緊張した。果たして、どんなことが書かれているのか。

ボクはまず、手紙の内容を読む前に、手紙の冒頭にお決まりの番号を記した。今回で手紙の番号は「No.5」となる。

それからボクは、一度だけすーっと深呼吸をすると、手紙の内容に目を通した。

手紙にはこう書かれていた。

No.5

拓実。

過去と向き合ったのは、辛かっただろう。
お前のことだから、色々と考えたことだろう。

だがな、もう良いんだ。
もう過ぎたことだ。先に進みなさい。

私にも過ちを犯した時期があるよ、拓実。
お前のお祖父様に対して、私も嘘をついたことがある。
決して誇れない。

私も、後悔したさ。お前と同じだ。
打ち明ける前に、お祖父様が亡くなってしまったから。

きっとお前も後悔をしているんだろう。
だが、もう良いんだ。前に進もうじゃないか。

人は完璧じゃない。
でも、失敗と向き合って前に進めば良い。
私たちは、成長できる。

世の中には、変えられるものもある。
私は、そう思っている。
きっと、この手紙を読んでいる頃、お前もそう思っているのではないだろうか。

もう自分の過去と向き合うのは十分だろう。
私からの最後のテストは合格だ。

この城は、お前のものだ。

さて、この手紙と一緒にカードと時計を同封した。
ヒントはこれで揃ったはずだ。

最後に、この城の主となったお前へ、私の書斎を贈ろう。
これからは、あの部屋が、お前の場所だ。

お前が・・・、立派な大人になって、真実に辿り着いてくれることを祈っている。

拓実、
守り抜けなかった私を、どうか許してくれ。

この城で最後の夜に、この手紙を書いている。
あとは、この手紙をお前が見つけた場所に残して、私はこの城を去る。

もう、やるべきことはそれだけなのに、私は動揺している。
先ほど、真夜中だというのに、グラスを手から滑らせてしまった。
やはり、落ち着かない。

お前のこと、お母さんのこと、みんなのことが心配だ。
心残りだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

あと少し、書斎から月夜を眺めて、心を落ち着けたら、私は去る。

守り抜けなかった私を、どうか許してくれ。
しかし私は、いつまでもお前を見守ることにする。理想の形では無いかもしれないが。

元気でな、拓実。

追伸:

夢を追う二人の親子は、
まるで円盤を駆け巡るように
永遠に時の中を周り続けるのだろう。

時間とは、数字であり、
それは時に、残酷なものだ。

手がかりは、いつも裏側にある。

親子の間に刻まれた時間を、
正しく見つめ直すのだ。

勝者

ボクが予感していた通り、やはりこれが最後のヒントになりそうだ。
手紙の内容から、それが分かる。

このNo.5の手紙は、今までで一番、父の気持ちが素直に書いてある。

それを読んで受け止める自分の気持ちよりも、これを書いた父の気持ちの方に胸が苦しくなった。

父のことを思うと、それはあまりに孤独で、あまりにやりきれない気持ちだった。

色々な感情が込み上げてきて、なかなか整理ができない。
そんな時は、逆に冷静になろうと努めるものだ。

ボクはとりあえず、手紙の内容に書かれている、あることが気になった。

さて、この手紙と一緒にカードと時計を同封した。
ヒントはこれで揃ったはずだ。

ボクは、第五の封筒からカードを取り出した。
そして、これまでと同じように、No.5の手紙の裏にそのカードの内容を書き写した。

中にある
3rd

「・・・。
 これで、ヒントは全部なのか?」

ボクは胸ポケットから、No.1からNo.3までの手紙も取り出した。

No.4の手紙にはカードは同封されていなかったから、No.1からNo.3までの手紙の裏と、今回のNo.5の手紙の裏に、それぞれに同封されていたカードの内容がメモしてある。

ボクはそれらを、小屋のテーブルに広げて見てみた。

一つ目のカードの内容。

宝は
1st

二つ目のカード。

お前がかち
4th

三つ目はこれ。

お前の
2nd

そして、今回の四つ目のカード。

中にある
3rd

「あぁ、そういうことか。」

こうして見てみれば、すぐに分かる。

1st、2nd、3rd、4thの順番に言葉を並べてみれば・・・

「宝はお前の中にある。お前が勝ち。」

「・・・なるほどね。

 今なら分かるよ。
 お父さんの気持ち。
 言いたかったこと。

 ありがとう。」

父は、ただのモノとして城を継承したかったわけではないのだろう。

そこに受け継がれるべき意志、責任、血筋。
刻み込まれた歴史。

それらをしっかり理解させた上で、ボクに継がせたかったのかもしれない。

もう、直接それを教えることはできないから、こんな謎めいた方法で、ボクを過去と向き合わせたのかもしれない。

ただ、ボクの中で少し何かが引っ掛かっている。

果たして、これだけだろうか?正直に言って、何か物足りなさを感じる。

No.5の手紙の内容から察するに、父の書斎に、もう一歩何か先がありそうだ。

「最後は、書斎だな・・・。」

次の場所に向かおうと思ったその時、ボクはもう一つやることを思い出した。

真夜中の揺らぎ

第5の封筒に入っている時計も確認しないと。

ボクは封筒から時計を取り出した。

「これは・・・懐かしい。間違いない!」

これまでのヒントに同封されていた三つの懐中時計は、ボクにとっては見慣れないものだった。何となく、父のものなのだろうと思ったくらいだ。

しかし、今回の懐中時計には見覚えがあった。
時間に正確な父が、日頃からよく、この懐中時計で時刻を確認していた。

懐かしかった。

もう動かなくなったその懐中時計を、ボクはこれから自分が使おうと決めた。すべてを終えたら、また動くように直そうと。

その時計が示す時刻を、カードと手紙の裏にそれぞれメモした。

「・・・3時25分。」

ボクは直感した。

さっき読んだNo.5の手紙の一節。

先ほど、真夜中だというのに、グラスを手から滑らせてしまった。
やはり、落ち着かない。

お前のこと、お母さんのこと、みんなのことが心配だ。
心残りだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

あと少し、書斎から月夜を眺めて、心を落ち着けたら、私は去る。

この一節と、ずっと昔に爺やから聞いた話がボクの中でぴったりと繋がった。

昔、爺やは、こんな話をしてくれたことがあった。

『あれは、、、

 実際に、こちらの家へ
 坊っちゃまたちがお引っ越しされる
 1週間ほど前のことでした。

 夜中に、お父上の書斎で
 物音がしたので見に行くと、
 お父上は窓を開けて、
 外を眺めておられました。

 何か、声をかけようと思ったのですが、
 考えごとをしているのでしたら
 お邪魔になると思い、
 私はそっと扉を閉めたのです。

 それが、お父上の姿を見た、
 最期となってしまいました。』

・・・そういうことだったんだ。

爺やが聞いた物音とは、父がグラスを落とした音だったんだ。
そして爺やがそっと覗いた時には、父は窓から最後の月夜を眺めていたんだ。

ボクの人生に点在していた様々なヒントが、時を超えて一つの線で繋がっていく。

やはり、最後は父の書斎だ。
そこに、何かがある。本当の答えが。

小屋の外から、鳥の美しい歌声が聞こえた。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?