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【時に刻まれる愛:2-1】第一の手紙

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覚悟

この城の、象徴的な存在である大きな柱時計。

その裏側に隠されていた、父からの手紙を目にしていた。

手紙には、こう書かれていた。

拓実。

よく、ここに辿り着いた。

そして、この手紙を手にしているということは、私からの最初の贈り物については理解しているということだな。

父から子へ、受け継ぐものがある。
人生に終わりはない。
私のすべては、お前に受け継ぐことで永遠の時を刻む。

だが、お前にはまだ、伝えたいことがある。

先に進むのだ。

カードと時計を同封する。

人生には、行き詰まる瞬間がある。
そんな時、新たなヒントを得ようとする必要はない。
今あるものに目を向けろ。

拓実、
世の中には変えられないものがあると思うか?

真実を知りたければ、裏側までよく見ることだ。

物事には、見えている部分と見えていない部分がある。
立派な樹木を支えるのは、表に姿を見せぬ根の存在だ。

根を張り、強くなり、今あるものを見つめよ。
答えはそこにある。

父より。

相変わらず、独特な言い回しだ。

記憶の中での父の声が、ボクの心の中でこの手紙を読んでくれた。

低く、力強く、安心感のある、父の声だ。

手紙の冒頭に書かれている、

最初の贈り物

とは、この城のことだろう。

その後にも、受け継ぐ、という言葉が使われていることからも、それが判断できる。

「あぁ、お父さん。
 分かっているさ。」

ボクは呟いた。

しかし、二度目に慎重に手紙を読んでみると、いくつかのフレーズが気になった。

人生に終わりはない。
私のすべては、お前に受け継ぐことで永遠の時を刻む。

こういう言い回しを見ると、やはり父は自分の死を覚悟していたということなのだろう。

手紙にあるように、ボクは父から、その人生を受け継いで、強く生きて行こうと思えた。

時を超えた手紙のやり取りであっても、父がここにいる気がするだけで、ボクは前に進めそうだと思えた。

そう、幼い頃、父がそこにいると分かっただけで、安心して走り回れていたように。

カード

手紙を読み終えたボクは、次にカードに目をやった。

その手紙と同じ封筒に入っていたカードだ。

手のひらに収まるほどの小さなカードだった。
そこには、こう書かれていた。

宝は
1st

手紙に比べると、シンプルすぎて逆に分からない。

この謎解きをするのは、今ではないと思った。

ただ、今の段階で分かったこともある。

おそらく父は、この城の中に、複数のヒントを用意している。

先ほどの手紙でも、

だが、お前にはまだ、伝えたいことがある。

先に進むのだ。

という一節があった。ということは、続きがある。

このカードにしてもそうだ。

宝は

という単語で終わっているから、続きがあるのだろう。

それに、1st、という表記も気になる。

1st、つまり一番目があるのだから、やはり続きもあるのだろう。

「さてと・・・。」

ボクは、少しワクワクしていた。

ここまでにボクが見つけた手紙は二つある。

隠れ家の書物庫の奥で見つけた最初の手紙と、この城で見つけた先ほどの手紙。

隠れ家で見つけた最初の手紙には、こういう一節があった。

さまざまな事情で、私の家は捜索される可能性があったから、
すぐには分からないように隠してある。

お前なら、辿り着けるだろう。
私の、本当のメッセージへ。

メッセージを隠す事情は分かるけど、父らしい迷路を用意したものだなと、少し可笑しかった。

幼い頃、父から『君に、課題を与えよう。』と言われた時のことを思い出していた。

なんだかワクワクしてくる。

あるいは、10歳の頃、学校に行けずに塞ぎ込んだ生活をしていた時に、爺やとチェスをやった時のことも思い出した。

『申し訳ございませんな、坊っちゃま。チェックメイトですぞ。』といつも不敵に笑う爺やに対して、ボクは何度でも挑むのが好きだった。

たくさんの思い出が、ボクと、この城の中を駆け巡っているようだった。
動いていなかった時計の針が、動き出したように。

そんなことを考えていたら、もう一つのヒントのことを思い出した。

懐中時計

この城に着いてから見つけたヒント。

玄関の正面の、大きなホールにある、この城を見守る柱時計。
その裏側にあった、父からの第一の封筒。

その中身は三つあり、手紙とカードについては確認をした。

あと一つ、小さな懐中時計が入っていた。

「どれどれ・・・。」

この城に帰ってきてから、ずっと独り言だ。
爺やと守衛たちは、外で周囲を警備している。

でも、独り言には慣れていた。
隠れ家での孤独な生活では、ずっとそんな感じだったのだから。

そこにあるのは小さな懐中時計。
父の物なのだろうか?

そういえば、今は何時だろう?
ボクは自分の腕時計を見た。

城の中に入ってから、ずいぶんと思考を巡らせていたが、腕時計を見るとまだ一時間も経っていなかった。

「あれ?」

ボクはまた独り言を呟いた。

たまたま着けてきたボクの腕時計と、この懐中時計では、示している時間が違う。

「ふむ。」
そう言いながら、確認すると、懐中時計は止まっていることがわかった。

どうやら、壊れた懐中時計のようだ。

何の役に立つのかは分からないが、とりあえず先ほどのカードに、懐中時計が示す時刻も記録した。

カードの内容は、こうなった。

宝は
1st

12時10分。

「カードと、時計は、
 分からなすぎるな。

 一体、何だって言うんだよ、
 お父さん・・・。」

ボクは、まるで手紙の中の父と会話をするように、そう呟いていた。

さて、先に進むには、謎を解く必要があるな。

ボクはもう一度、カードや懐中時計と同封されていた手紙に目を移した。

手紙の中で、まだほとんど考察していない部分がある。

それは、後半部分だった。

拓実、
世の中には変えられないものがあると思うか?

真実を知りたければ、裏側までよく見ることだ。

物事には、見えている部分と見えていない部分がある。
立派な樹木を支えるのは、表に姿を見せぬ根の存在だ。

根を張り、強くなり、今あるものを見つめよ。
答えはそこにある。

前半部分は、城の継承のことや、この手紙には続きがありそうなことを示していそうだ。

それについては考えた。

だが、この後半部分については、謎めいていて、まだ何も考えていなかった。

真実を知りたければ、裏側までよく見ることだ。

この一節は、これまでにも度々出てきたフレーズだ。

ただ、この部分は、一体、何を意味しているのだろう。

物事には、見えている部分と見えていない部分がある。
立派な樹木を支えるのは、表に姿を見せぬ根の存在だ。

根を張り、強くなり、今あるものを見つめよ。
答えはそこにある。

「立派な樹木っていうと、、、中庭か・・・。」

このホールを通り抜けた先に、城の中庭がある。

その中庭には昔から、一本の大きな木が植えられていた。

ボクは、十年ぶりにその中庭まで歩いて、その大きな木の前に立ってみた。

「立派な樹木を支えるのは、
 表に姿を見せぬ根の存在・・・。

 んーー。

 どういう意味だろうか。

 樹木に対して、
 根の存在・・・?

 地下?」

その時、一瞬だけ、ボクの中に何かがフラッシュバックした気がした。

はっきりした思い出ではない。
感覚的に、何かがよぎった。

「地下室・・・。」

もう、吹けば飛ぶような、頼りない、うっすらとした記憶なのだが、確かに、この城で・・・地下室が・・・。

ただ、それがどこにあったのか、どうしても思い出せない。

「あー、くそ!」

そう言いながら手紙に目を落とすと、やはりこのフレーズが飛び込んできた。

真実を知りたければ、裏側までよく見ることだ。

「まさかね・・・。」

ボクはそう言うと、その立派な大きな木の裏側に行ってみた。

まさか、その木の裏側に何らかの入り口でもあるのかと期待をしたのだが、木を裏側から見ても、同じ木であることしか分からなかった。

「一体、どうすれば・・・。」

そう言いながら、中庭から城に戻ろうと歩き始めた時、ふと、自分の左側の柱が気になった。

ちょうど城と中庭をつなぐ出入り口の両側に、城を支える太い柱がある。
城の柱なので、もちろん石造りの柱だ。

この城を支える柱は太く、その外周の大きさを円に描けば、その中に大人が数名は入れるだろう。

中庭側から見ると、他にも等間隔に同じ太い柱があるのがわかった。

ただ、今ボクが見ている左側の柱、その一本だけは、何か様子が違ったのだ。

その柱は、石の種類が他の柱とは違うようで、他の柱よりも、少し透き通ったような白っぽいような色合いで、光沢もある感じがした。

念の為、その柱の反対側に回り込んでみた。

すると、驚いた。

城から中庭に対して、つまり表側からその柱を見ている時には、その柱は、他の柱と何ら変わらない様子なのだ。

つまり、表側だけは他の柱と同じ種類の石で造られていた。

ところが、中庭から見た場合、つまり裏側から見た場合には、明らかに他の柱とは違う様子に見えるように造られていたのだ。

「真実を知りたければ、
 裏側までよく見ること・・・か。」

ボクは苦笑いをした。

その柱をよく調べると、 柱の石によく似た色で、取っ手が付いていた。

「表からでは気付けない。
 裏側に来て、
 初めて気づく。

 さらに、
 よく見つめないと
 この取っ手には気づかない。

 それこそ根をしっかり張るように、
 こうして近づいて
 見つめないとね。
 
 手紙の通りか。

 やられたよ、お父さん。」

ますます苦笑いしながら呟くと、ボクはその取っ手を思い切り引いた。

思った通り、地下室へと続く階段の入り口が、その柱に隠されていたのだ。

眠れる部屋へ

その長い階段を、慎重に降りて行った。

階段を降りるほど、ひんやりと感じた。

階段の一番下まで着くと、そこにはまた扉があった。

ボクは、その扉を開けようとしたのだが、鍵がかかっているようだ。

「おいおい、
 これじゃ、中には・・・。」

そうボソッと呟いた時、思い出した。

「鍵って、これか?」

ボクと爺やが住む隠れ家で見つけた、父からの贈り物。
家の権利書と、鍵。

てっきり、その鍵は、この家の鍵だと思っていたのだが、まさか・・・。

よくよく考えてみれば、この家は、まさに城であり、常に守衛が警備している。

もちろん正面玄関にも、常に守衛が立っている。

父が生きていた頃には、何名ものお手伝いさんたちが絶えず出入りをしていたし、玄関の鍵など、そもそも存在していたかどうか・・・。

「・・・ってことは・・・。」

ボクはそう言いながら、ポケットから例の鍵を取り出すと、その扉の鍵穴に差し込んだ。

・・・ガッチャン・・・。

まるで、その扉が、ゆっくりと正解を告げたかのように、鍵が開く音がした。

それからボクは、その重たい扉を開けた。

「こ、これは・・・!!」

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