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愛に形があるなら、それは君の形をしている。

10月1日の月の形をよく覚えている。

妙な解放感と寂寞感を募らせながら、東京体育館を出てすぐに見上げたあの日の月は満月でも新月でもなく、不思議な気高さを持ってただそこにあった。

私は月を見上げるのが好きだ。月は変わらない優しい光をまとってただそこにある。月は毎日少しずつ欠けたり、満ちたりして姿を変えていく。けれど、また時が経てば、同じ場所に現れる。変わっていくものの中にも変わらないものがある、ものを言わぬ安心感に縋りたくて、月を見上げる。

月がただそこにある。その事実がどうしようもなく私をすくいあげる。

ソロコンサートが決まった日のことを覚えている。

駅で友達と別れの挨拶をしていた時に、メールで開催が決まったことを知った。コンサート当日は涙が溢れなかったのに、開催が決まった時はどうしようもなく涙が溢れて止まらなかった。どこまでも彼は有言実行の人で、「世界中のEXO-Lに会いにいく」という彼の言葉は本物だった。友達に見せたことの無いほどの大号泣が少し落ち着いた頃、この幸せを今すぐ誰かに分け与えたいという気持ちに突き動かされ、友人に期間限定のほうじ茶フラペチーノを奢った。自分のフラペチーノは紙でできたストローがすぐしなしなになって、まともに味がしなかった。

彼が選んでくれたプレゼントのような曲たちを覚えている。

SMTのセットリストが外側なら、今回のセットリストはとことん内側を向いたセットリストだった。彼と彼のことを好きな人だけで埋め尽くされた空間であること。それについての本質的な理解。CurtainとStarryNightのあとのMCで彼はその二曲の有機的なつながりについて話してくれた。「相手が恋しい夜に、部屋のカーテンを閉じて、相手のことを思い浮かべる。みなさんもそうしてEXOを思い浮かべた夜がありましたよね?」と彼は聞いた。愛し愛されることが当然のように彼は話す。私が彼を思い浮かべながら眠った夜が記憶の海から漂流物のように打ちあがる。彼は愛すことのプロだ。愛されることのプロでもあった。

常に何かを証明しようとしている彼を覚えている。

彼はいつでも、誰かに何かを証明しようとしている。多分アイドルになることを決めたあの日からずっと。自分の存在意義を。行動の理由を。誰も何も言っていないのに、急に弁明しだす彼が好きだ。泣きたくなるほど、彼は素直だった。オープニングの曲をもう一度やり直すことになったとき、悔しさを隠そうともしなかった。自分に素直で、ステージにもそうだった。

「EXO」の「リーダー」であった彼を覚えている。

彼の最初の挨拶、「EXOの、そしてみなさんのキラキラリーダースホです!!!」という自己紹介。最後の挨拶でも「EXOのリーダースホ」であり続けた彼。彼が10年にわたって背負ってきた、リーダーという職責。それは今では彼の矜持であり、アイデンティティなのだと思う。

彼のリーダーについてのインタビュー記事の中で好きな言葉がある。

「僕はEXOというワゴンを前から引く人でもないし、後ろから押す人でもない。ただ、このメンバーをこのワゴンに集める人だ。僕の話をするよりは、できればメンバーたちの話に耳を傾けようとしている」

https://t.co/3rb6MMKOWk

彼はメンバーをEXOというワゴンに集める人だと自らを表現する。
彼が除隊してから、EXOのグループ活動は確実に増えた。全世界のEXO-Lに会いにいくという言葉通り、全世界をフェスティバルで飛びまわり、日本ではソロコンを開催してくれた。「彼の言うことなら信じられる」と当たり前のように口にしそうになるけど、それは彼が確かなものを積み重ねてきたからに過ぎない。

一方、もっと彼自身の話を聞きたいとも思う。私は彼の陰に映るメンバーではなく、ほかでもない彼に会いに来たのだから。ソロコンの準備の話、日本で食べたもの、曲作りの裏話。いつか話したくなったら、もっと聞きたい。

彼がEXOについて言及し続けること、それとは別にもっとあなたの話を聞きたいこと、矛盾し続けるふたつの感情の間で揺れていられることの幸せ。

彼を応援することは自分を好きでいることに似ている。
自分からの見え方に過ぎないのだけど、私とスホさんは考え方とか物事の捉え方が近いと感じる。
例えば、結果と同じくらい過程を大切にするところ。自分のことは好きだけど、他人から見える自分がどう見えているかに自信が無いところ。努力をすれば、報われることもあることを知っているところ。たぶん、私が自分のことを好きでいられなければ、彼のことも好きでいられないだろうと思う。私は彼が好きな自分が好きだ。

一方で全然違うと感じるところもある。
時折、彼はすべてを知ったような発言をする。それでいて、いつまでも虎視眈々と上を狙いつづける野心を秘めていて、突然想像もしないような行動に出たりする。
彼のことはいつまでも「わからない」から好きだ。知れば知るほど、奥行きがあってもっと好きだ。

似ていると感じる部分があるから応援したくなるし、全然違う所があるからもっと知りたくなる。

ソロコンからもう一週間がたった。
月を見上げると、ほぼ満月に近づいている。私の寂しさに反比例するように、どこまでも丸く綺麗な月だった。この月はこれからもう少しだけ満ち、そして少しずつ欠けていくのだろう。そしてまた、あの日の月の形で空に浮かぶ日も来るのだろう。

彼が「また会いましょう、約束」と言ったから。
彼は同じように、ステージに立ってくれるのだろう。
いつの日になるかはわからない。
けれどなぜか、根拠の無い信頼に身を委ねている不思議な充足感がある。

こんな日は、届かない月に手を伸ばしたくなる。たくさんのペンタイトに照らされ光るキムジュンミョンという月は私の生活の中で、満ちてやがて欠け、私の前にまた姿を見せる。

世の中は変わりゆくけど、変わらずそこにあるものがある。それがあなただと信じられる時間がもう少し長く続くことを願っている。

愛に形があるなら、それはきっと君の形をしているから。


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