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【時に刻まれる愛:3-1】父の机の謎

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本物の冒険

城の3階。その長い廊下の一番奥に、父の書斎がある。

森の小屋で見つけた父からの手紙には、この城で過ごした父の最後の夜の出来事が書かれていた。

その内容からボクは、父の書斎に最も重要な何かが隠されているのではないかと考えて、今、その書斎の前まで来たのだ。

城の3階は、ボクらが家族の居住スペースとして使っていたフロアだ。

廊下の一番奥にあるのが父の書斎。ボクは今、その扉の前に立っている。

この隣には、父と母の寝室があり、さらにその隣には母の部屋がある。
ボクが子供の頃に使っていた部屋は、その母の部屋のさらに隣にある。
先ほどそこは調べた。

さて、父の書斎だ。
ボクはその大きな扉を開く。

あの頃のままだ。
父の書斎は、ボクや母の部屋よりも少し広く造られていた。

まだこの城の時が動いていたあの頃、父のこの書斎には人がよく出入りしていた。執事たちが入れ替わるようにこの部屋に来ては、父から何かの指示を受けたり、父の手伝いをしたりしていた。

ボクも、よくここに来るのが好きだった。
父と過ごす時間はボクの宝物だったから。

それからボクは、この部屋の雰囲気がとても好きだった。
今も、あの頃と変わらない。

部屋の中の様子は、ボクの冒険心を刺激した。
世界地図、地球儀、難しい科学の本、外国語で書かれたレポートの束・・・。

ボクが小屋で真似していた秘密基地。
その本物が、この父の書斎なのだ。

本当に懐かしい。

壁に貼られた大きな世界地図や、部屋の中央にある立派な地球儀を、ボクはゆっくりと眺めた。

部屋の隅には、背の高い鏡がある。
父はよくここで、ネクタイを締めたりしていた。

目を閉じれば、声が聞こえてくるようだ。
そうだ、この鏡の前で・・・。

「お父さん!」

鏡の前でネクタイを締めていた父に、ボクは聞いた。

「お父さんも、いつかは死んじゃうの?
 この本では、歳をとって死んだ人が出てくるよ。
 みんな、いつかは死んじゃうの?お父さんも?」

父は、視線を鏡からゆっくりとボクの方へと移した。

『お前はどう思うんだ?拓実。』

父は、低く優しい声で、ボクに尋ねた。

『拓実。世の中には、変えられないものがあると思うかい?』

父は、ネクタイを締めると、カバンを持った。

『世界を変えろ。拓実。』
『世界を変えろ・・・。』

・・・そうだ。この鏡の前で、あの話を・・・。

父がいなくなった後、ずっとその記憶を辿ってきた。
だから、今こうしてここに立っていると、父の声が聞こえてくるようだった。

ずっと昔のことではなく、つい先ほどの出来事だった気がして。

ボクと父。二人の愛が時を超えて再会したようだった。

ナンバー

父の書斎の机は立派だ。
きっと机そのものも、高価なものなのだろう。

ボクはNo.5とメモした手紙の一節を思い出した。

最後に、この城の主となったお前へ、私の書斎を贈ろう。
これからは、あの部屋が、お前の場所だ。

これからは、ボクのものなんだ。
この城も、この書斎も、この机も・・・。

それは嬉しさというよりも、責任の大きさを改めて感じさせるものだった。

ボクは、書斎の机をゆっくりと眺めてみた。

それから、手でも触れてみる。
少し触れただけでも、重たさを感じる。

机の立派な重厚感のせいなのか、それともそこに刻まれた父の歴史の重みなのか・・・。

ボクは自分の鼓動の高鳴りを落ち着けようと努めた。

何度か深く息をして、ボクはその机の椅子に腰をかけた。

机には左右に大きな引き出しが付いており、右側の引き出しの下には机と調和するキャビネットが置かれている。

ボクは、引き出しを開けてみることにした。

まず、左側の引き出しを開けようとしたのだが、これは開けられなかった。
左側の引き出しには鍵穴があり、鍵がかかっているようだ。

ここは後回しだ。

ボクは右側の引き出しに手をやった。

そこからは、すんなりと進んだ。
右側の引き出しや、キャビネットの引き出しは全て開けることができた。

ただ、これと言って大したものはなかった。

右側の引き出しには、高級そうな筆記具などが綺麗に収納されていた。

キャビネットの中も、便箋などの事務用品がしまってあった。

・・・となると、この左側の鍵のかかった引き出しが気になる。
ここには何か、大切なものがあるのだろう。

「鍵か・・・。」

ボクはポケットから一つの鍵を取り出した。
そう、爺やとボクが住む隠れ家で見つけた、父からの贈り物に含まれていた鍵だ。

「でもこれは、
 地下室の鍵だったよな。」

そう言いながら、その鍵を引き出しの鍵穴に差し込もうとしてみた。

どこかで、すんなり入ってくれることを期待していたが、やはりそうはならなかった。

まぁ、予想通りだ。
この鍵は、すでに調べた地下室の扉を開けるための鍵だったことが分かっている。

この左側の引き出しについては、気にはなるが、今はどうにもできないな・・・。

どうしたものかと机の様子を全体的に眺めてみた。

改めて見てみると、机の表面に奇妙な場所を見つけた。

机の表面。椅子に座って奥側。
何やら、小窓のような小さな扉が埋め込んであり、そのすぐ向こう側に4つのボタンが埋め込まれている。

1、2、3、4。

ボタンには1〜4の四つの数字がそれぞれ刻印されている。

「これは、
 絶対に解くべき場所だな。」

ボクはそう呟くと、胸ポケットからNo.5の手紙を取り出した。

ある一節の存在が、ずっと心に引っかかっていたからだ。

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