Yに

去年の今日,大事な友人が亡くなった.

昨年第一報を聞いた時,大江健三郎『日常生活の冒険』の冒頭を思い出した.
その後,彼女に対して長い手紙を書いたけれど,書き終わることができなかった.
ワインが好きで,ゴートチーズが好きで,マルシェを回るのが好きで,ごま油が好きで,都会が好きで,海が好きで,自分の髪型が好きで,女性っぽいひらひらした服装が好きで,ヴェルディが好きで,村上春樹の好きな人だった.
一番最初に会った時,私はいつものように遅刻していて,地下鉄の階段を昇った所にいて「連絡してくれればよかったのに」と不機嫌そうに言った.
実家に帰るのは好きだけど,いつも母親と喧嘩してしまう自分の拙さを後悔すると言っていた.
リュックにいれた荷物を,たまに取り出して整理しながら生きるのだ,と言っていた.自分で杭を打ち込んで,それにしがみついて,自分を尊んで生きるのだ,そうしないと流されてしまう,と言っていた.

常識に囚われずに,自分の言葉で考える人だった.自分の周りにはちゃんとした大人がいなくて,村上さんの言葉で大人になるというのはどういうことなのかを考えてきたのだ,と言っていた.私にとっては,彼女が大人になることはどういうことなのかの一つの例だった.

「私があなたに求めていることはたったひとつ」
「あなたには私のことを覚えていてほしいの。あなたさえ私のことを覚えていてくれれば、ほかのすべての人に忘れられたってかまわない」
(海辺のカフカ)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?